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76.名もなき神

 オッサンは突然の超展開に辟易したのだ




「ローマ字って何?」

「ええと……」


 シェリーに問われ、私はふと考え込む。どう説明したものか……。とりあえず変な誤解を生みそうな言葉は使わない方向で行くしかないか。母音とか。


 とりあえず私は、使われている文字がアルファベットと呼ばれる物で、我々が使っている言葉をカタカナと漢字ではなくアルファベットで表記するのがローマ字だとだけ説明することにした。

 一部の例を挙げて説明すると、何とかどういう物かは理解してもらえたようだ。

 さすがに即、読めるなんてことはなかった。


「ええと……『ここに来訪者が訪れたなら、この文字が読めるだろう』……」


 シェリーにも分かるように、私はローマ字で書かれた文章を読み上げていった。

 そこには、この地下にはかつて女神ガイアと争った名もなき神の核である魔石が封じられており、四方の石碑は名もなき神に力を集めさせないための装置であること。

 もし封印が解かれ魔石が失われていたら、できれば探し出して封印しなおしてほしいということ。

 そして封印を施すための石碑の作成方法が記されていた。


「神を封印って……」

「とんでもないことになってきたな……」


 この世界に魔法を生み出した女神ガイア。それと争っていた名もなき神。はっきり言って、ただの探索者に過ぎない私には荷が勝ちすぎる。


 ローマ字で表記されていたことから、おそらくこの地下室を作ったのは私と同じ来訪者なのだろう。

 わざわざローマ字を使って書いたのは、目にした者が多くいた場合でも理解できる人間を少なくしておきたいという意図なのは理解できる。


 たとえば破滅願望を持った者が見つけたうえにどういうものか理解したら洒落にならない大惨事を招きかねない。そうでなくても興味にかられて石碑に触れようものなら、下手をすれば死ぬような思いをすることになる。私のように。


 まあ、だからといって来訪者がみんな品行方正なわけもないのだから、同郷とはいえ任せてしまうのもどうかと思うが……。


「何にせよ、私たちだけでどうにかできることじゃないし、ひとまず石壁で出入り口をふさいでおくしかないか……」


 それに石碑作成に関しても、作り方がわかったところで作成するに足る技術がなければどうしようもない。

 大体、持ち出された魔石の足取りを追うことも現状ではどうにもならない。

 まったくナイナイづくしだ。


 ひとまずはグレイシアたちと合流し、このことは相談の上どうするか決めるしかない。今は島の北西端を目指すことを優先しよう。




 私たちは地下から出て入り口をふさぎ、浜辺に戻って休憩を済ませると移動を再開した。


 思わぬ展開で時間と魔力を消費してしまったが、気づかず放置していたら、より面倒な事がおきていた可能性もあるし、あらかじめ心構えがあるのとないのとでは大違いだ。いつも思うことだが、自分にできることをやっていくしかない。


 出発から二時間ほど、我々はようやく島の北西端に到着していた。

 上陸地点から南西端まで二時間。そこからさらに二時間でここまで来たということは、南端~南西端と南西端~北西端が大体同じくらいの距離ということだろう。

 もう一度この島に来るのなら大体の時間的な目安がつけられるか。


 朝、南の島を出てから大体六時間ほど。腕時計を見ると針は午後一時八分を指していた。


「思ったより早く着けたかな」

「そうね。何か食料がないか探さないと」


 彼女の言うとおり、すでに昼食の時間を過ぎている。とはいえ、この島に食料になる動植物があるかは分からない。

 南の島では野ウサギが繁殖していたが、こちらの森ではそれらしい影も見かけなかった。

 あの地下室の石碑がいつからあったのかは分からないが、その影響が島に棲む動物たちに及んでいても不思議はない。実際、入り口付近は植物も生えていなかった。


 森へと消えていくシェリーとグランツを見送りながら、私はすっかり自分の役目になった休憩場所の設営を行うことにした。


「私も魚でも取れればいいんだが……」


 あいにく島の北西端は砂浜ではない。ほんの数メートルほどではあるが崖になっているのだ。

 見える範囲では北側はすべて崖。西岸は坂で、北に行くにつれて海抜が高くなっている。なんというか砕けた地面が水面に対して斜めになっている感じだ。海岸線も少し海に入ると急に深くなっている。南の島も同様だった。


 地下室で見たローマ字の伝言のせいで、女神と名もなき神の戦いで砕けたのではないかと考えてしまう。

 ウェヌス号の船上でも思ったことがにわかに現実味を帯びてくることに、私はいささか陰鬱な気分にならざるを得なかった。


「それにしても、何でこんなところに封印したんだろう」


 名もなき神。世間一般に語られる神話は女神ガイアが世界と一体化する前後からだから、それよりも昔の話なのだろう。

 そしてその頃にもすでに来訪者がおり、神々の戦いにも関与していたということも地下の遺跡から見て取れた。


 であるなら、もっと堅牢で人が来そうにない場所を選んでも良さそうなものだ。ローマ字を使っていたということは近代以降の日本人だろうし、歴史的にも創作物的にも「遺跡が見つかって事件が起きる」なんてことは定番だ。にも拘らず、こんな大陸に程近い場所に封印したのには何か理由がありそうなものだが……。


 いや、逆に大した神じゃないからこんなところに封印したという線も……ないよなあ……。


 考えても答えの出ないことに頭を悩ませても仕方がない。とりあえず焚き火を用意したら少し南下して魚が取れそうな磯でも探してみるか。

 シェリーが心配するかもしれないし、地面に書置きは残しておくとしよう。




 結局、シェリーの方は何も食べられそうなものは見つけられなかったようで、遅めの昼食は私の取ってきた魚の塩焼きとなった。

 幸い、魚が潜めそうな場所が見つかったので、電撃で感電させることで結構な数を得られた。これで明日の朝食までは安泰だろう。

 汲んだ海水を「乾燥」で塩にしてしまえるのも助かる。いささか苦味は残るが。


 ゆっくり食事をとっていたら辺りはすっかり紅い夕日に染め上げられる時間帯になっていた。

 この二日間は漂流から探索に移動、と落ち着く暇もなかったから、ここでしばらく体を休めるのも良いだろう。

 まずは風呂の準備かな?




 焚き火のそばで眠るシェリーと、その抱き枕になっているグランツを見ながらこれまでのことを思い返す。


 女神と戦った名もなき神。それを封印した地下遺跡。破壊された石碑と持ち去られた神の魔石。そして遺跡を作った来訪者の伝言。

 なんとも一気に悩みが増えたものだ。


 神の魔石を持ち出した者が明確な意図を持って動いているとしたら、次に起こすのはどういうアクションだろうか。

 どう考えても、ろくでもないことだろうが、問題はその内容だ。


 女神が善で名もなき神が悪という構図なら分かりやすいのだが、現実は勧善懲悪の物語のように二元論で語ることなどできない。

 悪さをする目的なら、どこかの国なり町なりで騒動を起こしたりするのだろうが……。


 女神が成したことといえば、世界と一体化して魔法を生み出したこと。あとは探索者ギルド登録時に発行されるカードの作成?

 とにかく、この世界の人にとってマイナスになることは今のところないと思われる。


 それに対して名もなき神は何を成したのか。なぜ女神と敵対したのか。それらのことはなぜ神話に描かれていないのか。

 謎は深まるばかりだ。


 今後は色んな神話・伝承についても調べておく必要がある。

 少なくとも、この島に封印されていた神の魔石は失われているのだから、身を守るためにも情報は必要だ。


 幸い、エルフとドワーフにも伝手がある。何とか協力を得るとしよう。


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