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29.魔法レポート

 オッサンはこの世界にも特許というものがあると知ったのだ。




 たまに雑談やグレイシアの解説をはさみながら、しばらく魔法入門書を読み続けて一つ気になったことがあった。

 それは初級~上級と分けられているのは便宜的なものなのではないか、という事だ。


 というのも、それぞれの魔法の解説を読んでみると、攻撃魔法、防御魔法といった似通った系統の魔法は等級の違いがそのまま魔力消費量の違いだからだ。

 たとえば初級の「火弾」に物凄く魔力をこめることができれば、上級の「業火球」になりうると考えられる。


 その場合、魔法使いとしての技量の高低を測る物差しとしての等級の役割はなんなのか?というと、一度の魔法に注ぎ込める魔力量の多寡を示すもの、という事になる。


「そうねぇ、確かにその通りだわ。漠然とその等級の魔法が使えるようになったから、中級とか上級と言っているわねぇ」


 私の考えを話してみると、グレイシアは感心したように肯定した。


「となると、属性ごとに使える等級に違いが出る場合はどうなるのかしら?」

「うーん……単純に得手不得手って事もあるでしょうけど、精霊との親和性の高低が一度に扱える魔力量に関わっていると考えるのが自然でしょうかね?」

「じゃあ、複合魔法の場合は?」

「一つ一つの属性で扱える魔力量が属性ごとに分かれている……とかでしょうか」

「じゃあ器用な人なら一度に四属性全部の攻撃魔法を使ったり、攻撃魔法を使いながら別属性の防御魔法を使ったりもできるのかしら……ちょっとやってみましょう!」


 一つの問題提起から次々と新たな疑問に繋がっていき、意見交換をした末に実験してみることになった。

 興奮気味に小走りで外に出るグレイシアを、私もまた急いで追う。


「……土壁! 風圧弾!」


 グレイシアが実際にやってみると、複数属性で攻撃と防御魔法を同時に発動させることに成功した。複合魔法が可能だから攻撃+攻撃、もしくは防御+防御は当然可能だろう。


「ただ、これは疲れるわねぇ……。攻撃魔法二つ同時も二発とも同じ相手に撃つならともかく、別々の相手を狙うとなるとよっぽど余裕がないと難しいと思うわ」


 彼女の弁に私も同意する。

 二つの属性を発生させて一つにする複合魔法も慣れていないと単体で使う場合の三倍程度は魔力を消費している感覚を覚えた。だから、二つの属性それぞれを同時に単体の魔法として発生させるのも同等の魔力消費量になっても不思議はない。


「……うん? そういえば同じ属性の魔法を複数発生させたらどうなるんでしょう?」

「それは一度に使える属性ごとの魔力量までしか無理なんじゃないかしら?」

「ちょっとやってみましょうか」


 再び新たな疑問が湧いてきたため、今度は私が実験してみる。


「土壁!土壁!」


 いけた。というか……。


「できたわね」

「できましたけど、よく考えたら私、土壁の範囲広げたり遠くに出したりしてました……」

「あら……。ん? ちょっと待って、石壁使ってみてくれるかしら?」

「え?……ああ……」


 同属性の魔法を単発で複数同時に出すのと、単体の魔法の効果を拡大するのは同じエネルギータンクから分配しているのかどうか、という話しだったのだが、グレイシアに言われて自分が中級まで使えるようになっている可能性を考えていなかったことに気付いた。


「石壁!」


 使えてしまった。これでは前提条件が崩れる。


「まずは初級までしか使えない属性を調べるべき……って私の場合もう火属性しか残ってないですね」


 やむなく私は火属性の中級魔法が使えるかどうか試してみるが、これは無理だった。よく考えるとこれまで水と地属性ばかりで火属性はあまり使っていなかったことも影響したのかもしれない。


「じゃあ……火弾!火弾!」


 これも発動できた。


 これまでの実験で得られた結果をまとめてみよう。


 ・等級は一度に使える魔力量を表す

 ・等級の高い魔法が使える場合、下級の魔法の範囲を広げる、発動の基点を術者から離れた場所にするなどの「魔法の拡大」が可能。

 ・同じ等級の魔法は、より上級の魔法が使えない場合でも複数発生させることが可能。

 ・同属性、異属性に関わらず、複数の魔法を発生させる場合の魔力消費量は、単発で発生させる場合の一発当たりの魔力消費量よりも多くの魔力を必要とする。

 ・属性変化、形態変化(水弾から水刃など)は基本となる魔法から大きく変容させるため、その際により多くの魔力を消費する。

 ・前述の魔力消費量は、それぞれの運用形態に習熟するほど基本消費量に近づいていくと考えられる。


「こんなところですかね」

「ええ、そうねぇ。……それにしても、こうやって書き出してみると今までとっさに『お願い上手くいって!』ってやっていたことが実は一定の理屈に沿っていた、自分も本能では理解していた、って事なんだと解るわねぇ……」


 実験を終え、裏庭の一角に設置されたベンチに腰掛けながら結果を書き出したものを眺めつつ、グレイシアと頷きあう。


 彼女の言うとおり「多分いける」と思ったことは大体できている。

 私の場合は、初級しか使えない段階での異属性同時使用による「複合魔法」や、門前の戦いでの「土壁範囲拡大」などがそれだ。


「これはシェリーたちにもきちんと理解させておいた方がいいわねぇ。……それとギルドに『私たちが見つけた理屈である』ことを申請しておくべきだわ」

「特許申請ということですか?」


 グレイシアの説明によると、新たな技術や知識は探索者ギルドに申請して受理された場合、その技術や知識を用いた物が作られるたびに一定の特許料が支払われるようになるという。

 逆にその特許に触れるものを無許可で運用すると罰金が科せられるそうだ。


「今回の場合は、ギルドで閲覧可能な資料だとか書物などにする時に、私たちに一定の特許料が支払われることになるわねぇ」

「なるほど……仮に似通った申請が複数なされた場合は、早い者勝ちということですか?」

「もちろんそうよ。ただ元となる特許があっても、そこから派生した新たな技術や知識は、また別に登録申請しないといけないけどねぇ」


 これは知らずにうっかり誰かに漏らしたら、商売に利用されたあげく罰金まで取られるなんてことになりかねないかもしれない、という事でもある。怖い。


「よし! 早速ギルドに行きましょう!」




 私はグレイシアに手を引かれたまま探索者ギルドに向かうことになった。ちょっとした興奮状態なのは、特許申請というものが彼女にとってもかなりの大事だということだろうか。


 ギルド内に入るとグレイシアは即座に受付嬢の一人に申請書と個室の手配を頼み、ギルドに併設されている飲食店で二人分の飲み物を買うと、個室の用意をして戻ってきた受付嬢に案内されてギルドの二階へと移動する。


 私はあいかわらず彼女に手を引かれたままおとなしく後に続いた。

 ギルド内にいた探索者たちの視線が痛かった……。


「よくきたな。俺がギルド長のジェフだ」


 二階の個室に入った私たちを待っていたのは、灰色になった髪とひげを蓄えた初老の男性だった。

 なぜいきなりギルド長が……?


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