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87.大乱戦

 次から次に敵が来るの辛いとオッサンは思ったのだ




 遠くから順番に「風火弾」が着弾し、辺りに爆風と轟音が連続して響き渡る。

 爆発の余波が収まる頃には、大半のソルジャーアントが痛手を負って動きを止めていた。すでに死んでいるものも多いだろうが、爆音で動きが止まっているだけの個体もいるだろう。手早く処理してしまわなければ。


 誰に指示を出されるでもなく、近くにいる者たちが次々と魔物にとどめを刺してゆく。

 これで後は「水流壁」に流されず踏ん張ったソルジャーアントを片付けるだけだ。

 そう思ったとき、グランツが激しく吠え立てた。


「……これは」

「何? 何の音?」


 重々しい音が遠くから聞こえてくる。その音にシェリーが焦燥感をにじませながら川上を見つめる。

 この音、まるで滝の落ちるような――。


「みんな私の後ろに集まって! 石壁!」


 私は大声で全員に警告を発し、次々に「石壁」を展開、鋭い頂点を持ち底辺のない二等辺三角形の防壁を作り上げた。グレイシアとシェリーも私の意図に気づいたらしく、それぞれ「石壁」と「土壁」で私の築いた防壁を後方に延長する。


 獣人たちも含め全員が壁の内側に集まった次の瞬間、地響きを伴って濁流が押し寄せてきた。

 防壁は何とか激流の直撃に耐えたが、全てを受け止められるわけもなく、大量の水が壁の内側に降り注ぐ。そして入り込むのは水だけではなかった。


「くそっ! 蟻まで流れてきやがった!」


 私の後ろで獣人の男が声をあげる。防壁を越えたソルジャーアントは、その勢いのままに私の頭上をも越え、後方に位置する獣人たちの所に落下した。それと同時に襲われた者の悲鳴も聞こえてきた。


「風圧弾!」


 振り返ると、黄虎の族長に殴り飛ばされたソルジャーアントにアルジェンタムが魔法を撃ち込んで倒したところだった。

 族長はともかく、真っ先にアルジェンタムがこの状況に対応してみせるとは驚きだ。


 そして彼女の働きは獣人たちを正気に戻すのに十分な効果を発揮したらしく、壁を越えて入り込んだ魔物は次々に撃破されてゆく。

 防壁の幅が狭いため、侵入する蟻の数が少数で済んでいることもプラスに働いている。


「よし、このまま対処――」


 黒狼の族長が指示を出しかけたところで、防壁に何か重くて硬いものが激突したらしき轟音が響き、それに耐えかねた石壁が割れ砕けた。


 濁流が崩壊した防壁を飲み込み、我々はなすすべもなく流される。

 だが、しばらく壁内で持ちこたえたからか、水の流れは程なく落ち着き、私は上体を起こすことができた。

 まばらに草が生えた平原だった場所はすっかり泥に覆われて、ぬかるみになってしまっている。


「みんな無事か!」

「誰か欠けてないか確認しな!」


 族長たちの声が聞こえる。グレイシアも子供たちの無事を確認しているようだ。しかし、私は後方の確認はできない。それより先に魔物に対処する必要があるからだ。


 ソルジャーアント――いや、クイーンアントに率いられたジェネラルアントとソルジャーアントの群れが目前に迫っていた。数など数えたくもなくなるほどだ。

 やつらは川の流れに乗って現れた。防壁にぶつかったのは魔物の乗っていた「石の船」だったのだ。


「水流壁!」


 疑問は尽きないが、それは後回しにする。

 私は魔法を発動、泥濘に覆われた地面から水分だけを抽出し、水の壁を作り出した。

 横方向に激しく流れる「水流壁」が魔物の動きを川の本流へと押しやる。それと同時に、大した範囲ではないが泥が土に戻り、多少は移動がしやすくなったはずだ。


 グレイシアも私の意図を察し、「水流壁」を私のそれに継ぎ足すように発生させた。おかげでさらに時間を稼げるだろう。


(しかし、魔法を使わされすぎた……)


