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49.激突、オークキング

 二度あることは三度あるというが五度はさすがに多すぎだろうとオッサンは思ったのだ




「誰か手のあいてる人、こいつらを拘束しておいて頂戴」


 グレイシアに声をかけられ、控えていたエルフ数人が慌てて駆けつけてきた。


「こんな時にまで馬鹿なことを」

「しっかり縛っておけ」

「ここじゃ邪魔になる。端のほうに転がしておこう」


 エルフ達にとっても、イルチスティーノ一味は許しがたい存在となったようで、その扱いも大分ぞんざいだ。

 オークとの戦争中なのだから当然といえば当然だ。


「ソウシ、大丈夫?」

「ええ、グレイシアさん。それにしても監視は――」


 どうしたんでしょうね?と言いかけたところで、後方から複数の悲鳴と何かを破壊する轟音が響く。


「あれは……」


 あわてて振り向いた我々の眼に飛び込んできたのは、大きく破壊された木製の門と、殺し間に侵入した身長三メートルはあろうかという一体の巨大なオークの姿だった。


「オーク、キング……?」


 私は探索者ギルドの資料室で見た資料の内容を思い返していた。

 オークは昇級することで巨大化すると考えられている。そして段階によってリーダー、キングと呼ばれるようになり、キングは身長三メートルにもなる危険な魔物だ。

 その膂力は大木すらへし折り、並の人間では到底太刀打ちできない戦闘力を誇る。動きは鈍い。だったか。

 筋肉はゴリラ! って感じだな。


「マズイ!」


 驚き、動きを止めたのは私たちだけではなかった。その間隙を縫う形で、オークキングは手に持った巨大な斧を内壁の門へと叩き付ける。

 砕け散る門の後方からは、ブレードボアにまたがったオーク、そしてオークより一回り大きな体躯を持つ複数の個体が一斉に里内を目指し駆けてくるのが見えた。


 それを押し留めるべく、控えていたエルフやドワーフたちが門へと殺到するが、ある者は猪に吹き飛ばされ、ある者はオークリーダーと思しき個体の一撃を受けて逆にその場に押しとどめられていた。

 めくら滅法振るわれるオークキングの斧による牽制も、侵攻を阻みにくくする大きな要因になっていた。


「……電刃!」


 前線となった内壁周辺へと駆けつつ、私は電撃を帯びたウォーターカッターを放つ。オークキングへの牽制だ。


「ガッ」


 短く苦悶の声を上げるオークキング。「電刃」は命中はしたが、奴の体表を少し穿っただけで大きなダメージは与えられていないようだ。だが電気そのものは通ったのか、動きが止まっている。


「「土壁!」」

「石壁!」


 オークキングが動きを止めた隙に走りこんだオズマ、シェリー、そしてグレイシアが、破壊された門の代わりを果たすべく魔法を発動させる。それらは見事に入り口を塞ぐと侵入したオークと後続を分断した。


「入り込んだ奴らを叩くわよ!」


 グレイシアの指示を受け、すでにオークと交戦していたミシャエラとグランツに防壁を築いた三人が合流する。

 だが私は行動を共にはできなかった。


 ――オークキングが私から、まるで視線を外さないからだ。


「私は殺し間まで出ます!」

「え? ソウシ!」


 グレイシアの驚いたような声を背に受けながら、私は内壁を北に迂回しつつ駆け、オークキングの視線を自分にひきつける。

 北側は急斜面がすぐ背後になる形で狭くなっているため、とどまっていればまともにオークキングの攻撃を受けかねず、すでに攻撃役のエルフ達は退避を終えている。だから誰かが巻き込まれる心配はない。


「まずはこいつだ……風火弾!」


 一跳びで内壁を跳び越えつつ、私は左手に集めた魔力を殺し間内に群がるオークたちへと叩き込む。

 不運なオークに着弾した火を内包した水素と酸素の塊は、その瞬間強烈な爆発を起こし、密集していた魔物たちを吹き飛ばした。



「石壁! 石槍!」


 殺し間内に着地した私は即座に外壁の入り口を塞ぎ、地面から複数の石の槍を発生させ即席の逆茂木とし、殺し間内でまだ動くオークを攻撃しつつ行動を制限する。


 「石槍」は相手に向けて発射すると一本しか発生させられないが、地面から生やすだけなら同等の魔力消費で数本を一度に発生させられる。おそらく、発射するところに多くの魔力を必要とするのだろう。

 これも今まで研究した魔法アレンジの成果の一つだ。


「!」


 魔法を放ち終わった私のすぐ側を、巨大な斧の刃先が通過する。オークキングの攻撃だ。

 だが、完全には痺れが抜けていないのか、その一撃はあさっての方向に流れ、石槍を迂回していたオーク達に打ち込まれることになった。


「水刃!」


 オークキングから距離をとりつつ今度は水刃をなぎ払うように放つ。この一撃で殺し間内にいたオークはほぼ一掃できたようだ。やはりこの魔法は使える。


 だが、最も近い距離で食らったはずのオークキングはいまだ健在、いや大きな傷が背中に走ってはいるが、その痛みに狂乱し始めていた。

 感電からも回復しているのが見て取れる。これはより一層、慎重に行動しなければ――。


「死ねえええ!」


 物騒な叫びと共に殺し間内に飛び込んできたのはイルチスティーノだった。

 またか! しっかり拘束したんじゃなかったのかよ! と思ったのも束の間、次の瞬間には彼の体は、オークキングの一撃により背中に向かってくの字にへし折られていた。


「うっ!」


 振りぬかれた斧にはじかれ、イルチスティーノが吹き飛んできた。なんとか避けたものの、それが致命的な隙となった。

 ――これは死ぬ――。

 大上段に振りかぶられたオークキングの斧が、死神の鎌となるのを幻視する。


「ガァアア!」


 しかしその刃は振り下ろされる直前、電撃を纏った何かが咆哮をあげてオークキングに激突した。


「グランツ!」


 子狼の一撃は私を正気にもどす間をもたらしてくれた。とはいえオークキングの斧はすでに重力に引かれるように迫っている。


「石槍!」


 一瞬の後、私は「石槍」それも石壁と遜色ないサイズの巨大な石の円錐を地面から発生させ、オークキングの右腕に叩き込んだ。

 振り下ろされる斧の勢いと突き出される石槍の勢いが合わさり、オークキングの腕が見事にへし折れる。いや半ば千切れかけている。


「水刃!」


 私は全力で跳躍すると、痛みに吼えるオークキングの口に槍を突き込み、さらに口内に直接ウォーターカッターを発生させた。

 一瞬、水属性の魔法が発動したことを示す青い光がオークキングの顔を照らし、奴はその巨体をビクリと震えさせる。


 魔物の腹を蹴って槍を引き抜くと、私は後方に跳躍し距離をとった。そして油断せず槍を構えなおす。隣にはいつの間にかグランツが控えていた。


 だが警戒の必要はなかったようだ。

 オークキングの巨体が斜めに、ゆっくりと傾いでゆく。


 地響きを立て、オークの王が戦場の地面へと倒れた。


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