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124.激戦

 オッサンは自分の未熟さを恥じたのだ




 それこそ「やったか?」と思った瞬間だった。

 私の放った袈裟斬りにより、身を捩った名もなき神の左側頭部~左胸~左腿が切り落とされ、真っ黒い瘴気の粒子となって消えていった。その途端、ヤツは思いがけない行動に出た。


「グオオオオオオ!!」

「ぐっ!」


 裂帛の気合とともに放出された魔力が私を一瞬で吹き飛ばし、名もなき神の失われたパーツを、バラバラに分解されたジャイアントスケルトンセンチピードの骨が補ってゆく。


 その結果、ヤツは人間大に戻ったが、その左半身は圧縮された骨によって真っ白い外骨格のような姿となっていた。さながら骸骨魔人といったところか。


「よくも……我が身を魔物にまで貶めさせてくれたなァ……!」


 恨めしげな言葉とともに、名もなき神が一歩踏み出した。

 年老いて白くなった髪が怒気にゆらぎ、瞳が赤く染まってゆく。醜く歪んだ顔には、もはや教皇の面影は残っていないだろう。


 教皇はコナミを見つけた司教同様、彼女を道具扱いしていたと思われるが、それでも眼前の存在ほど酷くはあるまい。


「皆殺しにしてくれる……!」


 呪わしい台詞とともに、ヤツが私の傍らを一瞬で通過する。


「何ッ!?」


 それは私には予想外の行動だった。てっきり私から殺しに来るとばかり思っていたのだ。なにせ、ここまで散々に煽っては一番大きなダメージを与えてきたのだから。


 にもかかわらず、名もなき神が狙ったのはシェリーだった。


「石壁!」


 彼女の対応は的確だった。相手が人型でなおかつ武器を持っていない。だから対応までの時間を稼ぐ――そういう意図だったのだろう。


「そんな物が通用するかァ!」

「きゃっ!?」


 一瞬も立ち止まることなく石の壁を殴り砕き、名もなき神は骨の左腕を、驚きの声を上げるシェリーの胸に叩きつけた。

 鈍い音共に、漫画のような勢いで彼女の体が後方に弾き飛ばされ、通りを挟んで反対側の建物に突っ込んだ。


「シェリー!」

「人の心配をしている暇があるのか?」


 ヤツの次の標的はグレイシアだった。左の拳が彼女を打ち据える寸前、グレイシアはかろうじて細剣を構えてみせる。だが、細い刃はあっさりと砕き折られ、彼女もまたシェリー同様、何十メートルも吹き飛ばされた。


 ――どうやら相手は私自身よりもサポートしている人員のほうが厄介だと判断したらしい。

 そしてその判断は正解と言わざるをえない。事実、私は誰を助けに行けば良いのか迷ってしまっていた。


 それは名もなき神に次の標的を狙う時間を与えてしまった。


「ガァアアアア!!」

「やぁ――ッ!!」


 骨をまとった魔人がエリザベートへとその矛先を向けようとした瞬間、躍り出たのは電撃を纏ったグランツと風を纏ったアルジェンタム。

 グランツの動きはいつも通りだが、魔人の速度と遜色ない。一方、アルジェンタムは彼女の意思に従って吹き出す風によってサポートされ、常に「疾駆」並の速度を出すことに成功しているようだ。


 その二人の攻撃に名もなき神が圧され始めている。

 電気を帯びたグランツの攻撃は防御しても電流を止めることはできないし、疾風となったアルジェンタムの拳脚は、備わった地竜の爪もあって正しく鎌鼬の如き切れ味を見せていた。


