表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/181

28.戦闘訓練と魔法の基礎

 ニコニコ笑いながら攻撃されるとものすごく怖いとオッサンは実感したのだ。




「数日は仕入れで滞在します。また護衛の依頼を出しますので、都合があえば是非」


 行商人のナードはそう言ってオズマ宅を辞した。私はその時は皆に相談すると答えるにとどめた。勝手に決めるわけにもいかないしね。


「ソウシ。母さんが部屋に来てほしいって言っていたわよ」


 台所にティーセットを持っていくと、ミシャエラにグレイシアからの伝言を伝えられ、私は彼女の部屋へと向かった。


 彼女の部屋は、二階建ての二階その一番東にある。その隣がシェリーの部屋で、階段をはさんでミシャエラ、その更に隣がオズマの部屋だ。その先には二部屋ほど空き部屋がある。


 彼らの部屋に入ったことはないが、ドアの間隔からして一室ごとの広さもかなりのもののようだ。

 改めて考えると、庶民としてはかなり気後れしてしまうサイズの家だなあ。


「グレイシアさん。ソウシです」

「はーい。どうぞ、入って頂戴」


 ドアをノックし声をかけると、すぐに返事があり中から扉が開かれる。ドアノブに手をかけたままの姿勢だと、彼女の胸の凶器が強調されて恐ろしいことになっている。あいかわらず平常心を保つのが難しい破壊力だ。


 このバストサイズで戦闘時には身軽に動くのだから不思議だ。これも「昇級」の恩恵の一つなのだろうか。


 それはさておき、室内はベッドとテーブルセット、タンスに書棚というシンプルな構成だった。

 ぱっと目につくのはベッドの枕側の壁に掛けられた短剣だ。長さの割には幅の広い鞘に収まっていて、なんだか見た目のバランスが悪い。ただ、装飾や作りはお金がかかっていそうな雰囲気を感じる。


「お邪魔します。それで、何か私に話でも?」


 グレイシアに室内の丸テーブルを勧められ、椅子に腰かけながら用件を問う。


「ええ、昨日、槍の師匠を探したいって言っていたでしょう? その事なんだけど……私じゃダメかしら」

「え? グレイシアさん、槍も使えるんですか?」

「これでも戦斧や大剣なんかを除けば、大体の武器が使えるのよぉ」


 どうやら私が雑談中に漏らしたことを覚えていてくれたようだ。

 それにしてもキャリアが長いとは言え、武器全般が使えるとは驚きだ。戦斧や大剣を除くということはでかくて重いもの以外ということか。

 普段はシェリーと同じ細剣を使っているから速度重視ということなのだろう。


「そうだったんですか……。もちろん教えていただけるなら助かります。よろしくお願いします」


 他に当てもない私は素直に頭を下げた。これで多少なりとも腕が上がれば、いざという時の生存率が高まるだろう。


「そう、よかったわ。それじゃあ、倉庫に木の槍があるから、練習にはそれを使うことにしましょう」


 私の答えに満足したのか、グレイシアはニッコリと微笑むと立ち上がってそう言う。早速、稽古をつけてくれるということだろう。

 扉へ向かう彼女を追って私も席を立った。




 スパルタだった。


 いつものニコニコ顔のままで、グレイシアは木製の槍でもって容赦なく私の体を何度も突き、打ち、払い、倒れたところにも追い討ちをかけてきた。

 ……おっかしいなあ。これまでの印象で彼女はもっと優しいと思っていたのだが。


 まあ、それはいい。

 つまりグレイシアは実践派というか天才肌なのだろう。実際やってみれば覚えられるだろう、というような。

 私も「昇級」しているおかげか、それなりに動けはしているはずなのだが、まったく対処できない。結果、彼女が動いたと思ったらもう攻撃を受けていて、なんども何度も裏庭の地面を舐めるハメになった。


「ふう、今回はこの辺にしましょう」

「あ……ありがとうございました……」


 打たれすぎて、ついに立てなくなった私を見下ろしながらグレイシアは訓練の終了を言い渡した。


「回帰」


 体の表面付近のみ回復させることを意識しながら「回帰」を発動させる。今日は一度も魔法を使っていなかったため、倦怠感は覚えたが気絶することはなかった。いや、最初から疲れてはいたのだが。

 しばらくすると痛みが消え、なんとか起き上がることができた。


「あら、すっかり治ったわねぇ。…………ん?回帰? 回復でなく? ……ソウシあなた上級回復魔法が使えるの!?」

「え、ええ」


 さも「まだ叩けそう」とでも言いたげに笑ったグレイシアだったが、私が使ったのが上級魔法だったことに驚き掴みかかってきた。


「え?なぜ? あなた他は初級しか使えないのよね?」


 使えるかと聞かれてYESと答えると更なる追及に移られ、私はこうなった経緯を話した。なぜか初級、中級は上手く使えず、場合によっては気絶はするものの上級回復魔法の「回帰」のみ使えた、というものだ。


「理由としては私が回復効果を理屈として納得できていないからだとは思うんですが……」

「なるほどね……あなた電撃の時も『できると確信できればできる』って言っていたものねぇ」


 できると確信できていないからできないわけか、と私の説明に頷くグレイシア。


「じゃあ、他の上級魔法も使えるの?」

「いえ、回復魔法は思い付きでやったらたまたま上級に合致したというだけで、他は初級しか知りませんので……。あ、地属性の『石壁』だけは知っています。使えるかどうか試したことはありませんが」


 さらなる質問に答えると、グレイシアは一つ頷くと。


「よし、じゃあ勉強しましょう!」


 と提案してきた。

 もちろん私は諾と答えた。




 場所を離れのリビングに移し、私はグレイシアが自室から持ってきた魔法入門書を見ていた。

 ぱらぱらとページをめくれば魔法一つ一つに細かい解説がなされているようで、これならしっかり勉強ができそうだと感じる。


「私はお茶を入れてくるから、初級から一通り目を通しておいて」


 グレイシアはそう言い置くと台所へと消えていった。その後ろ姿を見送り、本のページを開く。

 ええと、なになに……。


「魔法を使うには体内から必要な魔力を集め、しっかりとしたイメージを持つべし……か」


 大分、大雑把だな。まあ、私自身も大雑把にやっているが。


 要は適性があって「それっぽいと納得できれば」魔法は使えてしまうんだろう。納得するための補助が、現代知識があるだとかアニメ的な表現に親しんでいたとかで底上げされているというところか。


「次は一覧か」


―初級―

 ・地属性:土壁、石弾

 ・水属性:水弾、治癒

 ・火属製:火弾、着火

 ・風属性:風圧弾、追風

 ―中級―

 ・地属性:石壁、石槍

 ・水属性:水流壁、回復

 ・火属製:火炎壁、火球

 ・風属性:旋風壁、疾風弾

 ―上級―

 ・地属性:流砂

 ・水属性:回帰

 ・火属製:業火球

 ・風属性:竜巻


 現在、一般的に知られているのは一覧表によるとこれだけのようだ。

 入門書というだけあって、アレンジについては触れられていない。属性変化や合成についても同様だ。


「まあ、日が浅い私でもそれなりにアレンジを思いついているんだから、長く研究している人はもっと色々開発しているんだろうな……」

「ソウシみたいにホイホイ思いつく人は普通はいないわよぉ」


いつの間にかお茶を持って戻ってきていたグレイシアに呆れ顔で言われてしまった。

 解せない……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