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38.暗視

 ほんとに魔法はすごいと改めてオッサンは思ったのだ。




「……ちょっと危険かもしれないけれど、これから移動しましょう。思ったよりずっと逼迫した状況かもしれないわ」


 少し考える様子をみせてから、グレイシアがそう宣言する。

 確かに、エルフの里まであと一日といった距離でオークと遭遇したとなると、これが斥候なら同規模のものが複数放たれていても不思議はない。


 グレイシアの話によれば、エルフの里は巧妙に隠されているという事だが、数日のうちに見つかってしまう可能性も捨てきれない。ここは無理をしてでも先を急ぐのは妥当な判断と言えるだろう。


 問題は私とオズマは夜目が利かないため、女性陣ほど上手く夜の森を移動することはできないという事だが……。


「グレイシアさん。夜目って、どういう風に見えるんですか?」


 再び灯した小さな焚き火を頼りに野営地を片付けながら、私は疑問に思っていることを聞いてみた。


 夜目というと猫科の動物のように目が光ったりしそうなものだが、彼女たちはそうではない。となると瞳孔が開いて光をとりこみやすくしたりするというわけではないのだろう。

 ではいったい、どういう理屈で夜目が利くのか?


「夜目?……そうねぇ、動物や植物のおおよその形が見えるというか……昼間より色が少なく見えるというか……あなたたちはどう?」


 グレイシアは私の質問の意図がわからないのか、首をかしげながらも答え、ミシャエラとシェリーにも話を向ける。


「私の場合は薄い色が見える感じかしら。昼間よりも色が少ないというのは母さんと同じね」

「私はほとんど白と黒だわ」


 ミシャエラとシェリーもやはり首をひねりながら、それぞれの見え方を話してくれた。


「ソウシ、何か大事なことなの?」

「……正直、なんとも言えませんが、何かの取っ掛かりになりそうな気もするんですよね。少し、考えさせてください」


 シェリーの問いに、曖昧に答えるに留める。何かありそうな気はしても、はっきりした事は言えない、というのが現状だ。


「そう……。ソウシは今までも色んなこと思いついていたから、今回も何か思いつくかもしれないわね」


 微笑んでそう言うシェリーに「だと良いんですが」と返し、私は土壁を崩す作業に戻った。

 なんにせよ、まずはここを片付けて闇夜を移動する方法を考えねば。




「そこ、根があるから気をつけて」

「は、はい」


 結局、私はグレイシアに手を引かれて森を歩いていた。オズマはミシャエラに手を引かれている。

 シェリーは女性陣では夜目の利きが劣るため、この形になったのだ。グランツは殿を担ってくれている。


 この年になって女性に手を引かれることになろうとは……。いやもっと年をとれば、そういうこともあるのかもしれないが。

 ……変に意識しすぎないためにも、さっき思いつきかけた夜目に関する事を考えてみよう。


(夜目の利く生物とは異なる見え方か……)


 すぐに思いつくのはサーモグラフィーのような赤外線で温度の違いを見るものだが、一つの眼球に複数の機能が備わっているのか?と考えると、違うのかもしれない。蛇みたいにピット器官があるわけでもなさそうだし。


 となると単純に考えると魔法、精霊などに関連したものになるが「昼間よりも見える色が減る」というのが何なのか?という部分がひっかかる。

 そういう魔法だと言われてしまえばそれまでだが、エルフが生来備えているとなると魔法ではないとも考えられる。


(魔法ではない、生来の機能ではなく能力? 能力といえば……エルフは精霊との親和性が高いという話だった。精霊と見える色が減る事に関係が……?)


「あ」


 見える色が減るんじゃなくて、最初から見えている色が少ないのだとしたら?


「どうしたの、ソウシ?」

「グレイシアさん、夜目で見える色って、赤、青、黄、緑、みたいな感じですか?」


 私の漏らした言葉にグレイシアが反応し、私は答えの代わりに質問を返した。


「え? ええ、そんな感じねぇ。大体四色よ。あとは白と黒。それが?」

「……ちょっと待ってくださいね」


 彼女の答えに頷きつつ、少し思案する。


「ちょっと私の右手を見てもらえますか? これ、何色に見えます?」

「えっと……黄色ね」

「……これは?」

「青ね」

「じゃあ、これは?」

「赤」

「最後に、これは?」

「緑だけど……いったい、なんなの?」


 私はほんの少し、魔法として発現しない程度に、掌に魔力を集めて次々にグレイシアに確認させた。

 最初に地の精霊に、次が水の精霊に、その次が火の精霊に、そして最後が風の精霊に働きかけたものを見せたのだ。

 彼女はいよいよ疑問顔だが、これは……。


「多分ですが、エルフの夜目は精霊を見ているんだと思います」

「精霊……? あ!じゃあ今のはそれぞれ別系統の魔法の前段階?」


 どうやら一連の実験から、何を見せたのかを理解してもらえたようだ。

 私はここで推測も含むが、と断り、大まかな説明をした。

 すなわち、それぞれの精霊力が強く働いている場所が、対応する精霊の色で見えている。地は黄、水は青、火は赤、風は緑。

 精霊力が働いていない夜の闇は黒のままで、精霊力が活発に働く生命体はより白く見える。ということだ。ちょっと光の三原色に似ている。


「でも、そうだったとして何か意味があるの?」


 とはシェリーの弁。

 確かに、エルフの夜目が精霊を見ているという事が分かったところで、それを何かに使えなければ特に意味はないが……。


「それを、これから実験してみます」


 一言、言い置き、私は目を閉じた。

 やるべき事は単純だ。精霊に魔力で働きかけたら、その力が色として可視化される。これは「魔力を通して精霊を見ている」という事を意味する。ならばその魔力の位置を変えてやればどうか?


「暗視」


 正確には魔法の段階にまで至ってはいないが、私はあえてそれを口にした。明確な定義をすることで、魔力の固定を少しでも補助できるのではないかと考えたからだ。

 しかして、その思惑は――。


「……ほとんど白黒で、ぼんやりとしてはいますが」


 見える。

 目にほんの少しの魔力を集めたことで、私はうっすらとだが、精霊の力を目にすることができていた。

 実験は成功だ。


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