「回帰!」


 戦いが始まってから三度目のコナミの魔法が発動する。つまりシェリーとグレイシアは無事だということだ。

 グランツとアルジェンタムが魔人を止めている隙にエリザベートとコナミが動いたのだろう。


「情けない……」


 子供たちの活躍に、つい自嘲気味な声が漏れる。

 結局のところ、私は大人ぶっていてもまだまだ未熟だということを再認識した。

 しかし、彼らの作った機を逃すわけにはいかない。


「ならば、次は私の番だな」


 覚悟を決めるように一言つぶやき、私は全身に魔力を流すことを意識した。よどみなく、満遍なく、それでいて激流の如き激しさで。

 すると身にまとった鎧がさながら体と一体化したような安心感を覚えた。


 鎧の随所に施されたミスリルの装飾が淡く輝き、青い竜人「蒼穹」に託された胸の鎧鱗が脈動する。


「そうか……力を貸してくれるのか」


 鎧の素材となったアースドラゴンの力を感じる。何もかも受け止めてくれそうな、どっしりとした大地の力。

 鎧鱗からは蒼穹の持つ風の精霊との高い親和性が溢れてくる。それは荒ぶる風をも操る力だ。


 ――この二つの力を借りれば、かつて断念した魔法も可能となる――。


 そう確信を得るに十分な存在感だった。


「疾風迅雷……!」


 そうつぶやいた瞬間、私の全身に強力な電流が奔り、竜巻の如き風が吹き上がる。


 私の様子に気づいたグランツとアルジェンタムが弾かれたように魔人から離れ、私は彼らと入れ替わりに名もなき神に肉薄する。

その動きはグランツと遜色のない速度で、骸骨魔人の意表を突くに十分なものだった。


 私が行使したのは、いわば強化魔法――電撃の力で身体能力を高めるという無理やりな補助魔法に、風により空気抵抗を低減する障壁と移動のサポートをさせる機能をもたせたのだ。


「ぐおッ」


 すくい上げるように繰り出した槍が名もなき神の腹に叩き込まれ、ヤツの体を地上から引き剥がす。

 私は再び全力で跳躍し、宙を飛ぶ魔人にもう一撃打ち込み更に上空へと吹き飛ばした。

 そこに飛来するのは巨大な銀龍――銀鈴だ。


「銀鈴キーック!」


 気の抜けるような技名に反して恐ろしい破壊力を秘めた蹴りが、轟音とともに名もなき神の背に叩きつけられ、ヤツを地面に向け弾き返す。


「シェリー、成型は任せるわ」

「ええ!」


 地上ではグレイシアとシェリーによる合体魔法が放たれようとしていた。

 それは「石槍」のアレンジ版。ただし、集められるのは土や石ではなく炭素。

 炭素は徐々にキラキラと輝く宝石と化し、一振りの槍を形成してゆく。


「「金剛槍!」」


 名もなき神の着地点に角度を合わせ屹立するダイヤモンドの槍は、落下してきたヤツの腹に打ち込まれ、とうとう骨の外装を打ち砕いた。


「グガァッ!」


 外装と金剛槍が砕けた反動で、再び空中に投げ出される魔人。追撃はまだ終わらない。


「ガァアアアアア!!」


 一跳びでヤツの喉元に食らいついたグランツが全力で電撃を放った。そして態勢が整う前に胸元を蹴って離れる。そこに襲いかかるのはアルジェンタムだ。

 地竜装備の帯びる地の精霊色である黄と、彼女の魔法が発生させる風の精霊色である緑、それが混ざってエメラルドの様な光を纏った竜爪が魔人の胸元に突き刺さった。


「風神拳!」


 アルジェンタムの口から紡がれた言葉に従い、彼女の右腕から強烈な旋風が放たれる。

 もはや苦悶の声さえ上げられなくなった名もなき神は、三度王都上空へと無防備に打ち上げられた。


 ――ここまでお膳立てを整えられては、決めるしかない。


「雷神槍!」


 頭上に掲げた槍に、真っ暗な空から一条の雷が落ちる。不思議なことにその威力は私の体に届くことはなく、身につけた地竜装備へと流れ込んだ。

 もともと全力で電気を帯びるべく、上級魔法レベルでの「電撃」を発動したのだが、雷はそれを更に底上げしてくれたようだ。


 冷静に考えるなら、たまたま雷雲ができていた所に帯電した槍を差し出してしまったのだろうが、まあ、ここは皆の思いが天に届いたと思っておこう。


「さあ、いこうか」


 私は不可思議な現象に思わず吹き出しながら、驚愕の表情を浮かべる骸骨魔人に真っ白にスパークする槍を向けた。


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