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74.移動開始

 オッサンは何とか海を渡って先へ進むのだ




 シェリーとグランツの探索の結果、ここは小さな無人島で危険な魔物も生息していないだろうと判断できた。というのも、普通の野うさぎを結構な頻度で見かけたらしいからだ。

 そしてその内の数匹が我々の食事になった。ご馳走様でした。


 島周辺に関しては東西南北すべてに他の島があり、西が最も近く、東が最も遠いそうだ。

 移動する際に我々が目指すべきは北。そちらの島は二番目に近いらしく、水流壁を応用した水上移動魔法「水流走」を上手く使えば何とかなりそうだ。


 シェリーもグランツも水属性が使えないため、彼らを私がどうにかして抱えていく必要があるが……。


 それにしても「石弾」と「石壁」は物凄く便利だ。

 小さな物、食器などを作るときは「石弾」を、テーブルや竈などを作るときは「石壁」を使えばいい。


 当然魔力の消費はあるが、「石弾」に関していえば攻撃魔法として使う場合と異なり、石つぶてを飛ばす必要がない分、石そのものを作る工程にのみ魔力が消費されるため、食器くらいであれば一度で複数枚を作れる。


 今回はほとんど即興だったため同じサイズのものしか作れなかったが、細かい魔力操作に慣れれば色んなサイズのものを同時に作れるようになるだろう。夢が広がる。


 どの魔法にもいえることだが、「代替物があるかないか」「発射するかどうか」という二つの要素で必要とする魔力が大きく変わってくる。

 海水を使って発動した「水流壁」がいい例だ。通常の物と比べると実に十倍はあろうかというサイズの壁が作れてしまう。


 オークキング戦で使った「石槍」などは発射しないことで巨大な槍を作り出せた。まあ、これは「石壁」と同様のプロセスで武器にするかどうかの違いしかなくなったともいえるが。


 なんにせよ、環境が魔法の効果に大きな影響を与えるのは間違いない。今後も研究開発を進めていくべきだろう。


「……」


 魔法の再考察をやめ、私は焚き火のそば、砂風呂状態で眠るシェリーに目を向ける。

 さすがに毛布もなしは寒いし、汚れはドワーフ直伝の「清掃」で落とせるから砂を布団代わりにしよう、ということらしい。

 それにしてもあどけない寝顔だ。


 彼女の「救助が来ると思うか?」という疑問に「来る」と断言したのが良かったのか、虚勢を張るでもなく落ち着いた様子を見せていた。

 まあ、そもそもグレイシアが孫であるシェリーを見捨てるわけもなく、私もそれなりに信用されていただろうから、来ないという選択は最初からないだろう。


 問題は「どの程度速やかに動けるか」「漂流先の特定」という二点になるだろうが、我々自身は取り立てて急を要する事態には陥っていない。


 であれば、慌てずできることをし、現在地を示す狼煙を上げつつ北上するだけで良い。あとは自然と見つけてもらえるはずだ。

 ……まあ、いささか楽観的すぎるかもしれないが、水死するという最悪のシナリオは免れたのだ。なんとかなると信じるとしよう。




「さて……やってみるかい?」

「ええ!」

「ウォン!」


 夕食に食べたウサギの残りを使ったスープで朝食をすませ、我々は北の島へと目を向ける。もちろんちゃんと火の始末はしたし、風呂桶も砂に戻した。


「それで、どう担ぐかなんだけど」

「や、やっぱりお姫様だっこかしら」

「いや、それだと手がふさがっちゃうから、こう……横抱きから腰を支えてる手を外して、足を持つ手を下からじゃなく上から……」

「ああ、それで私が首にしがみついておくのね?」


 身振り手振りで担ぎ方を伝える。シェリーは少しお姫様抱っこに期待していたようだが、ここは我慢してもらおう。


 シェリーが首にしがみつくのを待ち、右手で彼女の両足を抱え上げ、グランツは私のコートのベルトを足場に、背中に乗る。

 あっさり持ち上がる辺り、昇級による身体能力の向上は凄まじい。この世界に来る前であれば、いくら相手が軽くても持ち上がりはしても歩くことはままならなかっただろうに。

 ともあれ、これで発進準備完了だ。


「よし、それじゃあ……」

「出発!」

「ウォンウォン!」


 シェリーとグランツの声を受け、私は海に向け走り出した。


「……水流走!」


 波打ち際で跳躍し、魔法を発動させる。すると私の足の裏を基点に無限軌道のように回転する水流が発生し、それが海面に接すると同時に、我々は勢いよく水上を滑り始めた。


「きゃーっ! すごいすごい!」

「ワオーン!」


 水しぶきを蹴立てて駆ける様子に二人とも大興奮だ。私もなんだか楽しくなって水流に流す魔力を増やし、さらに加速する。

 中々のスピードだ。これならシースネークに見つかっても、追いつかれることはあるまい。




 私の予想通り、蛇に追われることが何度かありながら問題なく海上を走破し、我々は一時間ほどで北の小島へとたどり着いた。


「あー楽しかった!」


 シェリーもすっかり気分が上向いたようで何よりだ。


 北へと目を向けると、朝よりも随分、大陸の断崖が近く見える。

 この島は我々が漂着した島からすると若干西寄りなため、島の南東に到着した形になる。


 北と西は水平線まで砂浜が続き、東は海、その先には大きな島がある。そして北西には森だ。

 断崖の高さから考えるに、一昨日の夜ウェヌス号が停泊していたのは、あの森の向こう側の海だろうか。


「さて、次どう動くかだけど……」

「北へ向かうか、西へ向かうか、ね」


 海岸の形からすると、距離的には西へ向かう方が少し北よりに移動できる分、短くなりそうではある。

 問題は救助に動くであろう、グレイシアたちと合流できる可能性が高いのはどちらのルートかという点だ。


 最速で船を確保できていた場合、今頃はすでにこちらに向かっている可能性もある。

 さすがにウェヌス号ほどの大きさと速度の船とその運用を行う船員を手配するのは難しいだろうから、はるかに小さく、船足も遅い船。

 そう、漁船のような個人で運用する物を確保するのが現実的なのではないだろうか。

 となると無補給は厳しい。であれば何度か寄港しながらの捜索になるだろう。


「西、かな」

「そうね。あの島から北西にも島影が見えたから、そちらに停泊するでしょうね」


 方針は決まった。

 この島がどの程度のサイズかは分からないが、今の我々なら駆け足でも一日に三百キロくらいは移動できるから何とか島の北端、あるいは北西端にたどり着けるのではないだろうか。

 そこまで到達するか日が落ちたら、そこで狼煙をあげつつ野営をすれば良いだろう。


「決まりね。ちょっと休憩したら出発しましょう!」


 シェリーの言葉に頷き、私は飲み物を用意するために「石弾」で深皿を作り始めた。彼女とグランツは薪拾いだ。

 多少手間ではあるが、休憩のついでに狼煙を上げるのも良いだろう。


 ひとまず今は目標に向けて英気を養うとしよう。あ、体力の回復のために、回帰もしておかないとね。


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