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20.探索者ギルド

 探索者ギルドカードって便利なものだとオッサンは思ったのだ。




 結局、昨日はオズマ宅で夕飯をご馳走になり、そのまま泊めてもらう事になった。正直、美人が多すぎて男としては厳しい状況だったのだが、恩人をこのまま帰すわけにはいかないと言われては断れなかった。

 行商人の護衛という仕事の上でのことなのだから、お互い様だと思うのだが……。


 イニージオへの道中での戦果はというと、さすがにストライクラビット二十匹+フォレストウルフ六匹+ブレードボア一匹という数だったので、かなりの金額となった。


 特にブレードボアが単体で三百Gにもなったそうで、私の取り分が二百五十二枚だった。それにプラスして護衛の報酬が百五十Gだから、二日で四百十二G。村近くの森で四日狩りをするのと同等だ。これはすごい。


「ブレードボアが綺麗に真っ二つになってたのが良かったな」


 とはオズマの弁。毛皮が傷まず、捌きやすかったそうだ。逆にストライクラビットの毛皮は胴体で両断されているものが多く、半分以上が単品としては扱ってもらえなかったとか。

 獣系は毛皮のウェイトが大きいから、余裕があるときは倒し方も考えるべきなのだろう。


 ちなみに魔物の肉は瘴気を含んでいるため食べられないそうだ。




「すみません。探索者の登録をしたいのですが」


 朝食を頂いてしばらくしてオズマ宅を辞し、私は探索者ギルドへと足を運んでいた。オズマとシェリーの勧めもあって、身分証としても使えるというギルドカードを作るためだ。

 いつまでもどこの誰ともわかりません、という状態でいたくもないしね。


 ギルドの建物はそこそこ大きく目立っていたので、すぐに見つけることができた。オズマに大通りを西に歩けばわかると言われたのも納得だ。

 ギルド内にはそれなりの人数の探索者と思しき人々がたむろしている。どうやら、飲食店も併設されているようだ。


「はい、それではこちらの申し込み用紙に必要事項をご記入ください」


 受付嬢が差し出す紙を受け取り、各項目を埋めていく。とはいえ、書ける事も多くはなかったが。何故かというと、私が来訪者だからだ。

 この世界の住人であれば当然、故郷があり、家族や知人がいるが、私にはそれがほとんどないのだ。そうなると自然と書ける事が、姓名とどこの村や町付近に現れた来訪者なのかという二項目だけになってしまう。


「あ、来訪者の方なんですね。それでは――」

「ちょっと待って。身元引き受けは私がやるわぁ」

「「えっ?」」


 書き込める場所のみを埋めて書類を受付嬢に差し出し、受領してもらうというところで待ったがかかった。何事かと振り向けば、そこにはすごい美人が立っていた。青味がかった銀髪を夜会巻きのようにまとめ、質の高そうな白い革鎧に身を固め腰には細剣を佩いている。


「「グレイシアさん?」」


 さっきから受付嬢と私の反応がシンクロしている。というか彼女が登場した時、周囲の探索者たちが物凄くザワッとしていたし、もしかしてグレイシアはギルドで有名人なのだろうか?


「「ええと……なんでまた、そんな事を?」」


 またシンクロだよ。


「それは彼が孫の恩人だからよぉ」

「もしかして、昨日の一件がらみですか?」


 彼女がそう言うと、受付嬢は思い当たることがあったらしく聞き返し、グレイシアは頷きを返す。「昨日の一件」というのは門前での戦いのことか。おそらく衛兵かオズマとシェリーが探索者ギルドにも報告したのだろう。


「いえ、それは仕事上のことですし……」


 あまり恩に着られすぎなのも困るんだが……と思いつつ、私は気にしないように言うが、グレイシアは納得していないと言わんばかりに首を横に振る。


「ソウシはこれから探索者として行動するのでしょう? だったら後ろ盾はあったほうが良いと思わない?」

「それは……そうですが」


 恩を返すという理由では私が納得しないと悟ったのか、彼女は切り口を変えてくる。


 確かに来訪者である私が一人で動くのは危険だ。この世界の常識もなく、物品の相場も知らず、探索者としての知識もないのだから、悪党に利用されたり詐欺にあったりすることは十分考えられる。それどころか強盗など刹那的な犯罪者に殺される危険性もある。村での一件のように。


「まだ納得いかない?」

「ええと……理解はしていますが……」


 縁あって知り合ったとはいえ、グレイシアと私の関係など「知人の知人」という程度でしかない。なのにここまでの便宜を図ってくれる理由がわからない。


 身元引き受けなどすれば、今後、私がなんらかの失敗をした場合、その尻拭いを彼女がすることになるということだ。

 となると私は一方的に利益を得て、グレイシアは一方的に不利益を負いかねないわけで。さすがにこれは……。


「わかったわぁ。はっきり言うと私、あなたのことがちょっと気に入っちゃったのよぉ」

「「え?」」


 何か予想だにしないことを言い出しましたよ、この人。

 受付嬢と私のシンクロ率も高まると言うものです。受付嬢が驚きに大口を開けて私とあなたを何度も見比べてますよ。


「魔法のアレンジとか融合とかの話も詳しく聞きたいしねぇ」

「「ああ、気に入ったって、そういう」」


 納得しました。実利的な理由なんですね。受付嬢も納得顔でしきりに頷いています。


「……わかりました。身元引き受けをお願いします」

「はい、お願いされましたぁ」


 観念して私がそう言うと、グレイシアは満面の笑顔で応え、受付嬢からペンを受け取ると書類に自分の名を記入した。

 書類を確認した受付嬢が「手続きを行いますので、しばらくお待ちください」と言い置き受付カウンターを離れた。いわゆるメンバーズカードを作るのだろう。


 こういう場合、創作物などでは何らかの魔法的な古代遺産を使って、現在では再現不可能な技術の塊みたいなカードを渡されたりするものだが、現実はどうなんだろう……と受付嬢の行動をみていると、彼女は四角い箱状の物のフタを開け、そこに私が記入した書類と金属のカードを置いてフタを閉じてからその上に手を乗せると、おもむろに魔力を流し込む。


 しばらくすると再びフタを開けて書類とカードを取り出し、受付カウンターへと戻ってきた。

 パッと見はスキャナかコピー機のような、あれはいったい……。


「フフ、あれは女神様に新たな探索者を登録するという報告をするための魔道具なんですよ」


 私が不思議そうにしているのに気付いたのか、受付嬢が軽く説明してくれた。今更だけど彼女もなかなかの美人さんだ。オズマ一家の女性陣が美人過ぎて、今の今まで感覚が麻痺していた。


「女神様が受け入れてくださったら、こうしてカードに書類の情報が転写されるんです」


 と彼女が差し出す金属のカードを受け取り確認してみると、本当に書類に記入したことが記載されていた。これはすごい。

 しかし、登録のたびに女神自身が確認して転写しているのなら凄く大変そうだ。女神様ご苦労様です。


「受け入れてくださったら、ということは受け入れられない事もあるんですか?」

「はい、ありますよ」


 私の疑問に受付嬢は「女神様と契約していない人や、凶悪な犯罪を起こしていたりする場合ですね」と教えてくれた。ますます女神様のお仕事が増えるなあ。


 何にせよ、ちゃんとした身分証明システムを用意してくれた女神様に感謝だ。


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