 ここに至るまでに、初級中級あわせてすでに九回も魔法を使っている。すでに私の魔力は半分を下回っているだろう。


 回復役はコナミに任せられるとはいえ、そう何度も「回帰」を使わせるわけにもいかない。おそらく、あと三度も使えば彼女は魔法を使えなくなる。


「金狐の方々! 私が合図したら『火弾』を魔物に打ち込んでください!」


 となれば獣人たちの力を借りるのが得策だ。

 私の指示に応え、狐の獣人たちが魔法を使うべく態勢を整える。それにあわせ、最低限の護衛を除いた獣人の戦士たちが最前線に移動してきた。


「皆さん、耳をふさいでいてください」


 私は少し後退しながら前衛たちに、そう声をかける。


「…………いま!」


 水の壁に抗い乗り越えようとするソルジャーアントとジェネラルアントがある程度まとまったところで、私はその少し上方を指差し、金狐族の魔法使いたちが「火弾」を次々に発射する。

 それは魔物たちの上空を通過する軌道を描いている、がそうはならない。なぜなら私がそこに水素と酸素をできる限り集めておいたからだ。


 次の瞬間、水素爆発が起きる。轟音が轟き、爆炎が「水流壁」越しに我々を赤く照らす。水の壁で殺しきれなかった衝撃波と熱風が辺りをなめ尽くし、爆心地周辺の魔物を残らず砕き散らした。


 爆発が収まり、後方から風が戻るのを感じながら、私は「水流壁」の流れる方向を変え、熱風にさらされた仲間たちに降り注がせた。多少の火傷はあるだろうが、何とか我慢していただきたい。


「ぶっは! すげえ!」

「蟻どもが一気に消し飛んだぞ!」

「われらの『火弾』であれほどの威力が出るとは……」


 周囲の獣人たちの歓声をよそに、私は爆発跡を見据える。駆け寄ってきたグランツも警戒を解かない。ということは――。


「まだ終わっていない! 気を抜くな!」


 黒狼の族長の言葉で一斉に緊張感が戻る。さすがは戦士の部族の精鋭だ。


「くるぞ!」


 黄虎の族長が叫び、前衛の獣人たちが扇状に隊形を変化させる。大物を囲む形。ソルジャー、ジェネラルがほぼ一掃されれば、次に出てくるのはクイーンアントだからだ。

 そしてその備えは当たり、地響きを立てて迫る女王蟻への対応を容易にする。


 先陣を切るのは二人の族長。黄虎の族長はここを勝負どころと見たか、手足を獣化させ鋭い爪でクイーンの目を狙う。黒狼の族長は女王の足元を駆け抜けざま、堅実に足の一本に蹴りを入れる。

 彼らの攻撃がわずかに巨体の前進を躊躇させ、さらなる追撃の好機を生み出した。


 ここで飛び込むのはグランツだ。電撃を身に纏い、クイーンアントの胸に頭から激突する。行きがけの駄賃とばかりに喉元をも爪で引き裂きながら、彼は一跳びで女王の懐から離れ、反撃を軽くかわしてみせた。相変わらず凄い身体能力だ。


 感電し動きの鈍ったクイーンに獣人たちが殺到する。爪で、牙で、拳で、蹴りで、次々にダメージを与えてゆく。そして反撃が来る頃には後退してやりすごし、再び前進して攻撃を加える。


「さっきの、もう一発いきますよ」


 前衛たちの奮闘を見守りながら、私は再び金狐族に指示を出す。彼らは力強く首肯を返し、魔力を練り始める。これで決めるのだ。


「おらあぁ!」


 黄虎の族長が雄叫びをあげて女王蟻の片目を打ち砕き、衝撃で棹立ちになった魔物の前進が完全に止まる。


「下がって! ……いま!」


 前衛が私の声に従って全力で後退する。そして私はクイーンアントの頭部周辺に水素と酸素を集め、狐の獣人たちにそこを指差して攻撃を促した。


 同時に放たれた五つの「火弾」が水素と酸素に着火し、女王蟻の頭を中心に炸裂音を響かせた。


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