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84.獣人たちへの魔法指導

 オッサンはゆっくり観光したいなあと思ったのだ




「名もなき神の魔石、か……」

「実際のところ探しようもないだろうのう」


 黒狼と金狐の族長がつぶやく。確かに現状、何の手がかりもない。


「ソウシ、お前はどう考えているんだ?」


 グライに問われ、私はしばし考える。私が常に想定していることは何か。


「最悪の事態を想定して動くべきだと思います」

「最悪の事態?」


 私の発言の真意を測りかねたのだろう、黄虎の族長が疑問の言葉を漏らす。


「はい。つまり、これまでの流れ全てに『名もなき神の魔石を持ち去った人物』の意思が介在している場合です」


 私は続けて説明に移る。

 つまり魔物の段階的な侵入が何者かの意図したものであり、その何者かが「神の魔石を持ち去った人物」である。


 であれば、現在は調査の段階であり、大規模な侵攻を企図している可能性がある。

 魔法の適性が低い獣人族を攻めるなら、数をそろえて一息に押し潰す。そういった手順を踏んでいるのではないか、ということだ。


「……悔しいが、お主の言うことにも一理あるな。我等は接近戦には強いが、魔法に関してはそのほとんどを金狐族に依存している。数を恃みに攻め寄せられれば、手が足りなくなるは必定」


 私の「最悪の事態の想定」を聞いて、皆が苦虫を噛み潰したような表情で押し黙る中、黒狼の族長が肯定を口にする。おそらく誰もがそういった懸念を抱えていたのだろう。そうでなければ真っ先に反論が出てくるのが自然だ。


「……なんで、そんなことをする意味がある?」


 それでも黄虎の族長が疑問を口にする。

 それも当然だ。何故わざわざ攻撃を仕掛けるか、という部分が私の想定からは抜けているのだから。


「『昇級』です」

「昇級……?」

「……ま、まさかっ」


 付け加えた私の一言に、あらたな疑問が増えたと首をひねる黄虎の族長。だが、一瞬後には答えにたどり着いた人も複数いたようだ。


 ここで私が付け加えた「昇級」という言葉の意味。それは人が魔物を倒すことで昇級するのと同じように、魔物も他の生物を殺せば昇級できるのではないか?ということだ。

 そして我々はその実例を知っている。そう、グランツだ。

 さらに言えば同種と思われる魔物にもいくつかのランクがある、つまりスマイルの上にアンガースマイルがおり、それは昇級したものではないかと言われていることともつながる。オークにおけるリーダー、キングもおそらくは同様の事例といえるだろう。


 これらのことから、魔物の襲撃が何者かの意思で行われている場合、求める結果は「昇級すること」と考えられる。


 これが私の想定する最悪の状況だ。


「……では、現状で対処するにはどうすればよいのかの?」


 金狐の族長が私に問う。問題の提起だけでは片手落ちだということだろう。


「一つは探索者を雇うこと。もう一つは現有戦力の中で使える手段を増やすことですね」


 前者は誰もが思いつくことで族長たちも頷いていたが、後者には疑問がある様子だった。

 そこで私は現実的な手段として、これまで私が考え出したアレンジ、あるいは融合魔法で獣人族に可能であろう物を挙げた。


 具体的には火属性の魔法に風を送ることで火力を高めることと、地属性の魔法の使い方だ。特に「土壁」「石壁」の様々なアレンジと、打ち出さない「石弾」「石槍」による坂茂木作成は慣れれば有用であると説いた。


 それぞれの魔法をどういった状況で使ってきたか、という体験談を交えた説明は一定の説得力を持っていたらしく、特に地属性を使える者達にはそれなりに受け入れられたようだ。

 納得顔で頷いてくれているのは嬉しい限り。


「みな納得したなら、ソウシが想定したものについての対策はこれでいいな。……では、次はこれらの前提から具体的な人員選抜とローテーションの取り決めに移る」


 グライの言葉で会議は続く。

 ここから先は私が口を出すべきことはないだろうから、おとなしく傍聴しておくとしよう。




 会議で決まったのは以下のとおりだ。

 各戦士の部族から二名ずつ五名で一チームとして十チームを編成、首都北西の黒狼族の村から北東の赤熊族の村までの範囲をくまなく捜索する。


 戦士以外の部族は、農地および首都内に問題がないかを確認する。

 探索者団「妖精の唄」に魔物の捜索への協力、および魔法に関する指導を依頼する。


 ということで、私とグレイシアは会議の後、魔法を使える族長たちに様々なアレンジと融合魔法を教えることになった。


「こいつは良いねえ! 連発はできないけど、ここぞという時には便利そうだ」

「うむ。我らの速さを、さらに活かせよう」


 黄虎と黒狼の族長が喜んでいるのは「疾駆」だ。風属性の魔法で高速移動を実現する。武器を押してやることで振る速度を高めるのにも利用でき、その場合は「風圧剣」と呼称する。


 金狐の族長は火属性の中級魔法が使えるとのことだったので、私が「土壁」などでやっていた壁の形を変えるアレンジを「火炎壁」でやってみてはどうかと提案した。

 意外とあっさりと様々なバリエーションを使いこなされて、さすがは火属性専門の部族だと感心させられた。


 その他、赤熊の族長をはじめとして犬族、兎族の各族長には地属性のアレンジを伝えた。

 農作業に従事する部族は畑を耕したり、畝を作ったりといった独自の魔法があったため、私が逆に教えてもらったりもした。ありがたい。


 結局、日が落ちるまで魔法の指導は続き、私とグレイシアのカトゥルルス首都観光はお預けとなった。




「ああ、やっぱりそういう感じだったのね」


 宿に戻った私とグレイシアは、すでに戻っていたシェリーたち四人と一匹に会議の内容を伝え、それを聞いた彼女たちは私たちの帰りが遅くなったことに納得顔で頷いていた。


 まあ、今回の会議は我々が持ち込んだ情報を基に行われたものだから、当事者であると言えなくもない。そうなると大きな役目を果たさざるを得なくなるのも当然といえば当然だ。


 そして今回のことが神の魔石を持ち去った人物、あるいは「名もなき神」の意思で行われているのなら、場合によってはそれらに相対する可能性もある。

 正直なところ、どんどん事態が悪化していっている気がするが、なんとか対処していくしかない。


 大きな事件になど関わりたくもなかったのに、どうしてこう、次から次に面倒ごとに巻き込まれるのか……。

 せめてカトゥルルスにいる間は日本にいるような気分を満喫させてもらうくらいは許してほしいところだ。


 まあ、明日は各部族での人員選抜が行われるため、私たちに出番はない。今後の備えをしつつも、ある程度ゆっくりできるだろう。




 翌日、朝食後のこと、アルジェンタムが「魔法おしえて」と言い出した。

 どうやら彼女は先日の昇級で風属性を身につけたらしく、私が族長たちの指導をしたという話を聞いて、自分も練習すべきと考えたようだ。


 向上心があるのは良いことだ。ということで、我々は首都北門から少し離れた森へと出かけた。魔法の練習をしつつ、昇級もできれば一石二鳥だしね。


 まずは「風圧弾」からと、グランツに魔物を探してもらいつつアルジェンタムに魔法に関する講義をする。

 といっても子供相手なので、ごくごく単純な心構えくらいだ。つまり「できると信じること」これだけ。

 技術的なことは上手くいかなかった時にサポートすればいいだろう。


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