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130.慰安旅行

 予定通りにいくと気分が良いとオッサンは思ったのだ




「グランツ、でっかくなったなあ!」


 イニージオの町に戻って数日後、私たちは慰安旅行?に旅立った。

 そしてドワーフの谷を訪れた我々を待っていたのはドワーフたちの驚きの声だった。それも移動して別の者に会うたびに同じリアクションだ。


 まあ、普通サイズだった狼がドラゴンもびっくりなビッグサイズになれば、驚くなというのも無理な話だよね。

 段々とあちこちに話が広がって、みんな表に出てくるものだから挨拶に行く手間が省けて助かったりもした。


「なるほどな、それで新装備か」


 他のドワーフたち同様、騒ぎにつられて出てきたアーロンとコベールに、これ幸いとエミリアとグランツの新装備について相談した。

 そこで早速、二人の採寸を行なうことになった。当然エミリアは室内でだ。


 グランツの方は採寸とともに鞍っぽい物のデザインなども決めてゆく。

 最終的には、グランツ自身が動きにくくならないように柔らかい素材をメインに製作することとなった。搭乗者は座ったあとに落下防止用のベルトを装着する形になりそうだ。




 最初にやっておくべきことを終えた私はグレイシアにその場を任せ、アルジェンタム、グランツとともに竜人族の住処へ向かった……十分ほどであっさり到着した。


 初めてお邪魔した時に比べると、はるかに短時間で到着するのもなんと言うか……風情がないなあ、なんて思ったりもした。

 まあ、楽になるのは良いことではあるのだが。


「よく来た。グランツ大きくなったのう」


 出迎えてくれた白嶺が、そう言ってグランツを撫でる。ここでもやはりグランツの大きさが話題になるようだ。

 他の竜人たちもグランツの毛並みに夢中だ。


 グランツの娘・ツララはグランツ山を絶賛登山中。銀鈴も釣られて一緒に登っている。

 ツララはまだ体長四十センチ程度だから、グランツの毛に半ば埋もれているが……溺れないよな?


「お土産は?」


 淡い緑髪の竜人・萌黄がグランツの毛並みに満足したのか土産を要求した。私は背負袋から幾つかの箱を取り出して、魔法で即席に作ったテーブルに乗せる。


 赤い長髪の竜人・紅蓮と、短い金髪の竜人・黄金も気づいて早足でテーブルに近づいてきた。

 だが残念ながら今回はドワーフの谷にあった物だけだから、それほど珍しいものはない。


 それでも竜人たちにとっては滅多に口にしないものばかりだったようで、特に文句などは出なかった。良かった。

 カトゥルルスからの帰りにでも、またあちらのお土産を買ってくるとしよう。


ひとしきり雑談したり、銀鈴に先日のお礼を言ったり、ツララをかまったりして楽しんだ後、アルジェンタムとともに彼女の父・クラーツの所にお邪魔した。


 アルジェンタムは彼女にしては珍しく、積極的に父に甘えている。

 昇級の影響で体は十二~三歳くらいまで大きくなった。が、実年齢は六歳前後だから、精神的にはまだまだ子供だということだろう。


 状況に流されて、アルジェンタムのような子供まで戦場に駆り出してしまっているのは忸怩たるものがある。とはいえ選択の余地がないのも事実。

 彼女が自分を戦士と定義している以上、戦いをやめることはないだろう。ならば私たち大人がフォローしてやりたいところだ。


 とか言っておいて、助けられるのは私だったりするんだろうなあ……。




 夕食の席を全員で共にし、アルジェンタムは父と、私はグランツ・ツララ親子と共に眠った翌朝。

 予定通り竜人の住処を後にした私たちは、ドワーフの谷に宿泊したメンバーと合流した。


「ここが地竜の地下迷宮……」


 巨大な洞窟を前にし、エミリアが感嘆とも恐れともとれるつぶやきを漏らした。


 グレイシアが昨日のうちにドワーフの族長・ディアマンドに通行許可を取っておいてくれたので、今日はここを探索しつつカトゥルルスを目指すことになる。


 そもそもの発端は、エミリアが昇級したいと言ったことだ。彼女は現在、三度の昇級を経験しているそうだが、身を守るにはそれでは足りないと思ったらしい。

 先日の惨事を経験すれば、そう感じるのもむべなるかな。


 こちらとしても身内が強化されるのは歓迎するところだし、ドワーフたちによって整備されつつある地竜の地下迷宮も見てみたいと思っていたから丁度いい、ということで今回のアタックとあいなった。


それで現在、整備された区画を抜け、未整備の、本当の意味での「地竜の地下迷宮」に踏み込んでいるのだ。

 ここまでと異なり、地面も壁もアースドラゴンが掘ったままの状態で、いかにも「巨大な生物が魔力と腕力に物を言わせて掘りました」と言わんばかりの荒削りな洞穴が遥か遠くまで続いている。


 光の差し込まない、冷たい静寂に包まれた地下洞窟――。その雰囲気は弥が上にも不安を煽るものだろう。


「先頭はアルとシェリー、次にエミリア、あとの人は好きな位置に陣取ってくれ」


 ただし、魔物が出てきたらメインで戦うのはエミリアだ。私はそう告げ、各人に移動を促した。

 探索者団のメンバーは気楽な様子で、エミリアは緊張で身を強張らせながら頷き動き出す。


 カトゥルルスへ通じる順路とでも言うべき道には五十メートル程の間隔毎に魔導灯が設置されているため、薄暗いがそれなりに周囲を確認することもできる。だが、本道を外れると灯りのない真っ暗闇だ。


 当然、我々が進むのは脇道。

 アルジェンタムとシェリーの誘導に従い、どんどん暗い方へと進んでゆく。二人にはなんらかの生物が動く音などが感じられるのだろう。


 ……いや、私にも感じられる。結構、遠くにいる幾つもの動く気配。

 なんというか、生命力とか魔力だろうか? そういった物が見ずとも把握できる。

 これは恐らく私がハイヒューマンに進化したことによる能力強化の一端だろう。慣れるためにも今後は意識して気配を探るようにしたほうが良いかもしれない。


「精霊光」


 何も気配を感じられるのは魔物だけではないようで、仲間たちの空気もなんとなく分かる。

 特にエミリアはかなりいっぱいいっぱいな感じだったので、視界を確保する意味も込めて「精霊光」を使ってみた。


「あ……」

「もうすぐ魔物が見えてくる。ちょっとだけ落ち着こう」


 白い光に照らされた途端、エミリアから安堵したような声が漏れた。

 彼女も「暗視」は使えるようになっているが、シェリーと同じクォーターエルフとはいえ練度が違う。そのため、どうしてもボンヤリとした視界しか確保できていなかったのだろう。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 笑顔を見せるエミリアに私も笑顔で応える。「精霊光」の鎮静効果?で落ち着けたようで良かった。

 グレイシアが許可を出したということは、いつも通りの実力を発揮できれば大丈夫なはずだ。


 さあ、エミリアの力を見せてもらうとしよう。


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