58.魔法、精霊払い
オッサンは新たな魔法について色々考えてみたのだ
「ストライクラビットは年中繁殖しているって話だけど、どう探したものやら……」
「やっぱり、まずは巣穴を探す所からかしら?」
何の指標もないのでどうしたものかと呟くと、グレイシアからそう提案があった。ということで、通常の狩りを行いつつ巣穴を探すことにする。
とはいえ、どういった場所に巣穴があるのかということは、探索者ギルドの資料にも載っていなかったので、結局は行き当たりばったりである。
「あら? 何かしら」
シェリーの言葉に振り向くと、グランツがしきりに特定の方向に誘導しようとしている。
これはもしや……。
「子ウサギだわ!」
グランツについていくと案の定、ストライクラビットの子供がいる巣穴に辿りついた。親ウサギはいない。
どうやって探したのか全く不明だ。動物ならではの判断基準でもあるのだろうか……。
だが、助かったのは事実だ。素直に喜んでおこう。
「親が狩られてしまったのかな?」
「そうかもしれないわねぇ。何にしても、ちょうど三匹だから依頼達成ねぇ」
グレイシアの言葉に頷き、持ってきていた籠に子ウサギたちを収める。
予想に反し暴れるようなこともなく、あっさり捕まえることができた。まだ敵かどうかを判断できるほど成長していない、ということだろうか?
魔物はどこからともなく湧いてくることもあれば、普通の動物と同じように繁殖することもあるというし、謎は深まるばかりだ。
代官に子ウサギを届け、依頼達成の証書にサインをもらう。
よく考えると、私がメインで依頼を受けたのもサインをもらうのも、これが初めてだ。
開拓村からイニージオまでの護衛は元々オズマが受けていたものだし、エルフの里はグレイシアが受けた。普段の魔物討伐は探索者ギルドで常に出ている依頼で、持ち帰った魔石の数で判断されるためサインをもらうようなことはないのだ。
そう考えると少し感慨深いものがある。かもしれない。
「今回はお疲れ様でした。この子達をしっかりと調教してみせましょう!」
そう宣言する代官を後目に私は代官邸を後にした。
彼の両手で抱きかかえられた子ウサギたちもおとなしいものだし、もしかしたら上手くいくんじゃないだろうか。
そうなると、いずれは門番ウサギとか護衛ウサギとかが誕生するのかもしれない。
ちょっと楽しみだ。
予想外の依頼で休む予定が全く休めていなかった私は、翌日は丸一日を怠惰に過ごした。
夜になってからはリビングで、旅先で開発した魔法についての考察をする。
・地属性:清掃
・水属性:乾燥
・火属製:氷結
・風属性:窒息
清掃はドワーフのアーロンとコベールが使っているのを見て覚えた。
この魔法から「精霊を移動させ精霊力のない空間を作ることで何らかの効果を得る」という逆転の発想が可能だと気づいたことは大きな転機になったと言える。
この四つの中で、風属性の「窒息」だけは今のところ誰にも教えていない。というのも他の属性に比べて圧倒的に危険だと感じたからだ。
風という属性の特性として、ほぼ視認することができないというのがあり「窒息」は上手くすれば呼吸している生物であれば何でも一発で殺せる可能性が高い。この組み合わせはあまりに凶悪だ。
魔物相手に使われるだけならともかく、人間相手に使ったら完全犯罪すら容易いだろう。
まあ、自分の利益のために殺人など犯せば女神の加護は失われるのだろうが……。
とにかく私もよほどのことがなければ使うつもりはない。
それから、これらは全て初級魔法でもあるので、中級、上級にあたる魔法も同じ発想で開発できそうだ。
属性合成に関してはいまひとつコレというものを思いつかない。せいぜい「水弾」に「氷結」を掛け合わせて氷の弾を撃ち出すくらいか。
あとは厳密には合成とは異なるが「氷結」させた物を「乾燥」させてフリーズドライなんてことも考えたりした。
これは上手くすれば携帯食に使えそうだ。スープ類などは案外すぐに実用化できそうな気もする。水も火も魔法で用意できるしね。
「無精霊魔法はこんなものか。あとは何かあるかな……」
ゲームでは攻撃・回復・防御・補助あとは移動・空間魔法などがあるか。
この中で現状、まったくそれらしい物がないのは補助と移動、それに空間魔法だが……。
補助は身体能力の強化や敵の弱体化になるだろうが、何をどうすれば強化されたり弱体化されたりするのかといわれると、よくわからない。
一つだけ思いつくのは「電撃」を操る要領で生体電流を強めて反射速度を上げたり、瞬発力を高めたりすることだが、なんかものすごく痛そうだ。実験するのはやめておいた方がいいだろう。
移動魔法というと飛行だろうか。これも現状、現実味はない気がする。
風を使って飛ぶなんて表現が漫画などではあるが、人一人飛ばそうと思ったらとんでもない突風が必要だし、とても制御できるとは思えない。落ちたら死んじゃうし。
ただ、地上で使うなら高速移動が可能になりそうな期待感はある。これは少し実験してみる必要があるか。
他にはイオンクラフトという電気を使ってイオン風を発生させて浮力を得るという技術があると聞いたことがあるが、これもかなりの高圧電流が必要だった気がする。自分に高圧電流を流すとか怖すぎるからダメだ。
空間魔法はいわゆるアイテムボックスや転移などだろうか。
これまで魔法を使ってきた感覚としては、精霊を介して魔法を行使する以上どこかに精霊が棲む世界があるのではないかと感じるので、その辺を確認できれば可能性は出てくるのだろうが……。
結局のところ今の段階では「地上での高速移動」くらいしか出てこないか。
何か、ドワーフの「清掃」のようなきっかけになる魔法や現象があればいいのだが……
「行き詰まったなあ……。っと、もういい時間か」
私に唯一残された文明の利器、腕時計を確認すると午後九時を回っていた。この腕時計は手巻き式だから、壊れるまで使い続けることになるだろう。
魔道具の明かりがないと、この世界では夜更かしはとてもしにくい。早く寝てしまうとしよう。
私が椅子から立ち上がると、足元に寝そべっていたグランツも起き上がる。
グランツの頭をひとなでし蝋燭の火を消すと、私は寝室に向かった。
それから数日はイニージオの町北の平原でストライクラビットを狩ったり、南の森でフォレストウルフやブレードボアを狩りながらも比較的のんびりと過ごした。
魔法関連の特許や、昇級で上がった身体能力のおかげで楽になった狩りで生活基盤が整ったため、転移当初の金策に追われる感じはなくなり、マイペースに行動することが可能になった。
グランツのおかげで森の中での行動も気楽なものだ。
このまま平和な生活が続きそうだ、そんな風に思っていた頃が私にもありました……。
魔石などを売りにギルドに行ったとき、あっさりその考えが覆されたんですがね。
「聖女、ですか?」
「ああ、そうだ。もうすぐ、お前さんに会いに来るそうだ」
聞き返す私にギルド長が答える。
……なんでガイア神教会の聖女が、一介の探索者にわざわざ会いに来るの?