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54.武勇伝

 何度も同じ話をさせられるのは中々疲れるとオッサンは思ったのだ




 アーロンとコベールの鍛冶工房で私の装備を確認した結果、特に破損などはなく、そのまま土台として使用し強化を施す方向で方針は定まった。


 オーダーメイドよりずっと安上がりだということと、作業期間の短縮にもなるというのも大きな理由だ。

 私の探索者としてのキャリアは一月程度と短いため、あまり身の丈に合わない良品を身につけるのもどうか……という意識もある。


「後は槍だが……何かこだわりなんかはあるか?」


 コベールの質問に私は考え込んでしまった。

 そもそも槍を選択したこと自体が「素人でも使えそう」という程度の理由であり、グレイシアとの訓練でそれなりに使えるようになってからも戦闘での主体はあくまで魔法で、槍は補助的な使い方しかしてこなかった。

 だから防具と違い何が足りないのかを考える必要もなかったのだが……。


「うーん……昇級したので軽すぎる感じはしますね。あとは電撃魔法を使うので、柄は木製で……芯に金属を使ってある物がいいかもしれません」

「ふむふむ……大物対策も考えれば穂先を大きめにして、石突を打撃と重石を兼ねる形にするのが良いかも知れんな」

「これと、これ……この辺りか?」


 私のぼんやりした要望に沿って、アーロンとコベールはいくつかの槍のパーツを奥の部屋から引っ張り出し、バランスを確認しながら仮組みしていく。その手つきは淀みなく、まさに熟練の動きだ。


「ソウシ、持ってみてくれ」


 組上げられた槍を次々と手渡され、重さ、バランス、取り回しのしやすさなどを確認してゆく。

 その結果、一番しっくり来たのは、穂が長く幅広で三角形の底辺両端が槍の先端に向けて反り返っている、いわゆる「パルチザン」と呼ばれる形態の物だった。


 通常の槍同様、突くことをメインにしながら剣のように切ることも可能な複合的な性質をもっているため、様々な局面に対応できるらしい。

 ……当然、その分あつかいが難しいわけで、槍の訓練に加え剣も覚える必要が出てくるのだが。なんとか頑張るしかない。


「よし!俺たちは早速、作業にかかる!」

「ソウシ、完成を楽しみにしてろよ!」


 二人のドワーフはそう言い残すと、さっさと作業場に向かってしまう。

 私はシェリーと顔を見合わせると、互いに苦笑いを浮かべながら工房を後にすることにした。




「宴ですか」

「ええ、族長が戦勝の祝いと親睦を兼ねて催してくださるそうよぉ」


 宿の部屋に戻ると、すでにグレイシアも族長への挨拶を終えて戻ってきていた。行商人のナルドも合流したらしく、同席している。


 彼らの説明によると、ナルドが持ち込んだ食料品などは族長も満足の品質だということで、エルフの里へ援軍に出た者たちが無事に戻ったら宴を開こうというのは既に決まっていたのだそうだ。


 それに加えて何人もの負傷者を我々が治療したことと、オークキングを倒したことが族長の琴線に触れたらしい。

 ドワーフはその多くが鍛冶師・細工師であり戦士で、素材を求め強力な魔物とも戦うことが間々ある。が、当然のことながら戦いに負傷はつき物だ。それゆえ、一流どころが怪我のために引退を余儀なくされることも多いという。


 今回はアーロンがまさにその瀬戸際に立たされており、それを治療したのは彼らにとって、私の想像以上に大きなことだったそうだ。


「おかげ様で、私は皆さんを連れてきた功労者扱いでしてね。ドワーフの作った高品質な品々を格安で仕入れることができましたよ」


 そう言うナルドは心底嬉しいのかホクホク顔だ。きっと頭の中ではどこで売ろう、どう売ろうなどと色々考えているのだろう。


「となると、しっかり体調を整えておく必要がありますね。皆に軽く回帰をかけておきましょうか」


 私がそう言うと、みんな嬉しそうに頷いた。全力で宴を楽しむつもりのようだ。

 私はアルコールは嗜む程度だから、飲んでも飲まれないように気をつけねば……。




 完全に日が落ちた頃、居住区前に設けられた宴会場で宴が始まった。

 開場の周囲には大きな篝火がいくつも立てられ、集まったドワーフたちを赤く照らしている。全員参加というわけではないだろうが、パッと見ただけでも数百人はいると思われた。


