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24.魔法の訓練

 オッサンはこれまでに習得した魔法を振り返ってみたのだ。




 グレイシア、シェリーと共に彼女たちの自宅に戻って夕食を頂いた後、私はミシャエラに離れへと案内された。ここを拠点として使えとのことだ。


 離れといっても一家族くらいは生活できる部屋数と、台所に風呂トイレなどの設備も整っており、寝具なども揃っていたので、特に何も準備する必要もなく使えそうだ。


 水道というか水を出す魔道具も水周りにあり、コンロも火を出す魔道具であるのも助かる。照明だけは蝋燭かランプになるが、まあそのくらいは大した問題ではないだろう。


「食器なんかも自由に使ってくれていいわ。基本的に食事は本宅でとってもらうけれど、料理とかしたければ食材なんかは自分で買って頂戴」

「了解です。それで家賃はどの程度お支払いすればいいんでしょうか?」


 ミシャエラの説明を聞き終え、一番気になる部分を質問する。こういったことは信用されているとしてもなあなあにして良いことなどない、と私は考えているのだ。


「そうねえ……朝夕の食事と洗濯つきだから、一月で三百Gでどうかしら。護衛の仕事なんかで遠征するときは、もちろん日割りで」


 オズマの話では宿が一泊食事つきで十五Gだから一月泊まれば四百五十G。一月のうち二十日狩りに出るとして、一日の戦果平均を五十Gとしても一千G。うん、これなら贅沢をしなければ最低限の猟果でも、それなりに装備などの更新もしていけそうだ。


「……それは随分、破格ですね。正直、助かります。毎日、おいしい食事がとれるというだけでも嬉しいですしね。開拓村での食事は酒場でも結構、わびしい物でしたから……」


 礼を言ってから悲しいエピソードを語ると、ミシャエラは笑って「どういたしまして」と返してくれた。




 ミシャエラが本宅に戻っていき一人になると、私は背負い袋から紙とペンを取り出して机に並べた。

 この世界に来てから今日で九日。その間に身につけた魔法を書き出し、今後どういった運用が可能か考えてみようと思ったのだ。


 これまでの経験で魔法の合成や性質の変化には化学の知識が役立つというのが解ったし、一覧表を見ながらであれば頭の中だけで考えるより色んな発想ができそうな気もするしね。


「んじゃあ早速、書き出してみますか」


 一人になると独り言が出るなあ、と思いながらペンを走らせる。


 地属性:土壁

 水属性:水弾・水刃・電撃

 火属性:火弾

 風属性:なし

 水+火属性:水火弾


「こんなものか」


 最初から使えた水と火では、水の方が色々考えて使っていたためアレンジの種類も多い。村で活動していた頃は森の中でばかり戦っていたから火が使いにくかったというのもある。


「やはりここは火属性の応用を考えてみるべきか」


 紙のはしに簡略化した四属性のマークや猫や犬の絵を描きながら独りごちる。

 これまでは特に問題はなかったが、属性的に有効打にならない相手というのも考えられる。なるべくどれかに偏りすぎないほうがいいだろう。


「これまでに思いついたのは風属性が必須だから置いておくとして……」


 水火弾は正直、手間がかかるし魔力を多く消費するから習熟するメリットが少ないし、地属性との合成を考えたいところだが、火と地で何かあるだろうか……。


「うーむ。マグマとかは物凄い高温が必要だから無理だな……」


 土の融点はたしか摂氏一千℃以上だったか。そんな温度を一瞬で土に持たせるほどの火力は「火弾」では得られないだろう。というか仮に可能だとしても、マグマ的なものを作っていったいどう使うのかも思いつかない。


「やっぱ、風属性がないとダメか……。おとなしく電撃の使い方を考えてみるか」


 あっさり地+火は諦めて「電撃」の考察に移る。

 今日の狩りで「電撃」は補助的な使い方がいいのではないかと感じた。というのも火力では「火弾」「水刃」に劣るが、感電による麻痺効果が得られたからだ。野生動物のようなタイプの魔物には、それなりに大きな効果が期待できる。

 ただ現状では魔力供給を止めるとすぐに消えてしまうため、他の射出魔法ほどの射程は得られていない。


「となるとリーチを伸ばすか、魔力供給を行いつつ飛ばす方法を考える必要があるか」


 リーチを伸ばすというのはある程度考えがある。単純に長い武器の先端に「電撃」を発生させて攻撃する、というものだ。柄が木製の槍なら感電の心配もないし、恐らく実用に耐えるだろう。魔力を供給し続ければ、いわゆる魔法剣のように使えるかもしれない。


「電撃を迸らせながら振るわれる槍……いいねえ」


 想像するだにカッコイイ。問題はそれを行うのが私だということだ。素人丸出しおじさんでは格好がつかない。


「……まあいいや。次つぎ」


 魔力供給を行いつつ飛ばすとなると、何らかのガイド的なものが必要になってくる。単純に考えるなら伝導体を標的まで伸ばすということになるが、それになにを用いるのかというと……。


「やっぱり水かなあ」


 となると「水弾」か「水刃」と併用する形になるか。

 水弾なら単純に電撃を発生させつつ水の弾も維持する形になるから、手間も時間もほとんどかからない。

 水刃だと防御力の高い相手の表皮なり鱗なりを貫通させて、体内で電撃を炸裂させることも可能だろうか。電撃を発生させて維持しつつ水の玉を維持して圧縮、それから放つという段階を踏むことになるから、難易度も手間もかなり大きくなりそうなのが問題点か。


「何にしても練習してみることだな」


 これまでの魔法合成やアレンジは大体ぶっつけ本番でも成功しているが、使いこなすというレベルまで習熟するには毎晩の練習が不可欠だったし、戦闘で強力な魔法を使わなければならないということは当然、危険な状況であるということだ。そんな時のために備えておかないという選択はない。


 今夜からは槍+電撃の「電撃槍」電撃+水弾の「電撃弾」電撃+水刃の「電刃」この三つをメインに訓練することにしよう。

 あとは槍の使い方を教えてくれる師匠を見つけられれば良いんだが、あいにく私にはそんな伝手はない。グレイシアかオズマにでも聞いてみるべきか……。




 考えをまとめた私は本宅と離れの間にある裏庭に出、二時間ほど訓練を続けた。

 その甲斐あって電撃槍は比較的安定して維持できるようになった。とはいえ槍術の心得などない私ではどこまで有効活用できるかはあやしい。


 一つ気付いたのは、槍を振り回すと電撃と同時に発生する水が槍の軌道に沿って飛び散るため、そこに電気が伝って広範囲に攻撃することができそうな事だった。これなら牽制程度にはなるだろう。


「綺麗……」

「え?」


 電撃を穂先に帯びた槍を振り回しつつ思考に沈んでいると、背後から女性の声が聞こえてきた。

 うっかり電撃を撒き散らして感電させてはマズイので、魔力の供給を止め石突を地面について槍を振るのをやめた。


「ごめんなさい。邪魔しちゃったかしら」


現れたのはシェリーだった。


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