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143.魔界での訓練

 再生能力って厄介だなあとオッサンは思ったのだ




 白浜家の動向を静観しつつ、我々は一週間を日本で過ごした。

 その間にガイアと地球を行き来して確認したところ、概ね「ガイアの一時間=地球の一日」の経過時間となっているようだ。約二十四倍の差があることになる。


 むこうでのベナクシー王都へ行くまでの猶予期間は残り五日ほどなので、こちらにいる限りは今のところ急ぐ必要はないとわかったのは僥倖だ。念のため、滞在期間中は毎日確認は続けるつもりだが。


 ちなみにどうやって調べたかというと、単純に「妖精界」に腕時計を置いておいただけだ。カレンダー付きだから日が変わっているかどうかも確認できるからね。


 ついでというわけではないが「魔界」も調べてみたところ、こちらもガイアとは約二十四倍の差があった。どうやら「精霊界」を越えた途端に時間の経過速度が上がるようだ。

 どういう理由によるのかはまったくの謎のままだが、世界毎に大きく変動していなかったのは分かりやすくて助かる、と考えておくとしよう。


 というようなことを皆に話すと、しばらく体を動かしていなかったことから「魔界」でちょっと訓練をしようという流れになった。

 グレイシアとしては、エミリアをもうちょっと昇級させておきたいと思っていたそうで、時間に余裕があるならやってしまおうということらしい。




 日本滞在八日目の朝、我々は林の土中から回収しておいた装備を身に着けて「魔界」へと移動した。

 これまでの使用で「異界門」は術者の思い描いた場所につなげることができると判明したので、アパートの部屋から直接の移動だ。


 これによって「地球―妖精界」間の移動も「異界門」一発で行けるようになったのでとても便利だ。といっても消費魔力は世界一つを移動する時より大分多くなるが。まあ、今の私にとってはさほど神経質になる必要はない程度だ。


 それから「現世界―隣の世界―現世界の行きたい場所」というようにぴったりくっついた門を開くと、いわゆるワープゲートのような使い方もできるようになった。もっとも、知らない場所には行けないが。


 ワープゲート――「転移門」と呼称するか。これを十全に活用するためにも、あちらに戻ったら用事がなくても大陸中の国々を回っておくべきかもしれない。大雑把に数箇所だけでも門を開ける場所があれば、飛んでいくより速いこともあるだろうしね。


「じゃあアルとエミリアがメインで、シェリーとリズがフォローね。なるべくエミリアが倒す方向でいきましょう」


 グレイシアの指示に従い、子供たちが陣形を整える。私とグランツは全体の護衛?と周辺の警戒を担当する。

 コナミは今回は不参加。彼女は両親との話し合いが大詰めのようだし、念のため、昇級に繋がる可能性のある戦闘を控えることになっているのだ。


 エミリアを除いた参加メンバーは、進化云々は置いておいて、名もなき神に万全の態勢で当たることを優先する方針となった。

 なるべく前に出ず回復役をこなすコナミと違い、接近戦をする可能性の高い者たちはできる限り強化しておくに越したことはないのは事実だ。


 それに「ガイア」で生きる者の意識が、自然と生き残る確率が高い方を選ぶようになっているのだろう。

 この辺は現代日本人とは違うところだなあと感じる。私もいまだに平和ボケ的な考えは抜けていない。一人でなんとかしようとか、疑念はあっても確証がないと話さないとか、そういう部分だ。気をつけねば。


 と、そんなことを考えていると、すでにデーモンが現れ、戦端が開かれていた。まあ、ゴブリンだから特に問題はあるまい。

 女の子チームの陣形の後ろからも魔物が現れ始めたので、倒してしまわないように加減して槍の穂の腹でササッと前方へと押しやる。


「エミリア、次いくわよ」

「はい!」


 そこそこ短時間で新たな個体が現れるため、全部まわされるエミリアは大忙しだ。とはいえ格下の相手だから、さほど慌てることもなく両手に持った短剣で次々にゴブリンを倒している。


 まずはウォーミングアップというところか……と思っていると、徐々にデーモンの出現間隔が広がりコボルトも現れはじめた。

 エミリアの昇級は現在五回だから、まだ余裕があるだろう。次に出ると思われるオーガからが本番だ。


 この一週間で「魔界」の魔物についてもある程度調べた。

 ゴブリン→コボルト→オーガと来て、その次に現れたのはトロール。あいかわらず頭部は骨に皮膚だけ貼り付けたような物で、耳が尖っていて体は大きくまるまると太っている。他のデーモン同様、これもまた、ほぼ日本人が思い浮かべるトロールの姿と言ってしまっていいだろう。


 その他に現れたものとしては、いかにも悪魔といった風情のヤギ頭に人の体を持つレッサーデーモン。

 オーガ並みの巨体に肉食恐竜のような頭部、さらにバッファローのような角とドラゴンのような翼に尾を持つグレーターデーモン。


 私が確認したのはここまでだ。まだまだ他の種類がいる可能性は高いし、レッサーデーモンの時点でウィルムと同等以上の強さで、我々の使う魔法にも似た「瘴気術」とでも呼ぶべき攻撃をしてくるため危険だ。


 それにトロールを筆頭に再生能力を持っているため、じっくり時間をかけて戦うということがしにくい。

 幸いオーガ以降は多くても二~三匹しか出てこないようなので、焦らずしっかり大火力の攻撃を当てていくことが大事だ。


「ここからは全員で普通に戦うわよ!」


 グレイシアの指示に子供たちが応え、相手を弧の内側に収めるような陣形に変化する。とうとうオーガが出てきたようだ。

 私も気を引き締めて警戒に当たるとしよう。




「あんまり効いてない!」

「エミリア、一旦さがって!」


 シェリーの叫びに反応し、グレイシアが指示を飛ばす。

 さすがにデーモン・トロール相手では武器での攻撃だけでは押しきれないようだ。女性陣の武器がどれも短かったり軽かったりするのも影響しているだろう。


「金剛剣!」


 エミリアとアルジェンタムが飛び退くのを見届け、シェリーの魔法が発動する。彼女の腰のポーチから飛び出したダイヤモンドの粒が、細剣の刃にまとわりついた。


 どうやら、あらかじめ作って小袋にしまっておいたようだ。「金剛剣」で最も魔力を消費する部分をなくすことで、気軽に使える状態にしたのだろう。


「回帰!」


 続いてエミリアの魔法がトロールの顔に照射される。彼女の「回帰」は私ともコナミとも異なり、初期段階でもある程度離れた単体の相手に効果を発揮するタイプだ。


 五度昇級した現在では、十メートル程度なら問題なく届く。そしてデーモン系は瘴気の塊であるためそれなりに効くので、足止めには丁度いい。


「はっ!」

「疾風斬!」


 動きの止まったトロールの足がシェリーの金剛細剣で切断され、バランスを崩したところにアルジェンタムのトドメの一撃が打ち込まれた。斬撃を風の魔法で加速・高速化させることで威力を高めている。見事なものだ。


「撤収するわ!」


 トロールが瘴気の靄に還り、シェリーが魔石を拾ったところでグレイシアが宣言する。さすがにトロール連戦は危ないと判断したようだ。それに短時間でも濃い経験が積めたと思われる。


 グレイシアの視線を受けて、私は「地球」への門を開く。さあ、帰ろう。




 その夜、白浜一家の方針が決まったとコナミから話があった。明日の朝に詳しいことを話したいとのこと。


 はてさて、どうなったのやら。


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