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147.式典終了

 改めて確認しないとわからないこともあるなあとオッサンは思ったのだ




 その後、式典はつつがなく終了し、我々は解放された……と言いたいところだが、まだ夜会があるらしい。

 貴族の集まりであるため、私は出席せざるを得ない。パートナーであるグレイシアもだ。あとは教会的には聖女であるコナミと護衛のエリザベートも、ということになる。


 シェリー、アルジェンタム、エミリア、グランツは、我々にあてがわれた部屋でお留守番だ。


「いやー、まさか永代貴族になれるとはなあ」


 デビッドとともに我々の部屋に遊びに来ているジョージが嬉しそうにつぶやく。デビッドも笑顔で頷いている。

 今回の褒賞で、アルムット家当主であるジョージは名誉がとれたうえに昇叙して男爵に、デビッドは「名誉」がつかない士爵を叙爵。名実ともに貴族となった。


 スケルトン大発生で王都湖上区を拠点とする貴族が大量に死んだことにより、色んな面で人が足りなくなっている。

 ということで戦ったうえで生き残った、地図にも載らない小さな村を領地とする男爵・士爵家は軒並み昇叙。嫡男でない息子たちは士爵を叙爵、というのがメインの流れだ。


 そうして爵位を与えられた若者たちは、文官あるいは武官として各所に配属されることになるとか。おそらく湖上区で亡くなった人たちの穴を埋めるということだろう。


 また、湖上区で出た犠牲は貴族以外にも多く、貴族向けの各種商店がほぼ機能していない状態だそうで、その辺りの対処にも多くの人員が割かれる。それから最大の被害を受けた教会関係もだ。


「昇叙なさった方々には、色々と頑張っていただくことになりますな」


 そう言うのはニッチシュレクト元枢機卿、現教皇だ。彼もわざわざ挨拶に来てくれている。

 スケルトン大発生当時、王都の教会を離れアインスナイデン辺境伯領に赴いていたことで難を逃れることになった元枢機卿も、教会の立て直し(組織的な意味で)に奔走していた。


 地方に赴任していた司祭の内の何人かは司教として王都に戻り、また何人かはその穴を埋める……というような異動がなされるようだ。

 形としては昇叙によって領地を嫡男に任せて王都に上がる貴族と似たような感じだ。


 これまで意識したことはなかったが、地図上には王家直轄領、侯爵領、辺境伯領くらいしか記載されていないのに、子爵以下の貴族家だけで数十家はあるという。そして、そういった家の大半は自領の開拓が上手くいっていないそうだ。


 というのも、貴族に与えられる領地の大半は森か荒れ地で、どこにでも魔物がいるこの世界では、開拓要員以外にも多くの戦力を必要とする。

 すると当然、金がかかるが、消費した分を回収するのには十年単位の我慢が必須になり、その間の維持費もプラスされてどんどん苦しくなっていく……。


 その結果、ほとんどの貴族家が領地運営・開拓よりも商売に重きを置くようになって、文字通り猫の額ほどの狭い開拓村しか持たなくなるのだとか。

 だから二十家ほど王都に上がっても、さほど影響はないそうだ。


 話を聞いた時はこんな歪な形態でよく国が保つなあと呆れたが、それは魔物との生存競争という難事が前提にあるからだと後で気づいた。


 大雑把には、国が成立してから領地を広げる→魔物に押し返される→領地を広げる……ということを繰り返し、建国初期は隣国との戦争も混じってくるというのだから、そりゃあ安定した開拓なんて無理だなあ、と言う他ない。


 ベナクシー王国も現在の国境線にちゃんとした砦を築くまでは、領地が広がったり狭まったりを千年近く繰り返していたという話だ。これは他国でも似たような歴史をたどっており、いかに魔物という存在が大きな障害であるかがよく分かる。


