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39.エルフの里、到着

 エルフの里は天然の要害だとオッサンは思ったのだ。




 その後、少し時間をかけてオズマも「暗視」を習得し、我々の森林暗夜行は多少のスピードアップがかなった。


 とはいえ古い白黒ブラウン管テレビのような視界を確保するのが限度なため、エルフほど自由に闇夜を歩けるというわけではない。

 ただ一つ、予想だにしなかった効果を得ることもできていた。

 というのもハーフエルフであるミシャエラと、クォーターエルフであるシェリーが「暗視」を試したところ、従来よりもはっきりと精霊の発する光が見えるようになったのだ。


 ハーフが純血のエルフ並、クォーターがハーフ並、といった感じの暗視能力になったらしい。

 これも魔力を操作している以上、使い慣れていけば段々と暗視能力が高まることが期待できるだろう。


「はぁ~、これいいわぁ~」


 風呂に浸かったオッサンのような声を出したのはシェリーだ。

 うら若い女性がこれとは、ちょっとどうかと思うが、私の思い付きから生まれた魔力操作技術「暗視」が役に立っているのは嬉しい限りだ。

 今回のことで魔力単体での運用も考えていくべきだと感じた。きっと今はまだ思いもしない新しい利用法が、いずれは見つかるだろう。


「ソウシ、頭を下げて」

「あ、はい」


 実は暗視が多少できるようになっても細かい地面の起伏や細い枝などはほとんど視認できないため、結局はグレイシアに手を引いてもらっているのだった。

 まあ、オズマもミシャエラに手を引いてもらっているのですが。


「母さん、後どのくらい?」

「そうねぇ……あと二時間といったところかしら」


 ミシャエラが問い、グレイシアが答える。頭上を見上げると、星空がほんのり青味を帯びているように感じた。間もなく夜明けなのだろう。

 オークとの戦闘から、ここまで小休止を何度かはさみつつ移動すること一晩。ようやくゴールが見えてきたといったところか。


「ミシャエラさん、そろそろ『回帰』をかけておきましょうか」

「あ、そうね。お願いするわ」


 私も大分、疲弊しているが、この旅に出る直前に探索者復帰したミシャエラは体力の消耗が激しいようだ。

 馬車での移動はなんともなくても、長時間の徒歩移動は負担が大きい。朝夕二度の「回帰」による治療は欠かすべきではないだろう。


「ふぅ……。楽になったわ、ありがとうソウシ」

「どういたしまして」


 一度たちどまるとミシャエラと共に自分自身にも「回帰」を行使し、体力の回復を図る。

 魔力は大きく目減りするが、今や控えめにすれば短時間で「回帰」三回は使える。足を引っ張らないためにも、ここはケチらない方がいい。


「もう一踏ん張り、がんばりましょう」


 グレイシアの言葉に促され、我々は再び未明の森を歩き始めた。




 再出発して約二時間。我々はついにエルフの里へと到着していた。


 道中は洞穴のような木々の間を縫い、時に地下へと続く道を降り、時に狭い崖にかかった倒木を渡るなど、正直言って道順をまったく覚えられないような状態だったが、なんとか目的地にたどり着けたようで一安心だ。


 眼前に広がるのは森の中にぽっかりと開いた空間。

 中心に太さは破格だが高さは他の木々と変わらない巨木。そこから同心円状に建築された木造の家屋郡。巨木の背後の様子は分からないが、大きな畑も見てとれ、それらは巨木からのびた枝葉によって上空からも隠されている。


 防壁が無いと聞いていたが、それもそのはず。里の南東側を大きな川が流れ、北側は山へと繋がる、とても行き来などできそうにない急斜面。そして西から南西側は切り立った崖だ。

 我々が踏み込んだのは里から北西側の、全方位で唯一と言っていい平坦な場所だ。他の方角から里に踏み入るのは、ほぼ不可能だろうと感じる。

 そういった環境が深い森の木々に覆われているのだから、見つからないのも当然だ。


 グレイシアの亡くなった夫はそれを見つけたというのだから、とんでもない執念だよ……。エルフ萌え恐るべし。


「すごい景色だけど……さすがに疲れたわ……」


 ため息を漏らしつつシェリーがこぼす。まったく同感だ。

 昨日の昼から夕方まで歩き、オークと遭遇したことで野営をとりやめたため、さらに完全に夜が明けるまでの長い時間を歩き続けることになったのだから。森を歩いたのは十二時間ほどだろうか。


 ここですぐに休めればいいのだが……どうも、そうは行かないようだ。グランツが警戒心もあらわに周囲を見回し、鼻と耳を動かしている。

 というよりも、私でも背後に気配があることが分かる。


「貴様ら、何者だ」


 すぐ背後の樹上から若い男の声がかけられた。声は一つだが、囲まれているように感じる。

 気配を隠していないのか?


「依頼を受けてきた探索者団よ」

「何?」


 グレイシアが答えると、声をかけた本人らしきエルフが木から飛び降りたようだ。と思うと、そのまま私たちの横を通り過ぎる。

 ……本当かどうかも分からないのに、相手のそばを歩くとは無用心ではないだろうか?


「おお、グレイシア!」


 グレイシアの顔を確認した男は途端に破顔し、両手を広げて彼女を抱きしめようとする。が、あっさりかわされ、つんのめるように体勢を崩した。


 彼女の名前を聞いて、他のエルフたちも樹上から、あるいは叢の中から次々と姿を現す。やはり囲まれていたようだ。

 それにしても気配を消していなかったのが何故なのかは気になる。

 単純に威圧のためだろうか?


「グレイシア様!」

「おかえりなさいませ!」

「お元気そうで……」


 最初に姿を現した男の醜態そっちのけで、エルフたちは口々にグレイシアの帰郷を喜んでいる。

 どうやら彼女が里で疎まれている……というようなことは無いようで一安心だ。

 とはいえ、彼女以外が歓迎されるかどうかは、また別問題だろう。


「……グレイシア。この人間どもはなんだ?」


 ほらきた。としか言えないが、予想通りの反応をしたのは醜態を晒したエルフの男だ。その顔は人間など見たくもないと言わんばかりに顰められている。

 恐らくは、この男がグレイシアの話にあった「元許婚」なのだろう。


「私の家族よ。この子が娘のミシャエラで、彼は旦那さんのオズマ。で、こっちが孫娘のシェリー。この狼の子はグランツ」

「……では、この人間の男はなんだ?」


 グレイシアの答えに鼻白んだ様子を見せながらも、残った一人である私を指差し追及する元許婚。

 彼の疑問は至極当然のものではある。なぜなら私だけが彼女の家族ではないからだ。


「私の新しい旦那になる予定の人よ!」


 そ……ッッ、そうきたかァ~~~ッッッ。


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