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30.特許、宗教

 便利な魔法には面倒な状況もセットで付いてきそうでオッサンはげんなりしたのだ。




 ギルド長を名乗った男性は私とグレイシアを見てニカッと笑った。

 年齢に似合わぬ筋肉とまっすぐ伸びた背が、この男性が歴戦の勇士であることを感じさせる。


「グレイシアが久しぶりに顔出すようになったと思ったら、いきなり男ひっかけたうえに特許申請に来たって聞いてな。気になったから見に来た」


 悪びれた様子もなく「珍しいモノを見に来た」宣言をするギルド長ジェフ。


「そんな事よりさっさと申請させなさい」

「わかったわかった、そう怒るな」


 グレイシアが珍しく辛らつな態度でギルド長を促し、彼は笑いながら申請書を差し出した。

 それを受け取ったグレイシアは早速、記入に移った。彼女の横には案内してくれた受付嬢がそのまま控え、質問などに答えてくれるようだ。


「それで、お前さんがグレイシアの新しい男か」

「お世話にはなっていますが、残念ながら、そういう関係ではないです」


 ギルド長は矛先を私に切り替えたようだが、特に面白い話もないため正直に答えた。


「なんだ、つまらん」

「ご期待に沿えなくて、すみません」


 あからさまに楽しいイベントにならなくて不満だという態度のギルド長に、私は苦笑するしかない。


「ジェフ。くだらない事を言っていないで、このレポートを読みなさい」


 申請書に記入する手を一旦止め、グレイシアは私との実験をまとめた物をギルド長に差し出す。


「わかったわかった。どれ……」


 レポートを受け取った彼は、しばらく読み進めると真顔になって紙面に鋭い視線を走らせた。


「こいつぁ……。確かに申請しておかなきゃヤバイな」

「どの程度で確認取れそう?」


 真剣な顔を上げたギルド長のつぶやきにグレイシアが問いかけ、ギルド長は「一週間ってところだな」と答えた。それが長いのか短いのか私には分からないが、プロの言う事だから妥当な期間なのだろう。


「終ったわぁ、確認お願い」


 グレイシアに差し出された特許申請用紙を受け取り、確認するギルド長。しばらくすると「うん、問題ねぇな」と頷いた。


「それともう一つ重要な話があるんだけど」


 ギルド長が受付嬢に書類を渡してギルド長室へ持っていくように指示を出し、申請はこれで終わり、というところでグレイシアがもう一つの話があると切り出す。

 なんだろう?特許申請だけだと思っていたのだが。


「なんだ?」

「ソウシのことなんだけど。……彼『回帰』が使えるのよ」

「……は?」


 ギルド長の問いかけに、グレイシアは受付嬢が部屋から出るのを見送ってから答えた。

 彼女の言葉にギルド長はしばし呆然としてから一言こぼす。いかにも信じられないといった風情だ。

 もしかして「回帰」に何か問題があるのだろうか。


「……冗談を言ってるってわけじゃなさそうだな」


 真顔に戻ったギルド長の言葉に、グレイシアは「当然でしょう」と応える。するとギルド長の雰囲気が厳しいものに変化した。


「あの……回帰が使えると何か問題があるんでしょうか?」

「そういやあ、お前さんは来訪者だったか……。なら一から話しておく必要があるな」


 私の疑問にそう応えると、ギルド長は「回帰」にまつわる事を説明してくれた。


 それによると、現在、公に「回帰」が使えると言われているのは「ガイア神教会」の聖女と「神聖ガイア王国」の第三王女のみであり、どちらも大地の女神ガイアに選ばれた存在だと公言しているそうだ。


 名前が似通っているが「ガイア神教会」と「神聖ガイア王国」には直接的な関わりはない。

 女神との契約などを一手に引き受けているため世界的な規模ではあるが「ガイア神教会」は単純に女神を信仰する組織で、「神聖ガイア王国」はかつて女神が人間のために世界と一つになったとされる場所を中心にして興った国だという。


「反目ってほどじゃねえが、どっちも自分のとこが一番ガイア神に近しい存在だとアピールしたがってる。そこに現れたのが世界的に使い手がほとんどいないと言われる『回帰』を使うことができる『聖女』と『第三王女』ってわけだ」


 ここで在野の、それも来訪者の男が「回帰」を使えると知れれば面倒なことになるのは間違いない。とギルド長は締めくくった。


「……下手をすれば、どっちかもしくは両方から取り込もうとされて、言うことを聞かなければ暗殺なんてことにもなりかねない、と?」

「ありえない話じゃないな」


 私の推測を肯定するギルド長。

 最悪だ。宗教と政治とか関わりたくもないのに何故こんな事に……。


「当面は隠しておくしかないでしょうねぇ。後ろ盾になってくれそうなのは探索者ギルドくらいしかないけど、国と正面から対立する可能性を飲み込んでまで守ってくれる保証はないしねぇ……」


 苦虫を噛み潰したような顔になっている私の肩に手を置き、グレイシアが気遣わしげにそう言う。

 後ろ盾として期待できそうな存在がないなら、確かに隠しておく以外の選択肢はない。あるいは拠点を持たず町から町、国から国へと転々と移動しつつ生きていくくらいだろう。


「まあ、ウチとしちゃあグレイシアには長いこと世話になってるから、その仲間を売ったりはしない。これは約束する。グレイシアもそう思ったから俺に話したんだろうしな」


 ギルド長の確約にグレイシアは嬉しそうに頷く。


「なにはともあれ、まずは地力をつけて何かあったときに備えて資金も増やしておかなければいけませんね」

「そうね。私も力になるから頑張りましょう」


 私は今後を見据えて、出来るだけ力を蓄えていく事にした。お言葉に甘えてグレイシアにも協力してもらおう。

 見えている地雷は避けていくに限る。


 ちなみにギルド長ジェフとグレイシアは、彼が駆け出しの冒険者だった頃からの知り合いで、グレイシアに惚れたり振られたりした間柄だそうだ。

 まあ、いつまでも若い美人がそばにいれば、若い男が惚れちゃうのも仕方ないよね。


 ただ、グレイシアに振られたあと十年ほどして娘であるミシャエラにも惚れて振られて、その後すぐ彼女はオズマと結婚したという話には同情せざるを得なかった。

 あわれギルド長……。




 ギルドからオズマ宅に戻った私たちは夕食をとり、今日気付いたことと今後のことを話した。


 その結果、私は主にグレイシアと組んで活動していくことになった。グレイシアは火属性を除いた三属性すべての中級魔法が扱えるため「回帰」の隠れ蓑として「回復」が使えるだろうという判断からだ。


 二人では手が回らない仕事はオズマとシェリーも加えた四人で活動するが、ミシャエラが一人になるため月単位など長期に渡る仕事はなるべく控える方針だ。

 ミシャエラの体調が回復すれば安心なのだが……。ん?


「あの……ミシャエラさんの体調って、具体的にどこが悪いのか分かりますか?」

「え? ええと、ちょっと無理をすると動悸とめまいが起きたり、風邪を引いたりする感じだけど……どうして?」


 確か産後はホルモンバランスが崩れると聞いたことがあるから、原因はそれかもしれない。体調を崩しやすくなったのはシェリーを出産してからという話だったから十七年ほど前か。


「確信は持てませんけど……『回帰』で治せませんかね?」


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