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コナミ 2

 魔物の襲撃と町への到着




 イニージオの町に向け出発する前に、同行する人員に関して一悶着あった。

 司教が同行するのは仕方ないとして、護衛の神官戦士がみんな「養殖」と言われる、他人に力を借りて二度ほど昇級させてもらった実戦経験皆無の貴族の三男坊四男坊だというのが問題だったのだ。


 エリザベートさんが枢機卿に人員の変更を嘆願してくれたりもしたけど、残念ながら養殖神官戦士以外に護衛にまわせる人材が足りないらしい。


 ちゃんと街道を通って夜は村や町で宿を取れば大丈夫だという話だったけど、私は旅らしい旅などしたことがないから不安だ。


「我々がついていれば魔物など恐るるに足りませんよ」


 養殖神官戦士の一人が自信満々でそう言っていたけど、この人たちどう見ても弱そう……。

 昇級しても見た目にムキムキマッチョになったりはしないらしいから断定はできないけど、旅に出るのに無駄にひらひらしたマントとかコートとか着てるのはおかしいと素人の私でも分かる。


 それに彼らの、私とエリザベートさんを見る目がものすごく不快。

 ニヤニヤしながら舐めるように見るか、思い切り見下したような視線か、おおむね二つに一つだ。


 旅の間に貞操の危機が訪れないように気をつけないと……。




 王都からイニージオまでは大体、馬車で六日ほどかかる。

 四日目まではわざわざ街道を外れたりしながらも村や町で眠れたから、特に問題もなく移動できた。そのせいで少し気が抜けていたかもしれない。


 問題は五日目の野営中に起きた。

 私は夕食後すぐに馬車で眠るように言われたので、箱馬車の座席に横になっていた。


「うわああああ!」


 突然悲鳴が響き、犬の吼えるような唸るような声が聞こえてきた。


「聖女様! 魔物が出ました! 私は馬を連れてまいりますので、しばらくお待ちください! 決して、外にはお出になりませぬよう!」


 馬車の戸が叩かれ、御者さんがあわてた口調でそう告げたあと、即座に離れていく足音が聞こえた。

 多分、馬を繋いでここから離れるのだろう。


 外から聞こえる喧騒はどんどん大きくなってゆく。でも、魔物より人の悲鳴のほうが多いのがはっきり分かる。

 養殖神官戦士たちでは太刀打ちできない規模の群れなのだろうか。


 どうしても気になって私は馬車ののぞき窓を開けた。すると、すでに何人も神官戦士が地面に倒れ伏しているのが見えた。

 さらに犬のような魔物が司教に襲い掛かる。と、司教はすぐ隣にいた神官戦士を魔物の方に蹴り飛ばし、自分はもう一台の馬車へと乗り込んだ。

 体勢を崩し、無防備に魔物の前に追いやられた神官戦士の喉元に魔物が食らいつく。


「見てはいけません!」


 エリザベートさんの怒声と共にのぞき窓がふさがれた。惨劇を見せたくなかったのだろう。


「エリザベート様!早く、お乗りくださ――ぎゃあ!」


 御者さんの言葉がさえぎられ悲鳴があがる。

 それに続いてエリザベートさんが雄叫びを上げ、魔物の断末魔の悲鳴が響く。

 何度か馬車が揺れ、もう一台の馬車の物であろう車輪が激しく回る音と馬の嘶きが遠ざかっていくのが聞こえてきた。


「聖女さ、ま……しっかりと、つかまって、いてください」


 御者台の方向からエリザベートさんが途切れ途切れの声でそう告げ、馬車が動き出した。

 魔物の声はまだなくならない。でもエリザベートさんの状態を確認せずにはいられない。


「酷い怪我……」

「聖女様、お気に、なさらず。魔法は、温存して、ください」


 箱馬車と御者台との間の窓を開けると、そこには血まみれのエリザベートさんがいた。

 満身創痍なのに、まだ私のことを優先する言葉を口にする彼女に、私は疑問を抱かざるを得なかった。いや、もうずっと前から疑問だったんだ。


 何故、あそこまで私に気を使って色んな噂話や楽しいことを探してくれたのか。

 何故、偉い人に睨まれる可能性があるのに、中庭を使いたいという私のわがままを聞いてくれたのか。

