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159.魔神顕現

 オッサンは思わず言葉の意味を考えてしまったのだ




「ウオオオーン!」


 風、火、地と三属性の魔法を凌がれ、あとはもう「電撃」ぐらいしかない、と考えていた私よりも先に動いたのはグランツだった。

 竜巻による暴風の壁を突き破り、激しく放電しながら敵を目指す。


「うがぁッ! コノヤロッ!」


 グランツに電撃タックルを食らわされ、ヴァラールが苦悶の声を上げる。どうやら電気は効くようだ。

 しかし「竜巻」によって常に風が吹き荒れている状況では、遠距離攻撃は現実的じゃない。なにしろ「電刃」「電撃弾」は水の魔法に電気を帯びさせて撃ち出すものだから、風に吹き散らされてしまう。


 ならば「招雷」はどうかと言えば、これまた風で雲が集まらないので無理だ。畢竟、接近戦用の魔法である「電撃槍」しか選択肢がない。しかしこれも、威力という点であまりに頼りない……。相手が超巨体なのがとてつもない壁に思える。


 とはいえ、考えている間にもヴァラールはその体をどんどん完成に近づけていっている。さっきまでは上半身のみだったのが、今現在は太腿の半ばまで現れているのだ。


「いや、もう一つ……二つか、あったな」


 意を決し、巨人の内懐へと一息に飛翔する。まずは――。


「金剛剣!」


 私の言葉と共に現れたダイヤモンドの粒子が一気に回転を始め、刃の鋼とこすれあう硬質な音が辺り一面に響き渡る。

 ワイバーンの首をあっさり切り裂いた、武器の刃に沿ってダイヤモンドのチェーンソーを作り出すこの魔法。


――果たして効くかどうか。

 不安を抱きながらも、私は槍の切っ先を全力で袈裟に振り下ろした。


「ウガァアアア!! 『雷神』ッ! てめえぇッ!」


 胸を斜めに切り裂かれ、再びヴァラールが怨嗟の声を上げる。どうやら「金剛剣」は問題なく効くようだ。痛みに集中が切れたか、「竜巻」も効力を失い霧散する。


 今なら更に追撃が可能だと判断し、私はもう一つの魔法の準備をするためにヴァラールの傍から離れ、北西へと移動した。私の行動を見たグランツも、速やかに巨人から遠ざかる。


 各国の国境付近は、山、谷、川などで大まかに分断されている。ここ、ガイア・フェイゼ国境に近い街道沿いにも、例に漏れず大きな川が流れている。


 その川の水を利用する魔法。まずはその第一段階だ。

 大量の水を巻き上げ、ヴァラールへと向かわせる。やつは私の動きに気づいたようだが、まだ足がない状態では逃げられまい。


 とはいえ対処される時間を与えるわけにもいかないので、急いで水をヴァラールの巨体にまとわりつかせる。

 ――そして魔法を発動。


「名付けて『氷結地獄』」


 水から、あるいは水分を含んだ物体から火の精霊を払うことで凍らせる「氷結」、その超強化版。

 最初は直接、魔物から精霊を払えば良いと思ったりもしたが、どうやら生き物相手では、よほど力の差がないと凍らせることはできないようだった。そこで水をかけてから、相手自体ではなく周囲の水を凍らせることにしたのだ。


 広範囲の火の精霊を一瞬で払ったことで、水をかぶった巨人は抵抗する暇もなく全身を真っ白に凍てつかせる。

 周囲の空気も一気に冷却され、凍結した水分がヴァラールを中心にブワリと広がった。


 ……これもしかして酸素とか窒素とかも凍ってない? 確かマイナス二百℃とかでないと凍らないはずだけど。

 気体から直接だから、そう大した量ではないだろうけど、これは危ないな。吸っただけで死にそうだ。


 懸念の通り、平原に直径何百メートルも広がった冷気の影響を受けた多数の魔物が、次々に凍っては倒れてゆく。ある意味「火炎旋風」よりよっぽど怖い。もう滅多なことでは使わないようにしよう。


 それは置いておくとして……ヴァラールだ。

 見たところ、凍りついて以降、全く動きがない。が、これまでの名もなき神関連の魔物の様子から考えれば、形が残っているのが生きている証拠みたいなものだ。


「とはいえ……自分でやっておいてなんだけど、この状態に近づくのも危険すぎる」


 火の精霊を集めるなり、火属性の魔法を使うなりすれば解決するのだが、せっかく凍っているのを融かしてしまいそうで躊躇する。

 どうするのかと問いたげな様子で飛んできたグランツの鼻面をひとなでし、私は冷気が収まるのを待つことを選択した。


 そこで不意に、冷気の影響を受けない距離にいた魔物の様子がおかしいことに気づく。


「なんだ……? 地下に」


 ――潜っている?と言いかけたところで、凍っていた地面が下から爆発するように砕け散り吹き飛んだ。

 グランツと共に慌てて高度を上げ、土埃と氷の欠片で視界の悪くなった地上を見やる。


「業火球!」


 地の底から響くような声が轟き、いきなり爆発するように発生した豪炎で、ほじくり返されていた平原がもう一度宙に舞い上げられる。

 どうやら炎はヴァラールを焼いているようだ。……これは、自分で火を着けて氷を除去したのか。


「うっ!」


 ヴァラールの行動に動揺していると、炎の向こうから巨大な何かが迫ってくるのを感じ急いで飛び退く。その直後、私のすぐそばを鋭い鉤爪を備えた大きな手が通過していった。


「やってくれたナァ……『雷神』ンン……!」


 若干、呂律の怪しくなったつぶやきが聞こえ、巨大な質量を持った物が通過した風圧で吹き飛ばされた炎と土煙の向こうから、焼け焦げたりひび割れたりはしているが、しっかりと足の先まで形作られた巨人が現れた。


 どうやら魔物が地下に潜っているように見えたのは「地下で足を作っていたから」らしい。もはや近辺の魔物は、数キロ西で南下しようとしている数百体ほどしか残っていない。……それほどの量を一気に使ったということか。


「ギャアアアオオオオオオオ!!」


 まるで産声のような咆哮を上げ、ヴァラールが巨体を立ち上がらせる。

 百メートルを超える体長、脈打つように蠢き盛り上がる腕、口からは長大な牙が、頭からはヤギのような角が生え、背中に体長に倍する巨大なコウモリの羽とトカゲの尾を備えているその姿は、まさに悪魔――いや、魔神と呼ぶべき威容を誇っていた。


 響き続ける咆哮は、それそのものに物理的な破壊力があるかのように大地をひび割れさせ、森の木々を激しく揺らし、山肌を崩壊させてゆく。


 空中にいる私とグランツも、その影響を受けて大きく後退することを余儀なくされた。

 弱い人間なら、声を聞いただけで死に至りそうな圧力だ。


「ハァアアア……イイ気分だァ……」


 数十秒後、咆哮をやめた魔神・ヴァラールは、いかにも愉悦を感じていると言わんばかりの声を漏らした。


「コレで俺をバカにしたヤツラを、思う存分ブっ殺せル」


 思わず何を言っているのか考えてしまうようなセリフを口走り、魔神はその翼を大きく広げた。


「マズは王都、ソレからイニージオだ」


 そう宣言し、ヴァラールは竜の如き羽を一打ちし、その巨体を宙に浮き上がらせる。

 羽の動きで激しい突風を発生させながら高度を上げる魔神。

 その目は遥か南を見据えていた。


 ――止められるのか? この恐ろしい存在を。


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