「できれば『妖精の唄』の皆さんにも力を貸していただきたいところなのですが」

「そうですね……できることはするつもりですが、現状、我々がどこかにかかりきりになるのはまずいでしょう」

「確かに……名もなき神に対する備え、その切り札とも言えますからな」


 ニッチシュレクト教皇の言葉に答えると、彼も納得とばかりに頷く。

 ……まあ、実のところ、名もなき神を倒し終えたら王様にもらった島に引っ込んで、半ば隠居状態になってしまおうと思っているのだが。


 なにせ私の力は人間社会への影響が大きすぎる。それこそ最初の来訪者に準じるほどの力を得ているのだから、武力的な意味だけでもどこかに肩入れすれば確実に大きな軋轢が生まれる。


 もちろん人間同士の争いに力を使えば魔法は使えなくなるだろうから、対魔物でということになるが、それだけでも開拓がとんでもなく捗るであろうことは簡単に想像がつく。


 かといってあらゆる国や地域に手を貸せるかと言うと、そう単純にはいかない。

 今の私はベナクシー王国の住人であり、名誉付きとはいえ貴族だ。その私が王の許しもなくホイホイ他国に力を貸すことはできないのだ。


 ということで引きこもるのがベターという結論になる。戦いが終わったらグレイシアも進化してしまうだろうしね。


「失礼いたします。タカミ卿、衣装をお持ちいたしました」


 おっと、そろそろ夜会の準備のようです。




 夜会開始までの二時間ほどで、私は被服職人と侍女たちの手によってお仕着せのパーティ衣装を体型に合わせて誂えられた。実に見事な手腕だった。


 すべて整って鏡を見せられた時に抱いた感想は「意外と鍛えられていたんだな」というものだった。

 この数ヶ月の半分くらいは一日中戦ったり歩き回ったりしていた気がするが、自分の体型に与える影響を確認したことはなかった。


 ふと「昇級による向上とは別に、基礎となる身体能力も鍛えるに越したことはない」と聞いていたのを思い出す。

 実際、動きやすくなっている感じもあったし、こうして目で見ると、なるほど納得という感じだ。


 それと以前「若くなってる」と言われたことも思い出した。確かに、自分のイメージする自身の姿より若く見える。昇級の恩恵か、それとも「回帰」を頻繁に使ったことによるものか……。謎だが、まあ、何かが良い方に働いているのなら、それで良いと思うことにしよう。


「タカミ卿、会場にご案内いたします」


 侍女に声をかけられ、私はグレイシアと共に部屋を出る。

 結局、家名は「地球」にいた頃のものをそのまま使うことにした。「ガイア」で生きるからには何もかも捨ててしまうべきか……とも考えたのだが、新たな来訪者が現れた時「いかにも日本人」という名前の人物がいると分かれば、頼ろうと考えるのではないかと思ったのだ。


 コナミはまさにそのパターンだったし、今ならば私にもそれなりの余裕がある。悪人でもない限りは同郷の誼というものもあるし、ある程度はサポートすることも可能だろう。


「グレイシア、よく似合ってるよ」

「ありがとう。ソウシも素敵よ」


 物思いにふけりかけたところで思考を現実に戻し、私の左手に抱きついているグレイシアに声を掛ける。私の言葉に応える彼女は満面の笑顔だ。

 被服職人と侍女の手によって、グレイシアも見事にドレスアップされていた。


 長い髪をいわゆる夜会巻きにまとめ、耳には琥珀のイヤリング。ボディラインにピッタリと吸い付くような純白のマーメイドラインのドレスに、首元を飾るシンプルな金のネックレス。メリハリの利いたスタイルは、首すら露出していないのに強烈な色香を放っている。


 はっきりいって漫画みたいなプロポーションだ。スゴイ。

 私の方は普通のオッサンだ。いや若干きたえられたオッサンだ。釣り合いは取れてないなあ……。うーん馬子にも衣装。


 ともあれ、新人貴族(名誉付きだから名前だけだが)だから偉い人たちよりも早く会場入りしなければ。


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