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144.移住計画

 オッサンはまさかこんな展開になるとは思っていなかったのだ




 結局、白浜一家は全員で「ガイア」に移住することにしたそうだ。

 コナミは先に戻り、白浜夫妻は土地やアパートを売却してからとなる。


「ソウシさん、家まるごと向こうに持っていけないかな?」


 おっと、コナミが中々アクロバティックなことを言いだしましたぞ。


「うーん……『土壁』で土台むき出しにしてから『石壁』で土台のさらに下に受け皿みたいなのを作れば、なんとかなる、かな?」


 インフラはどれも切断する必要があるし、当然ガスも電気も水道も使えなくなってしまう。まあ、その辺は魔道具でどうにかなると言えばなる。一番の問題は……。


「持っていっても設置場所がないってことだね」

「あー、そっか……」


 イニージオの町だと、これまで見た感じではほとんど土地は余っていなかったし、町の外に置いておくわけにもいかない。これにはコナミも納得顔だ。


「あ、しばらく『妖精界』に置かせてもらうという手もあるか」


 後はピュエラ殿下と交渉して、報酬はどこかの土地で……なんて方法もとれるかな。まあ、これは可能かどうかはわからないけど。

 でもスケルトン大発生と名もなき神への対処は国を救うレベルの働きだったはずだから、きっとどうにかなるだろう。


「それと電化製品の類は、持っていかないほうが良いだろうね」

「あー……そっか。色々不思議なものがあるとなると、欲をかく人が出てくる可能性があるもんね……」


 あの司教さんみたいに。とコナミは私の言葉に返す。

 直接危害を加えず、拉致監禁して技術・知識を独占しようとする者は過去にもいたらしいし、その原因になりかねない物は極力排除しておくに越したことはない。


 白浜夫妻は私とコナミの話し合いを無言で聞きつつ、しっかりメモを取っている。おそらく持っていく物と売却する物を、きっちり分けてしまうつもりなのだろう。


「自転車とかは?」

「うーん……構造自体は割と単純だから大丈夫、かな? ドワーフに見せたら、あっさりコピーしそう」

「あー、ありそう」


 雑談しつつ、危なくないレベルを洗い出していきましょうかねえ。




 私と白浜一家が話し合いをしている間に、他の子たちは白浜家のパソコンを使って「ガイア」の食材で再現可能そうな料理のレシピを収集していたようだ。きっちりプリントアウトして冊子化している。


 それと共に、あると便利な計量道具や調理器具などもリストアップしたようだ。

 意外にも、元王女のエミリアが中心となって色々と相談したらしい。いや、親子三代女性ばかりの家で育ったのだから、料理ができるのは当然なのかもしれないが。


「ソウシ、どこか揃えやすいお店あるかしら?」


 グレイシアの質問に少し考えてから「ホームセンターかな」と答える。

 歩いて行ける(まあ、我々ならたとえ百キロ先でも歩いて日帰りできるが)程度の距離だし、色んな物を一度に買い集めようと思えば妥当であろう。


 私の答えに満足したのか、グレイシアは一つ頷いてから子供たちと共にでかけていった。もちろんコナミも一緒だ。

 私はひとり残ることになったが、別にハブられているわけではない。


 コナミとの話し合いで自転車のことが挙がったが、ちょっとした機械に関する知識は「ガイア」に持ち込んでも良いのではないかと考えた。

 現在、ドワーフの谷で運用されている、昇降機や人力トロッコの延長線上にあると思われる物などだ。


「うーむ……。となると、やはり魔法をなんとかして動力に使えるようにしたくなるな……」


 言うなれば「魔力機関」か。形としては内燃機関のような物になりそうだ。……とはいえ、私が作れるわけでもないから、あくまでそういう物はどうか?と提示する程度になるだろう。後はドワーフの職人に期待だ。


 いきなり自動車――魔力で動くのだから「魔動車」とでも呼ぶか――というわけにもいかないだろうから、ポンプや製粉などに使える程度の物からかな。


 あとは振り子時計も良いか。確かあれは電気などを使わなくても動くものだったはずだ。きっちり正確にとはいかないだろうが、大雑把にでも時間がわかれば便利だろう。まあ、どの程度需要があるかは分からないが……。


それにしても。こうして考えてみると意外と思いつかない。

 なんとか白浜夫妻が不便を感じない程度の設備を用意できるように考えるしかない、か。




 それから数日、我々は思いつくままに必要そうな物を購入したり、ネットからダウンロードした情報をプリントアウトするなどして過ごした。


 現在、女性陣は「ガイア」にあるものでいかに石鹸やシャンプーなどを再現するかの実験にかかりきりになっている。というのも、地球の製品を使ってしまったがゆえに、あちらの物では満足できなくなったのだそうだ。


今日まで「地球」側で十日以上が経過したが、「妖精界」の方はまだ半日ほどしか経っていない。念のため、何回か「ガイア」にも戻ってみたが、そちらも同様だった。やはり「精霊界」を越えると二十四倍ほどの経過時間の差がある。


 ちなみに「異界門」を開いている時の「地球―妖精界」間などの「精霊界」をまたいだ移動では、「地球」からは「妖精界」の時間経過が遅く、「妖精界」からは逆に早く流れているのが確認できた。それぞれの世界に設置しておいたアナログ時計の秒針が殆ど動かなかったり、ものすごい速度で回ったりするのは、なかなか不思議な感覚だった。


 なお、「地球―ガイア」間を試していないのは、魔物が門を通過してしまう可能性を考慮してのことだ。

 これまでの体感では「魔界」「地球」はかなり瘴気の濃度が高い。もともと瘴気濃度の高い、さらに実体化までに時間差のある「魔界」よりも、「ガイア」に門を開く方が魔物を誘引してしまうリスクは高いと思われる。


 まあ、「ガイア」の、それも森の浅い領域の魔物であれば、よほどの大物でもない限り「妙にでかい動物」として対処されるとは思うが……。危険は冒さないに越したことはないだろう。




「できた!」

「ええ、これなら十分な効能だと思うわ」


 さらに数日後、ついに女性陣による石鹸・シャンプー・コンディショナー製作が終わったようだ。

 みんな風呂上がりでスッキリした顔をしている。


 詳細は確認していないが、彼女たちの様子を見る限り満足の行く出来なのだろう。美容に対する飽くなき執念を感じさせる。こういう時、男は黙っているのが無難だと思う私であった。


「どう?ソウシ。いい感じだと思わない?」


 あ、沈黙は金とはいかないようです。


 私はシェリーの問いかけに「いい香りだし、みんな瑞々しい感じでいいと思うよ」と無難な答えを返しておいた。


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