 はじめに人波をかき分けて現れた族長の挨拶があり、次いで我々探索者団の紹介がすむと、エルフの里での戦いへと話が移る。これはコベールの独演会といった風情で、情感たっぷりに語られる武勇伝に参加者たちも釘付けだ。

 ただ、やけに私の活躍が強調されていたのが気恥ずかしかったが……。


「ソウシ!電撃魔法見せてやってくれ!」


 コベールにそう請われ、私はこれまでに開発した魔法を色々と披露することにした。

 火弾に酸素を送り込むことで威力を数倍に拡大した「大火弾」。水素と酸素の塊に火弾を仕込んで爆発させる「風火弾」。石弾の中に風火弾を仕込んだ「石火弾」。水弾を圧縮し一点から打ち出す「水刃」。水素と酸素を集め水を作る際の反応で電気を生み出す「電撃」。電撃を水刃に乗せる「電刃」などだ。

 さすがにちょっとしたアレンジ魔法などは魔力が持たないため省略した。


 これらの中でドワーフたちの注目を最も集めたのは「大火弾」だった。というのも、彼らは鍛冶の際、高温の炎を必要とすることが多々あり、もっと高温を得られれば……と感じることがあるからだそうだ。


 一応、理屈はできる限り伝えたが、果たして上手く理解してもらえたかは微妙なところだった。目に見えないものを在ると説明するのはやはり難しいと痛感した一幕だった。


「ふう……」


 魔法の説明や、これまでの活動の軌跡など、ドワーフ達は入れ替わり立ち替わり聞きに来た。そのため、私は何度も同じ話をさせられるハメになり、宴開始から三時間ほど料理や飲み物にほとんど手をつけられないままだった。


 辺りを見回すと大きなテーブルに載せられた料理は大半が平らげられ、新たにバーベキューのような形で肉のブロックや適当な大きさに切り分けられた野菜などが焼かれているのが目に入る。

 ドワーフたちはみな楽しげに笑いあい、何度も乾杯しては杯を傾けていた。


「さて、私も何か食べさせてもらおうかねえ……」

「じゃあ、これをどうぞ」


 丸椅子から立ち上がりつつ呟くと後ろから声をかけられた。振り向いた先にいたのはグレイシアとシェリーだ。それぞれ料理が盛られた皿を手に持っている。


「ありがとうございます。オズマさんとミシャエラさんは?」


 皿を受け取り、この場にいない二人のことを問う。


「オズマはあっちで手合わせしてるわ。ミシャエラはその付き添いねぇ」


 グレイシアの指差す方を見ると、宴会場の一角で剣を交える者たちの姿が見えた。一人はオズマ、もう一人はドワーフだ。

 体格的にはオズマの方が頭二つ近く大きいが、それでもドワーフも力負けしてはいないようだ。おらく昇級回数も近いのだろう、実力伯仲といった様相だ。


「ドワーフって本当に新しいことや戦うことが好きみたいね。私もアレンジ魔法のこと、何度も聞かれて疲れちゃったわ」


 シェリーはそうぼやくと、さっきまで私が座っていた椅子を占領する。言葉通り、その表情にも疲れが見えた。

 どうやらドワーフたちは私が説明を端折った魔法があることをどこからか聞きつけ、その説明を彼女たちに求めたようだ。


「それは、お疲れ様です」

「ええ、ソウシもお疲れ様。ちょっとゆっくり食べたり飲んだりしましょう」

「それじゃあ、みんなお疲れ様ということで、乾杯ね」


私とシェリーの言葉を受けてグレイシアの音頭を取り、我々は石で作られたカップを軽く合わせる。

 まだまだ騒がしい宴会場だったが、ここだけは少し穏やかな空気が漂っていた。


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