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48.開戦、混戦

 油断も隙もあったもんじゃないとオッサンは思ったのだ




 私が目覚めたのは、すでに夕日が空を茜色に染めはじめる頃だった。

 部屋を出るとキッチンから何かを焼く香ばしい香りが漂ってくる。女性陣が夕食を用意してくれているのだろう。

 グランツはその香りに誘われて、そそくさと走り去る。私はそれを見送ると、ひとまず顔を洗うべく洗面所に向かった。


「ん?」


 洗顔を終え、ふと洗面台に据えつけられた鏡を見る。詳しい材質は分からないが、金属の鏡だ。


「……随分、すっきりした顔をしている気がする」


 回帰がよく効いたのだろうか? まあ、元気になっているっぽいのは良いことだろう。


「キッチンに行くか」


 鏡はガラスに溶かした銀を吹き付けるのだったか?などと思いをめぐらせながら廊下を歩く。

 確か今のところガラスを使った鏡は見ていない気がする。オークとの戦いが終ったらドワーフの谷に行くことになっているから、その時にでもナルドさんに聞いてみよう。


「夕方だけど、おはようソウシ。よく眠れたかしら?」

「おはようございます。ええ、ぐっすりですよ」


 テーブルに料理を並べているグレイシアに声をかけられ「回帰を使って魔力を枯渇させましたから」と答えると、すでに揃っていた皆に呆れ顔で笑われてしまった。

 まだ探索者としてはキャリアが短いし、どこでも即寝即起きができないのは見逃していただきたいところだ。


「オークについて何か新たな情報はありましたか?」


 私の質問にはシェリーが「何もないわよ」と答えてくれた。到達予測時間の前倒しなどはなさそうだ。

 あったらのんびり食事の用意などしているわけもないか。


「さ、軽い物だけど食べましょう」


 グレイシアに促され、我々は朝食のような夕食を食べ始めた。

 パンにスープ、鳥肉のソテーが少し、そして野菜のサラダ。この後激しい戦いになる可能性もあるため、こういうメニューになったのだろう。

 皆いつになく静かだ。誰もが大きな戦いに、多少の差はあれ緊張しているのか。


 何にせよ、生き残ることを最優先に考えよう。




 陽が完全に沈み辺りが暗闇に包まれた頃、オークの集団はエルフの里に現れた。


 エルフとドワーフは夜目が利くため、篝火などは焚かれていないが、オーク達の動きにも暗さを苦にする様子はなかった。エルフほどではなくとも夜目が利くのだろう。厄介なことだ。


 まずは門前に迫る部隊に対し、外壁を盾にしつつエルフ達による先制攻撃が行われた。

 魔力操作による「夜目」を通し、風属性の緑や水属性の青を宿した光の弾が次々とオークにぶつかるのが見える。木の矢も放たれているのだろうが、こちらはほとんど見えない。


 攻撃を受けたオーク達はひるみつつも前進を続けるが、しばらくすると段々とダメージが積み重なり、倒れる者も見えはじめた。

 まずは順調な推移だろう。


 しかし、予想された数よりオークは随分多いようだ。門前の道があまり幅広くないとはいえ、見える範囲は全てオークで埋め尽くされている。百は超えているだろうか?


「魔力が切れたものは下がれ! 交代だ!」


 まだ戦闘が始まって十分も経過してはいないが、エルフ達はすでに二度ほど攻撃役の交代が行われていた。予想通りとはいえ、昇級の遅いエルフの弱点が露呈した形だ。


 一方、ドワーフ達は一人の射手につき複数のクロスボウを用意し、一発打ってはボルトを装填したものを手渡し、次を打つ間にサポート役が再びボルトを装填するという手順を繰り返すことで、テンポ良く攻撃を続けていた。

 エルフ達の交代の隙をドワーフたちが上手くカバーする形になっている。


「今のところ問題ないな」


 オズマがつぶやき、皆が頷く。

 我々は予定通り、内壁から更に後方の一段高くなった場所に控え、戦闘の推移を見守っていた。


 シェリーとグランツは西から南西方向を警戒している。そちらの方角は切り立った崖になっているが、念のためだ。

 里の南東方向は大きな川になっているので、エルフの非戦闘要員が監視役を務めるに留めている。オークの身長では歩いて渡ることも無理だという事だ。

 北東方面はとても上り下りできないほどの急斜面なので、こちらも監視役を置くのみだ。


「多いわねぇ……」


 グレイシアが渋面を浮かべながらつぶやく。

 もうすでに二十~三十体は倒れているのにオークの勢いが弱まらないのだから、それも無理からぬことだろう。


 防壁とドワーフの協力がなければ、とっくの昔に乱戦になっていただろうことは想像に難くないほどの数だ。


「ブレードボアだ!」


 攻撃役の一隅から警戒の声が響く。目を凝らすと、オークの隊列の中央を突っ切り、オークの屍を乗り越えて複数の猪が門へと迫っている様子が見えた。体当たりで門を破るつもりだろうか。


「ウォンウォン!」


 探索者団の皆が猪の動きに注意を奪われたところでグランツから緊迫した咆哮が発せられた。

 何事かと振り向くと、私は何かに吹き飛ばされた。


「えっ!?」

「ソウシ!?」

「オズマ!」


 地面を転がる私の耳にグレイシアとシェリー、そしてミシャエラの慌てたような声が届く。私と同時にオズマも何者かの攻撃を受けたのか?


「死ねぇ! 人間! 死んで私にグレイシアを返すのだ!」


 なんとか跳ね起きると、エルフの男が雄たけびを上げて私に剣を振り上げていた。イルチスティーノだ。


 どうやら先ほどの攻撃は彼によるもののようだ。立ち位置の高さと振り向いた方向のおかげで、その攻撃は丁度小手に当たったため、怪我を負うこともなくやり過ごせたようだ。


「クソッ、脱走してきやがったのか!」


 オズマの怒声が響く。どうやら彼も健在のようだ。ひとまず私はイルチスティーノを何とかするとしよう。


「ふっ!」


 袈裟懸けに振り下ろされた細剣をかわしざま彼の胴に回し蹴りを打ち込み吹き飛ばした。

 イルチスティーノが地面に倒れて動かなくなったのを見届け周囲の状況を確認する。

 と、奴と共に謹慎させられていたであろう男達もそれぞれグレイシア、オズマ、ミシャエラ、シェリー、そしてグランツに取り押さえられていた。


「クソッタレ、めんどくせえことしやがって」


 盛大に顔をゆがめ悪態をつくオズマ。特に怪我などはないようで一安心だ。


「とりあえず動けなくしておきましょう」


 私はそう言うと「電撃槍」を発動し、捕らえられた男達を次々に感電させて回った。これでしばらくは痺れてまともに動くことはできないだろう。


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