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8.二度目の昇級と新たな属性

 魔力の温存は生き残るためにはとても大事そうだとオッサンは考えたのだ




 今朝は残念ながらレベルが上がった感覚はなかった。

 ゲームになぞらえて考えるなら、やはりレベルが上がるごとに必要な経験値も増えるのだろうか。


「よーし、出発だ」


 新たに購入したブーツと手袋を身につけ、石ピックをベルトに差し込むと、私は森へ向かった。

 水刃を適度に使っていけば、おそらく昨日より効率的にスマイルを狩れるだろう。




「ふう……」


 午前の狩りを終え、私は酒場で昼食を採った。やはり好きなように食べられるのは良い。

 まあ、味の方はいかにも洗練されていない時代のもの、といった感じではあったが。

 過去の来訪者たちは料理に関することはあまり広めなかったのだろうか。


「それにしても遭遇率が異常、か」


 万屋に午前の戦果を持っていったとき、店主にそう言われたのだ。

 一般的な一日のスマイル狩猟数が五匹、と言っていたのは効率的な狩り方かどうかというのもあるが、単純に見つけられるかどうかの方がずっと影響が大きいのだそうだ。

 それで一日の狩猟数が五。


 ひるがえって私の場合を考えてみると、一昨日がアンガースマイル一+スマイル九。昨日が九。そして今日の午前が、なんと八だ。

 これはどう考えても驚異的な遭遇率だ。


「まあ、魔法のおかげで安定して狩れているから、遭遇率が高いのはありがたいと言えばありがたいんだけど……」


 これが今後、同時に二匹、三匹と遭遇するようになったら話は変わる。

 いくら気をつけて探索していても、四~五回に一回ぐらいは相手に先に気づかれてしまうことがあるのだから、そのときに複数匹いたら大変だ。


 水刃は上手く放てばそこそこ広範囲に攻撃できるが、とっさに撃てるほど使い慣れてはいないし、開けた場所での遭遇なら、一気に攻撃されてしまう可能性もある。


 実のところ、この三日ほどで何度か突進を食らってしまったのだが、これが本当に痛い。どのくらい痛いかというと、ものすごく痛い。

 何故かスマイルはこちらの胴体ばかり狙ってくるからまだいいが、足にでもぶつかられれば骨が折れてしまうかもしれない。

 そうなれば逃げることもできず終わりだ。


 回復魔法で骨折が治るのかどうかも神父に確認してみたが、彼の「治癒」では軽度の火傷や切り傷程度しか治せず、骨折を治すならきちんと骨を接いで添え木を添えてから治癒を何度もかける事になるそうだ。

 何にせよ戦闘中にはまったく対処できない。


 そこで登場するのが、私が万屋でぶっ倒れる原因となった魔法「回帰」だ。

 これは「治癒」を初級とすると上級にあたるらしく、負傷箇所を一瞬で元の状態に戻すものだと言われているそうだ。


 伝聞形なのは、現在「回帰」を使える者がほとんどいないからだという。

 そして魔力消費が多いのは単純にこの魔法が上級だからで、昇級回数の少ないうちは周囲の安全を確保できない時には使えないという事になる。


 ちなみに中級はそのまま「回復」で、切り傷なら程度に関わらず大体治るそうだ。

 だが、正直なところ「治癒」と「回復」の習得に関してはどうにも上手くいっていない。


 神父の説明でも、私が考えたとおり「生命力を高めて治癒速度を上げる」のが正解のようだが、生命力を高めるという部分が上手くイメージできないのだ。


 上級は使えるのに、初級、中級が使えないというのもなんとも言えないガッカリ感を覚える。

 これは今後の課題といえるだろう。




「ん……」


 気がつくと私は寝入ってしまっていたようだ。

 腕時計を確認すると午後三時十二分。これはいけません。酒場に入ってから三時間半ほど経っていますよ。

 あわてて食事の代金を払うと酒場を後にしたのだった。




「……なんか元気だ」


 森に向かって歩いている最中、やけに体調がいいのに気づいた。

 もしかしてレベルが上がったのだろうか。

 失敗したと思っていた酒場での転寝がプラスに働くとは……。


「何か変化があるのかな」


 神父は「昇級すると新たな属性の魔法が使えるようになることもある」と言っていたが、期待していいのだろうか。


「むむむ……」


 これまでは火と水属性が使えていたのだから、新たな属性となると地か風属性。便利そうなのは地属性かな。

 地。地。

 地といえば確か、アレだ。


「土壁!」


 出たよ。ぬるりと。土の壁が。


「おお、これはなかなか…」


 見た感じ、高さ百五十センチ、幅百センチ、厚み五十センチといったところか。これならスマイルの体当たりにも耐えられそうだ。

 これも今後の使い方を考えていくべきだろう。




 その後、少しだけ狩りを行い、今日の猟果は魔石十一個とシートニ枚となった。


「そういえば……」


 この村の外周はかなり立派な石壁でできている。もしかするとアレは地属性の魔法で作ったものなんだろうか。


 酒場で夕食を採ったあと教会に戻り、早速神父に聞いてみると、地属性の中級魔法「石壁」だと教えてくれた。

 定期的に「石壁」を使える村人がチェックし、破損などがあったら「石壁」をかけて修繕するのだそうだ。

 現在の村にはそれを専門にしている人もいるとか。

 一つの魔法で食っていけるとは、なんともうらやましい限りだ。




 翌朝、村から出て外壁を確認してみた。


「それにしても、しっかりしてる」


 ニメートルほどの石壁と、そこそこ深そうな堀。これならよほど大型の魔物でもなければ、壊したり乗り越えたりすることはできないだろう。


「ん?」


 ふと石壁の付け根を見ると、堀に向かって滑らかに繋がっている。なんというか石壁自体が堀の位置にあった土を集めて盛り上がったような……。


「これは、もしかして」


 ふと思いついたことを確認すべく、土壁を使ってみる。

 意識するのは「特定の方向にある土を使う」という事。


「おお」


 結果、見事に前方の地面だけがえぐれるようにして土壁が出来上がった。

 壁の前に壁と同程度の幅で、深さ一メートルほどの穴が開いている形だ。


「これは早速、魔力温存に役立つことに気づけたかもしれないな」


 新たな魔法に手ごたえを感じ、私はニヤリとした笑みを浮かべた。


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