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64.ウィルム襲来

 オッサンは段々魔法が効きにくい魔物が増えてきた気がしていたのだ




「予想では、明日くらいだったっけ……」


 平原での狩りが一段落したところでコナミがつぶやく。

 予想というのは言わずもがな、教会の使者到着のことだ。


「そうね。噂が上手く効果を出してくれていればいいんだけど……」


 コナミの言葉を聴きつけて答えるのはシェリーだ。彼女たちとエリザベートの三人は、年齢が近いこともあり、あっさり仲良くなっていた。


 狩りの時はシェリーが先頭に立ち、魔物の元に先導。実際に戦うのはエリザベートとコナミとなっている。

 グランツはそんな彼女たちの護衛のつもりか、つかず離れずで行動していた。


 実際、グランツとシェリーがいれば魔物の捜索と奇襲対策は万全で、コナミとエリザベートは順調に昇級を重ねていた。

 ただ、私はグランツが構ってくれなくなったため、久しぶりに単独行動が多くなっている。ちょっと寂しい……。


 まあその分、魔法の開発はじっくりできている。現在も実験中だ。

 開発中の魔法は、いわゆるコイルガンを魔法で再現しようというもので、先日ドワーフの谷で購入した羽根の付いてないボルトを対象に向け発射する攻撃魔法だ。


 魔力によるコイル形成と維持。

 磁力を発生させるための電力となる「電撃」の発生と維持。

 通電させると同時にボルトから手を離す。


 言葉にするとこういう手順を踏むわけだが、一つ一つはさほどの手間もなく行えるとはいえ、全てを上手く行うのは中々の集中を要する。

 特にコイル形成は細かい魔力操作を必要とするため、最も神経を使う工程だ。逆に言えば、ここさえ上手くできればあとは簡単だ。


 現在、十メートルほどの射程を得ることが出来ており、威力もそれなりだが、正直、このままだとクロスボウを使ったほうがよっぽど簡単で発射も早く、威力も高い。まだまだ研究の必要がある。


「ウオーン!」


 コイルガンで放ったボルトを拾いあげ、ぼんやり思考の海に沈んでいた私を、グランツの咆哮が現実に引き戻した。


「ソウシ! あれ!」


 グランツの次に何かに気づいたらしきシェリーが大声を上げ、空の一点を指差す。そちらに目を向けると、黒い鳥のようなものがだんだんと近づいてくるのが見えた。


「あれは……ウィルム?」


 近づくにつれて輪郭がはっきりしてきたそれは、トカゲの前足のかわりにコウモリの羽が生えたような姿をしていた。


 資料によると、いわゆるワイバーンと呼ばれる魔物の幼生とも考えられているが、詳しい生態は不明。竜人山脈の比較的標高の低い山に棲むといわれている。


 ワイバーンが全長八メートルから十メートルなのに対し、ウィルムは三メートルから五メートルと比較的小型。とはいえ、飛べない人間にとってはどちらも厄介な魔物であることに変わりはなく、一体で一つの村を壊滅させることもある。


