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78.新たな問題

 ようやく本来の目的地に到着したけど問題は増えたのだと伝えるのは心苦しいとオッサンは思ったのだ




「ソウシ! よかった無事で……」


 私が船上にあがると、すぐにグレイシアが抱きついてきた。シェリーは無言でバシバシ私の背を叩き、グランツは低く唸りながら私の足を叩く。


「えーと……グレイシア、来てくれてありがとう。シェリー、グランツ、でかい音が出るって言っておかなくてごめん」


 私は前後であまりに大きい温度差を感じながら、それぞれに言葉をかけた。


 結局、三者の気が収まるまで、抱きしめられながら叩かれ続けた。


「わざわざ船を出してくださって、ありがとうございました」

「ありがとうございました!」


 私とシェリーは漁師の老人に頭を下げる。グランツも我々に倣って頭を下げた。船はすでに西の島、カトゥルルスからだと南の島に向けて移動中だ。


「いや、ワシもエルフの嬢ちゃんに槍を貸してもらったし、アンタのおかげでシーサーペントにも一矢報いることができた。こっちこそ礼を言う」


 そう言うと頭を下げ、老人は槍の先に引っかかったまま牽引される海蛇竜の躯に目を向ける。


 グレイシアは事前に聞いていたそうだが、シーサーペントは老人にとっても個人的な仇のような存在だったらしい。

 魔物退治に銛では心許ないということで、グレイシアの持っていた私の槍を貸し出したそうだ。


 漂流する直前にウェヌス号の甲板に刺したままだったから流されているかもしれないと思っていたし、船を出してくれた報酬としては安いものだ。


 私としては老人の使っている海流操作の魔法が興味深かった。

 なんでも漁師には結構、使える人がいるらしい。ドワーフに独自の魔法があるように、漁師にもあったということか。

 もしかしたら職業ごとに親から子へ、師から弟子へのみ伝わっている、そういう魔法が色々あるのかもしれない。


「ソウシが海の上を移動していたのも似た感じの魔法よね?」

「うん。多分、水流壁系統ってことなんだと思う」


 グレイシアの問いに、発生させる場所や基点になる物によって異なる効果を生み出しているのだろうと答える。

 老人の海流操作は船の両舷側を、「水流壁」は地面を、「水流走」は自分の足元を基点に回転する水流を発生させることで、同じ理屈で異なる魔法として成立しているわけだ。

 自分の背中や足の裏で「風圧弾」を炸裂させることで移動魔法として使う「疾駆」も同様の物だと言える。


 そのまま雑談をしつつ、私とグレイシアも船を移動させる手伝いをしたりしながら、我々はカトゥルルス南の島にある漁港へと向かい、二時間ほどで入港した。

 何事もなくたどり着けて一安心だ。




 シーサーペントを退治したことで、我々は漁村の人々に歓声をもって迎えられた。

 やはり大物がいると漁に出ることもできないということだろう。中、大型船でも厳しいのだから、小さな漁船では尚更だ。


 漁村で一晩世話になった私たちは翌朝早くに船を出し、昼前にはカトゥルルスの港町に到着した。

 老人によると一人で操船するより、はるかに短い時間で海を渡れたそうだ。似た魔法を使える人間が三人いれば、魔力切れを心配することもないということだろう。


 まあ、漁をするときは道具も載せているし、捕らえた魚を乗せておくスペースも必要になるため、何人もエンジン役を積むわけにもいかないだろうが。


「本当にいいのか?」

「ええ、みんな納得していますから」


 シーサーペントは全て老人に譲ることにした。そもそも依頼の対価が槍の貸与だけだったのがおかしいのだし、こちらは二人と一匹の命が救われたのだ。皮は大分ボロボロになってはいるが、素材だけでも五百~六百Gほどになる海蛇竜は妥当な報酬といえるだろう。


「そうか……じゃあ、ありがたく貰っておく。これでアイツも浮かばれるだろう」


 一つ安堵したようにため息をつくと、老人はそう言って我々の申し出を受け入れた。


 それから互いに礼を言い、私たちは老人と別れ、コナミとエリザベートの待つ宿へと向かった。

 さて、ここからが、ある意味本番だ。




「二人とも無事でよかった……!」

「ウォフ」

「あ、ごめんね。グランツくんも無事でよかったよ!」


 無事の再会を涙ながらに喜ぶコナミと、自分を忘れるなと言わんばかりのグランツ。エリザベートも涙ぐみながら微笑んでいる。

 それにしてもグランツが頭良すぎるのが気になる。どう見ても完全にこちらの言うことを理解している……。


「漂流中の事で、みんなに話さないといけない事があるんだ」


 ひとしきり再会を喜び合い、皆が落ちついたところを見計らって私はそう切り出した。


 カトゥルルス南西の島に地下遺跡があり、そこへの入り口と中にあった精霊払いの石碑が破壊されていたこと。

 石碑は女神と争った名もなき神の魔石を封じるための物であったこと。

 名もなき神の魔石は失われていたこと。

 そして室内の壁に、来訪者の物と思しき書置きがあり、そこには地下遺跡が作られた経緯と石碑の製法が記されていたこと。

 さらには神の魔石が失われていたら、なんとか探し出して再度封印してほしいとも書かれていた、と私は全員に話した。


 当然のことながら、あまりに規模の大きな話に、みな絶句している。


「……それって、来訪者だからやらなきゃいけないとかは……」

「いや、そんなことは書かれていなかったよ。ただ、もし神の魔石を見つけたらって考えると、石碑の準備だけはしておくべきだと思う」


 沈黙を破ったコナミの問いを、あえて否定しつつ善後策を用意すべきだと伝える。

 実際には、来訪者にやれと書かれてはいなくても、来訪者にしか読めないであろうローマ字で書かれていたのだから、ほぼ来訪者にしかできないことではあるのだが。


「そうねぇ……対策だけでも持っておくに越したことはないわ。ソウシ、石碑は私たちに作れるような物なの?」


 グレイシアの質問を受け、私は石碑の作り方を説明した。


 まずは大量の魔石を用意し、魔力が抜けないように粉末状にする。石碑の元となる石板を二枚用意し、一枚の片面に真円のラインを彫り込み、さらにその内側に真円の窪みを彫る。両方に魔石粉末を充填し、もう一枚の石板で密封。


 手順としてはこれだけ。だが単純でありながら真円を彫るのは職人でもなければ難しそうだ。ゲージでもあれば、また違うだろうが。


 あとは設置する際に精霊を払う魔法を使える者がいる必要があるが、これは私ができるから問題ない。

 そして術者が魔力のラインを伸ばし、封印する神の魔石の魔力を使うことで、石碑の効果持続と名もなき神の弱体化を両立する。ということらしい。


「なるほどね……。でも、その話からすると、神の魔石が持ち出されてから、まださほど時間は経っていないという事になるわね」

「うん。石碑の機能は十分効果を発揮していたからね」


 私が触ろうとして体内の精霊を払われたから、グレイシアの言うことは間違いないだろう。


「ソウシが危ないところだったものね」


 あっ、余計なことをっ。


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