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5.昇級と魔法の有用性

 盗みに入って失敗すれば当然罰せられるのはオッサンでなくてもわかるのだ。




 神父に、昨夜の男たちとのやりとりを説明していると、外が段々騒がしくなってきた。悲鳴が近隣の住民にも聞こえたのだろう。


「そうでしたか……」


 沈鬱な表情で頷く神父に、夜盗の男たちは口々に治療を求める。神父は水属性の魔法「治癒」が使えるのだろう。


「神父さん、何があったんだ?」


 しばらくすると礼拝堂にはそれなりの人数の村人が集まっていた。

 その中の一人の問いかけに、神父と私は事の次第を話し、それを聞いていた者の口から次々に周囲の人々へと事件の内容が伝わっていく。


「この三人は、村の法に則り処罰する」


 集まった人々の中から恰幅のいい男が現れ、そう宣言した。村人たちの反応から、彼は村長であることがわかった。


「……具体的には、どういった罰を?」


 そういえば村長に挨拶していなかったな、と思いながらも私は疑問を口にする。

 勝手ではあるが、狙われた側としてはきちんと管理してもらえなければ意味がないのだ。後々逆恨みで襲撃などされてはたまったものではない。


「強盗を働いたものは腕を切り落とすか、奴隷として売るかだな」


 まあ、教会の破損を修繕することを考えれば、奴隷が妥当なところだろう、と村長は続けた。

 正直、腕を切り落とすとか怖すぎるけど、今後、自分に影響がないのならば文句はない。村長の裁定に任せよう。


「誰か、こいつらをきっちりロープで拘束してくれ。神父さん、治療を頼みます」


 てきぱきと指示を出す村長。それに従い男たちは火傷の痛みを訴えながらも、抵抗をせず縛についた。

 神父の魔法による治療が終ると、村人たちは犯人たちを引き連れて礼拝堂を出ていった。


「お疲れ様でした」


 気が抜けてその場に座り込んだ私に、神父がそう労う。

 緊張のあまり息が荒かったせいか、体が震え手足がぴりぴりと痺れていた。気分も最悪だ。


「来訪者って、こういうことよくあるんですか?」

「そうですね……」


 神父の説明によると、犯罪に手を染めると女神との契約が切れる可能性があり、魔法が使えなくなればできることも少なくなってしまうため、大多数は愚かな行動に出ることはない。だが来訪者のもたらす利益を独占しようと考えたり、狩りの成果を横取りしようとする者もまれにいる。だそうだ。

 今回の若者たちも、そういった短絡的な輩だったということか。


「何にしても、来訪者殿が無事でよかったです」


 神父はにこやかに、大体は返り討ちにあうか見つかって逃げるかですが、極々まれに殺されてしまうこともありますからな。と続けた。

 怖いよ。




 事が片付いたのは明け方だったため寝なおすわけにもいかず、私はそのまま井戸に向かい顔を洗って目を覚ますと、今日の行動について考えることにする。


 不思議なことに、精神的なものはともかく体はすこぶる快調だ。年齢的なことを考えれば、疲れが抜けるまで数日かかってもおかしくないくらい疲れていたはずなのだが。


「それは昇級したのかもしれませんな」


 朝食時に私がそのことをこぼすと、神父はそんなことを言い出した。

 昇級って、学年が上がるわけでもなかろうに。


「はっはっは。昇級というのは単純に言うと強くなったということです。昇級について説明すると、来訪者の方は皆さん『レベルがあがったのか』と仰いますな」


 訝ったのが顔に出ていたのか、神父は笑いながら注釈を加えてくれた。

 なるほど、レベルアップ。これはわかりやすい。

 さらに続く説明によれば、魔物を短時間に多く狩ってから一晩眠ると昇級することがあるという。朝起きるとやけに元気になることで驚く来訪者に説明するのが常だそうだ。


 迷宮から帰って馬小屋で寝るとレベルがあがるゲームを思い出した。




 レベルアップといういかにもゲーム的な事態を経験したおかげか、気分もわずかに上向いたので、勢いがなくならぬうちに私は村を出た。

 狩りの時間だ。


「今日は魔法を中心にやってみるか」


 実は夜中に襲撃された時に初めて魔法を使ったのだ。

 昨日はピックの作成と使用にすっかり気をとられていて、魔法のことは頭からすっぽ抜けていた。元の世界には魔法なんてなかったし、仕方ないよね。うん。仕方ない。


「まずは昨日と同じ手順で行こう」


 森に入りスマイルを探す。当然、自分が木を背後にして適度な距離を取れる場所にいる個体をだ。

 さほど時間もかからず標的を見つけ、考えていた手順を試してみる。


「火弾」


 まず、適当な位置の木を背にして小石で注意をひきつけ、スマイルが飛び掛ってくるのを待つ。

 ヤツは十メートルほどの距離を三~四度跳躍することで詰めてくるので、もう一跳びというタイミングで魔法を放つ。

 「火弾」が命中することで突進の勢いが鈍り、スマイルは私の手前に落下してくる。そこにピックで脳天に一撃。


「うおっと!」


 ピックの一撃では止めを刺せず、再び跳ねてきたスマイルをあわてて避ける。木にぶつかり跳ね返ってきたところに、刃のない方で殴ることで、今度こそ止めを刺した。


「うーむ……これは」


 効率が悪い。

 ピックで突き刺し、打撃で押しつぶす。昨日はそのニ撃で全てのスマイルを倒していた。

 実際のダメージがどの程度なのかわからないが、魔法の一撃はピックの一撃に劣る印象だ。


 いや、単純に穴を開けてから体液を噴出させるという手順がスマイルに対して効果が高いのかもしれないが、どちらにしろ手間が増えては魔法を使う意味が薄い。


「魔法を二連打してみるか」


 結果、「火弾」二発でもスマイルは倒せた。これなら、いちいち相手との位置取りを考えず、見つける端から魔法をぶつければ事足りるから、楽と言えば楽だ。


 しかし一つ問題も見つかった。


「焦げてる……」


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