 二、三度しか昇級していない探索者では、とても相手をすることはできない。

 飛んできている個体は、結構、大きそうだ。


「走って逃げる余裕は……ないな」


 魔物の飛行速度から即座に判断を下し、私は「石壁」で即席の塹壕を作る。


「みんな、この中に避難してくれ! 入ったら、もう一枚壁を作る!」


 私の指示に、コナミ、エリザベートが塹壕へと滑り込む。だが、シェリーとグランツは私の隣に駆けてきた。


「シェリー、君も」

「嫌よ、私も戦うわ! それとも私じゃ頼りない?」


 問答している間にも空飛ぶトカゲは迫ってきている。余裕はもうない。私はシェリーの説得をあっさりあきらめ、塹壕の入り口を「石壁」でふさいだ。

 石の防壁の隙間からコナミとエリザベートの不安げな顔が見える。私は彼女たちを安心させるためニコリと笑い、トカゲに向き直った。


「シェリーは右、グランツは左に回ってくれ!」


 今度こそシェリーとグランツは私の指示に従って走り出した。トカゲは二人の動きを気にする様子を見せたが、それを放置するわけにはいかない。


「コッチヲ見ロッ! なんてね。まずは落とす……。水刃!」


 軽口を叩いて肩の力を抜き。水の刃をウィルムの進行ルート上に放つ。

 すると避け損ねたトカゲの左の飛膜がザックリと切り裂かれた。切断にまでは至らなかったようだが効果は十分で、魔物は失速、落下を始めた。


「石壁!」


 なんとか墜落すまいと羽ばたくトカゲの眼前に、石の壁を発生させた。次の瞬間、固いもの同士がぶつかる鈍い音が響き、壁が砕けるとともに魔物は地面に落下しゴロゴロと転がる。


 よろけながらも起き上がろうとする魔物の右に回ったシェリーが土壁を発動、尾による攻撃に備えた。グランツは激しく吠え立てながらトカゲの左に回り注意を引く。


「っ!」


 シェリーの土壁が、グランツの動きに釣られて回転する魔物の尾に一瞬で砕かれた。幸い、彼女は後方に飛び退いていたため、その一撃を食らってはいない。

 だが、土壁で押さえることができないなら、じっくり対応することはできない。


「電刃!」


 早期決着のために私は感電による麻痺を狙った。水の刃と共に電撃がトカゲの体表を舐め、魔物は一瞬、動きを止める。


「疾駆! ……水刃!」


 トカゲが感電したのを確認した私は、全力で踏み込むと同時に「風圧弾」をアレンジした高速移動魔法「疾駆」を発動してさらに加速し、槍を魔物の胴体に叩き込む。追加で発動した「水刃」をウィルムの体内で炸裂させ、すぐさま後方に飛び退き間合いを取る。


 僅かな間の後、魔物は私とは反対の方向に倒れた。


「…………ふう。なんとかなったか」


 しばらく槍を構えたまま待機し、ウィルムの胸に魔石が浮き出たことを確認すると、私は槍を下ろした。グランツも警戒を解いて駆け寄ってきた。


 それにしても水刃・電刃で切り裂けたのは飛膜だけとは、オークキングに勝るとも劣らない頑強さだ。やはり鱗が天然の鎧のような役割を果たしているのだろうか。


「ソウシ……あの、ごめんなさい」

「え?」


 トカゲについて思い巡らせていると、横から声がかけられた。

 いきなりの謝罪に何事かと考えるが、シェリー自身は上手く立ち回れなかったと感じているのだろうと思い至る。


「……いや、特にミスはしていないと思うけど? むしろ土壁で防げないってわかったから速攻する判断ができたわけだし」

「でも……」

「そりゃあ思ったようには行かなかったかもしれないけど、君がいなかったら最初の時点で上手く落とせなかったと思う」


 正直な感想を口にするも、シェリーは納得いかないようだ。

 標的が分散してトカゲが戸惑った瞬間があったからこそ落とせた、と感じているのは本当なのだが……。


「気にするなとは言いませんよ。私なんていつも気にして考えてばかりですからね。でも、何か失敗したと思うなら、それを次に生かせるように考えれば良いんじゃないですかね?」


 失敗は成功のもとって言いますしね。と締めくくると、シェリーは何がツボに入ったのか軽く噴出す。


「ありがとうソウシ。でも敬語になってるわよ」

「え、あ、うん。ごめん」


 うーむ、敬語はどうしても抜けない……。


 気まずさに視線をそらすと、町の方から衛兵らしき数人の人影が駆けてきていた。おそらく防壁で監視に立っていた人がウィルムに気づいたのだろう。


「ソウシさーん」

「出してくださいー」


 あ、コナミとエリザベートを塹壕から出すの忘れてた……。


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