 何故、失職の危険を冒してまで枢機卿に嘆願してくれたのか。


 気がついたら私はそんな疑問を次々に彼女にぶつけていた。


「私には妹が、います。明るく、優しい子です」


 どうやらエリザベートさんの妹は私と同い年らしい。だからか初めて私と会った時、私の憔悴した様子に酷いショックを受けたそうだ。


 まだ子供なのに職務と立場を押し付けられ、教会から出る自由もない。たまに笑顔を見せることはあっても、まともに動こうとする様子もない。そんな私をどうにかして助けたいと思ったという。


 その結果が、今、命までかけて私を守ることだなんて……。


「そんなのダメだよ!」


 私は感情の赴くままに、全力で「回帰」を発動させた。

 青い光がエリザベートさんと馬車を引いて走る馬達をぼんやりと照らす。でもエリザベートさんの傷はふさがらない。

 なんで? いつも病気や怪我をすぐに治せてたのに。


 そんな疑問を抱きながら、私は意識を失った。




 気がつくと私は、どこかの病院のような場所に寝かされていた。隣のベッドにはエリザベートさんが横たわっている。


 看護師さんらしき人が私が目覚めたことに気づき、お医者さん?をつれてきた。いくつかの問診を受け、回復魔法をかけてもらったら少し楽になった。


 それから町の代官だという人がお見舞いに現れ、雷神さんが私達を助けてくれたと話してくれた。それも「回帰」を使って怪我を治したという。


 今この世界で「回帰」が使えるのは私と神聖ガイア王国の第三王女だけだと聞いていたけど、違ったんだろうか。


 そう不思議に思っていると雷神さん本人が現れた。綺麗な、胸がものすごい女の人と一緒に。

 なぜか代官さんが雷神さんたちに敬語で話しているのが気になったけど、気を利かせたのか代官さんが帰るというので私も挨拶をして見送った。


「はじめまして。私は高御創司と申します」

「あ、はい。はじめまして……白浜小波です」


 雷神さんは優しそうなおじさんだった。三十代半ばくらいかな? そんなことを考えていると美人さんが雷神さん……高御さんにチョップを入れた。


「ソウシ。この子は子供よぉ。あなたがへりくだってどうするのぉ」


 何事かと目を丸くしていると、女の人がそんなことを言う。


「ごめん、白浜さん。つい癖で」

「癖なんですか?」


 高御さんの言葉に反射的に聞き返してしまった。すると女性による追撃と高御さんの言い訳が繰り返される。


「そうなのよぉ。この人、誰に対しても敬語使うの。仲間にまでよ?」

「いや、それは……だって、私はまだこっちに来て一月程度だし、皆にはお世話になってるし……」

「世話になってるのはこっちも同じでしょ! 私たちが何度あなたに助けられたと思ってるの!」


 その様子がおかしくて、私は思わず噴出してしまった。


「ご、ごめんなさい。高御さんが何だか奥さんの尻に敷かれてる旦那さんみたいだから……」

「あら、奥さんだなんて嬉しいわ! でもこの人ったら私がいくら迫っても手を出さない意気地なしなのよぉ」

「ちょっとおおお! 子供相手に何てこと言ってるの!」


 さらに突っ込まれた爆弾に、私は笑っていいやら恥ずかしがればいいやらわからなくなった。





 それから目を覚ましたエリザベートさんを加えて、これまでのことやこれからのことを話し合った。


 私は雷神……ソウシさんに助けてもらうことしか考えていなかったけど、助けを求めることで相手に迷惑がかかる可能性にまったく思い至っていなかったという事実に、そこでようやく気づいた。


 土下座しても許されない……と思いながら動揺する私に、ソウシさんとグレイシアさんは今後の展開についても話してくれた。

 教会からの横槍にある程度は対処できるだろうと聞いて、なんとか落ち着くことができた。


 ただ、もう一押し、何かソウシさんが私を保護する大きな理由が必要だったようで、それを考え出すのが今いちばん重要だという。


 ただ、それも雑談中の私の一言で解決した。それは私とソウシさんが親子だと主張することだった。


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