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62.親子?

 なんとかなりそうな感じがしてきたとオッサンは思ったのだ




「いえいえ、聞いたのは私ですので、お気になさらず。神官戦士になった後、コナミさんに会ったわけですね?」


 しきりに恐縮するエリザベートを宥め、続きを話すよう促す。


「は、はい。それで、初めての仕事が聖女様のお世話係でして……」


 再び話し始めた彼女によると、お世話係はプライベートなことから護衛まで多岐に渡り、今回の旅も当然のごとく護衛として同行することになったという。 


 そして彼女以外の護衛に選抜されたのは、貴族の三男坊や四男坊ばかりで、皆そろって上昇志向が強く、爵位が下の者や平民を見下すタイプだったそうだ。

 なぜ彼らが選ばれたのかというと、コナミを見出した司教に取り入ったという、酷く馬鹿馬鹿しい理由だった。


 とはいえエリザベート自身、昇級回数が二度と少ないため、彼らには少なからず期待していた。

 だが、彼らはいわゆる「養殖」と言われる者たちだった。


 それは貴族が身の安全を確保するために行う、護衛頼みの魔物狩りで昇級した、実戦経験など皆無といっていい手合いで、少しでも旅を経験したことのある者なら絶対に護衛には使わないという。

 そのことを知ったエリザベートは、せめて実戦経験のある者たちに変えるよう司教に懇願したが、けんもほろろに追い返されたそうだ。


「その結果が、此の度の惨事です……」


 コナミ、司教、エリザベート、そして護衛の五人と御者二人の計十人。

 現在、無事が確認されたのはコナミとエリザベートの二人。死亡が確認されたのは護衛の五人と御者一人。行方がわからないのが司教一人と御者一人。


「大まかなことはわかったけれど、どうして馬車が二手に分かれたのかしら?」


 グレイシアの疑問はもっともだ。

 魔物の襲撃は、彼らがイニージオの町へ馬車で一日の距離にある野営地にいる時に起きた。となると逃げこむ場所はイニージオ以外にない立地なのだ。


「それは……。司教様が我々を見捨てて逃げ出したからです」


 エリザベートの口から出た説明は、ある意味、予想通りと言えるものだった。それも最悪の類の。


 襲撃当初、コナミは馬車内で就寝したところで、襲撃に気づいた御者の一人がコナミを逃がすため馬を馬車に繋ぐために動いた。


 彼がそうしている間、護衛たちは馬を守り何とかフォレストウルフを相手に戦っていたが、そこは養殖の悲しさ。実戦経験の無さが響き、一人、また一人と倒れていき、馬車の用意ができる頃には残り一人にまで減ってしまっていたという。


 ようやく脱出という段になって御者の一人が襲われ、コナミの乗る馬車は立ち往生。司教は護衛の最後の一人をフォレストウルフに向け蹴り飛ばし、その隙に彼の乗る馬車は進行方向と逆に遁走。


 それでもコナミの馬車はなんとかエリザベートが御者を務め逃走を開始。その最中、彼女は狼に噛み付かれるなどして大怪我を負う。


「なんとか狼を振り落とし、ここまで逃げてきたというわけです」


 そう言うエリザベートの顔には忸怩たるものが見て取れた。


「ごめんね、エリザベートさん……私がちゃんと魔法使えてれば……」

「聖女様……あの状況では仕方がありません」


 コナミとエリザベートは互いを気遣う様子を見せる。

 私としても口を挟みたくはないのだが、コナミが魔法を使えなかったという部分に引っかかりを覚えた。


「ちょっと待ってください……おそらく魔法はちゃんと効いていたと思いますよ」

「え?」


 私の言葉にコナミは疑問の表情を浮かべる。

 そこで私は、彼女たちが町に到着した時のことを話した。


 野営地からイニージオの町までは通常、馬車で一日=時速十キロで十時間ほど。

 そして彼女たちの乗る馬車が到着したのは、日が沈んでから四時間ほど。

 野営地でコナミが就寝したのが夕食後で、日が沈んですぐとしても、魔物の襲撃からイニージオ到着まで三時間ほど。


「正直、話を聞くにつれてエリザベートさんが生きてここまで辿り着けたことがどんどん不思議に思えてたんですが、魔法を使えなかったってところでその理由に思い至りました」

「じゃあ……」

「ええ、不完全だったかもしれませんが、ちゃんと効いていたんですよ。でないとあの大怪我で三時間以上は保ちません。傷は治らなくても止血はできていたということだと思います」


 医療の知識などないが、あの時のエリザベートの傷は骨まで見えていて、あれで動脈が傷ついていないとは思えない。であれば彼女の命を存えさせた要因があるはずで、負傷時に「回帰」を使ったのなら納得だ。


「コナミさんが生きていられたのはエリザベートさんが頑張ったからで、エリザベートさんが生きていられたのはコナミさんが頑張ったからですよ」


 少なくともお互いに全力を尽くしたことは間違いない。無意味に罪悪感を覚える必要などないのだ。


「ありがとう……」

「ありがとうございます……」


 コナミとエリザベートはそこでようやく笑顔を浮かべた。


「……なんかソウシさんって、お父さんみたい」

「それだわ!」


 不意にコナミがつぶやき、グレイシアが反応する。

 いきなり何を言い出すのか。そして何がそれなのか。合いの手を入れられた形のコナミも戸惑っている。


「来訪者、回帰、そして親子。これならある程度、説得力があるんじゃない?」


 なるほど、そう来たか!


 それからグレイシアが飲み物を用意し、いったん休憩を挟んで現状の共有と、今後の展開予測を話した。


 コナミとしては逃げ出すことを第一に考えていたため、後のことまで考えが及んでいなかったらしく、予測を聞いて青くなっていたが、対処法の説明にまで話が及ぶと、幾分、落ち着きを取り戻した。


 動き出した事態は止めようがないが、こうしてコナミと相談できていることは僥倖といえる。

 そしてグレイシアの「親子」という発言。これは対処に大いにプラスに働くだろう。


 聖女が雷神と親子である。

 その証拠に二人は来訪者で、両者ともに「回帰」が使える。

 「回帰」が使えるのは教会の言うとおり、女神に選ばれた存在であるからだ。

 女神に選ばれた存在が未成年である聖女の父ならば、教会が彼女を保護する必要はない。

 と、こういう理屈だ。


 問題はもう一人の「回帰」の使い手である神聖ガイア王国の第三王女だが、「彼女は来訪者ではないため関係ない」という言い訳は可能だろう。

 その結果、「第三王女こそ、この世界の人間で唯一女神に選ばれた存在だ」という論調が起きて教会が正当性を疑われようと、我々の知ったことではない。

 根拠のない主張で他者を束縛し、利用していたのだ。そのくらいのリスクは甘んじて負うべきだろう。


 ただ、その理屈でコナミの自由が勝ち取れたとしても、私が教会に命を狙われる可能性は消えないだろう。

 対処するには私が何らかの権力、あるいは大きな戦力を得るしかないだろうが、それは言わぬが花か。

 せいぜい昇級回数を増やすべく、より強力な魔物と戦うことを考えるとしよう。


 とりあえず、まずはギルド長を頼るべきだろう。全力でサポートするって言ってくれてたしね。


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