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50.戦後処理

 オッサンはまた事後処理の時に気絶してた




 オークキングが倒れた後は、もう圧倒的だった。

 逃げ散るオークをエルフの魔法が、ドワーフのクロスボウから放たれる矢が、次々に片付けていく。


 一時間もせず里内に入り込んでいたオークは全て殺しつくされ、逃げ出したオークを追撃する部隊が編成され里を出発した。

 森ではエルフの足に敵うものではないだろうから、残存戦力もさほど時間をかけず殲滅されることだろう。


 オークリーダーと思しき個体はグレイシアをはじめとした探索者団の面々が片付けていたため、結果的に一番厄介だったのは里内に入り込んだブレードボアだったようだ。突進力もあり、防御力も高いのだから納得といえば納得だ。


「終ったか……」


 追撃部隊が里を発ったのを見届け、私は殺し間内に腰を下ろした。隣に座るグランツの頭をなでると、子狼は嬉しそうに目を細め尻尾を振る。


「ソウシ、治療を手伝ってくれ」

「分かりました」


 歩み寄ってきたオズマに請われ、私はその場を後にする。

 ちらりと振り返ると、そこには無残な姿になったイルチスティーノの遺体が転がっていた。


 ……とうとう、なぜあれほど執拗に私を狙ってきたのかを聞くことはできなかった。


「まったく、無茶しやがって。後で女どもの説教は覚悟しておけよ?」

「あはは……。はい……」


 呆れたように言うオズマに、私は乾いた笑いをこぼすことしかできなかった。




 一箇所に集められた負傷者は、見たところすでに適切な処置が施されているようだった。エルフには戦闘はできなくとも回復魔法を使える者もいる。ここではそういった者が活躍しているのだろう。


 私がオズマに案内されたのは特に酷い傷を負った者たちが寝かされている場所だった。

 手足が折れている者、肋骨が折れている者など、おおむね骨折している者がメインだ。


 そういう場所の一角に、より酷い負傷を抱えた者が数名いる。意識を失っている者、そして手や足が切断されたり、片目が潰れている者など、凄惨な有様だ。


「ソウシ! お願い、力を貸して頂戴!」


 私を出迎えたのはエルフの族長レティシアだ。彼女自身、返り血で装備のあちこちが赤く染まっている。開戦時は最も後方に位置していた彼女だが、オークが里内に侵入して以降はその掃討に参加していたのだろう。

 私の「暗視」の効果が弱いのもあるだろうが、間近で見る彼女の顔は酷く青い。魔力を使いすぎているのが一目で分かる顔色だ。


「優先すべき人を教えてください」


 私はレティシアに頷きを返し、指示を求める。そして彼女の言葉に従い、できる限りの治療を施していった。

 「回帰」による回復効果は劇的だった。


 これまで骨折を治した事はあっても切断された部位をつないだことはなかったのだが、切り落とされた手足さえあれば綺麗に元に戻すことが可能だった。


 なんとも空恐ろしい回復力だ。これは他者に知られれば面倒なことになると言われるのも納得だ。今回は緊急事ということで族長には話していたが、目撃したエルフやドワーフが話を広めないことを期待するしかない状況になってしまった。大丈夫かなあ……。


 とはいえ、そんな重傷を回復させるほどの魔力を消費すれば、私自身が意識を保つのが難しくなるのは道理で、結局、三人の手や足をつないだところでぶっ倒れることになった。

 ……もう何か、大きな戦いのたびに気絶してる気がする。




 私が目を覚ましたのは太陽が中天を照らす頃だった。また、よく寝たものだ。

 私が寝かされていたのは負傷者用にシートを敷かれた場所の一隅で、他には数人のエルフとドワーフが眠っていた。


「昨日の続きやらなきゃな……」


 私は身を起こすと一つ伸びをし、夕べ重傷者の治療を施した場所に足を向けた。


「おお、ソウシ!来てくれたか! こいつの腕を治してやってくれ!」


 ……あれ? 私、名乗りましたっけ?などと疑問を浮かべていると、私に声をかけたドワーフは切羽詰った様子で説明を続ける。


「このままじゃ鍛冶ができなくなっちまう!」

「わかりました。全力を尽くします」


 男の「頼む!」という祈るような声を背に、私は横たわるドワーフの様子を確認する。

 ……右腕がグシャグシャだ。このままだと切り落とすしかなくなるであろうことは医療知識のない私にも想像がつく酷い有様だ。

 軽い治療の跡しかないということは、私が目覚めるのを待っていたのだろうか。


 怪我の大きさからして恐らくはオークキングの一撃を受けたのだろうが、むしろこれだけですんでいるのが驚きだ。イルチスティーノなど一撃で二つ折りにされていたのだから、ドワーフがいかに頑強かがよくわかるというものだ。


「回帰」


 魔力を集め、魔法を発動させる。切断されている傷よりもきちんと回復させなければ元通りになりそうにない、そう感じた私はなるべくじっくりと回復力を浸透させることを心がけた。


 骨、肉、血管、皮膚、そして神経。段階を追って回復するイメージ。神経を最後に、と考えたのは単純に痛みを感じそうだと思ったからだ。


「お、おお……」


 患部が淡い光に包まれ、徐々に健常な形を取り戻すと肌に赤みが差してゆく。その変化を目にし、付き添いのドワーフが驚愕の声を漏らした。私自身、こうも上手く治っていくとは少し驚きだ。


 魔力の光が消えた時、そこには傷ついていた面影はまるでないドワーフらしくたくましい腕が戻っていた。


「うおお!ソウシ! ありがとう! これでまた、こいつと一緒に鉄を打てる……!」

「ど、どういたしまして。でも、ちゃんと治っているか様子を見ながらにしてくださいね」


 感極まって涙を流し私の手をとる男に圧倒されながら、私は一応の注意を伝える。完治したと思ってもリハビリは大事だろうし。


「ソウシ、こっちも頼む」

「こっちもだ」


 騒ぎが聞こえたのだろう、周りから次々に声がかかる。私もそのつもりだったので、求められるままに重傷者たちを「回帰」で治療していった。


「昨日ほどの重傷者は多くなかったけど、随分たくさん治療できたような……?」


 最初の一人を除けば骨折した者ばかりだったとはいえ、すでに七人回復させている。なのに魔力が枯渇する様子がない。


「昇級したんじゃないか?」


 声をかけられ振り向くと、そこにはオズマがいた。その足元には白い狼がいる。


「あれ? グランツ?」


 私が名前を呼ぶと、その狼が元気よく吼えて応える。がっしりしたその体格は、すっかり大人の狼だ。


「こいつも昇級したらしい。お前と一緒に寝てたんだが、いつの間にかでかくなってて驚いた」


 私の困惑を見て取ったオズマは笑いながらそう説明した。

 なるほど、言われてみればエルフの里に向かう途中でも同様のことがあった。私が見ていないところで、オーク相手に奮闘していたということだろう。


「あっちに食事が用意されてる。食いに行ったらどうだ?」


 納得し頷いている私に、オズマがある方向を指差しながらそう勧める。

 そちらに目を向けると、大樹を背景に簡易的な竈からいくつも炊煙が上がっているのが見えた。

 その途端、急に空腹感を覚え、私の腹がクゥと鳴った。


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