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123.ジャイアントスケルトンセンチピード

 やったか!?は言ってはいけないとオッサンは思ったのだ




 大聖堂内を出口に向かって駆けていると、背後の壁を突き破って蛇身のスケルトンが現れた。その巨体では階段の出入り口を通り抜けられなかったのだろう。


「風火弾!」


 私は振り返ると床に向けて魔法を放った。その途端、地下墓地での爆発と蛇身の重みでひび割れていた床が砕け、聖堂内に並べてあった長椅子が、大きな空洞に次々と飲み込まれてゆく。当然、巨大な蛇身スケルトンも諸共にだ。

 その間に私は大聖堂入り口まで退避を完了していた。


「貴様ァァァ!!」


 やっと追いついたところで、またスタート地点に戻される形になった名もなき神が怨嗟の声を上げる。


 そのままおとなしく落ちる……と思いきや、長い胴体からこれまた細長い無数の腕が生え、大聖堂内の壁をひっかくようにしながら支えると落下を食い止めた。


 えぐられた壁の欠片と砕けたステンドグラスが飛び散り、蛇身――いやムカデの如きスケルトンに降り注ぐ。

 精霊光に照らされてなお、その眼窩から漏れ出す赤黒いオーラは強烈な存在感を放っていた。


「神であり、王であるこのワシに、ここまでの無礼を働いたのだ……覚悟はできておるのだろうなァァ!」


 名もなき神の怒りの放射が、舞い散る物すべてを吹き飛ばす。それは離れた位置に立つ私にまで届き、竜鱗の鎧の表面を何度も叩いた。


「神? 私には魔物にしか見えないな」

「黙れェェ! すぐに全ての力を取り戻し、貴様らゴミどもなど根絶やしにしてくれるわァァ!」


 私の挑発に激昂した名もなき神は、数多の腕を蠢かせると一気に壁面をかいて身を起こし、しならせたムチを解き放つように大聖堂入り口付近に巨大な頭蓋骨を叩きつける。

 その標的はもちろん私だが、その時はすでに教会の前庭へと飛び出していた。私の姿を見つけて、仲間たちも駆け寄ってくる。


 度重なる衝撃により、ついに大聖堂が崩壊を始めた。

 四方を支える太い柱は折れ砕け、倒れて叩きつけられた鐘楼から脱落した鐘が石の大通りに跳ねるたびにゴーンゴーンと重々しい音を響かせる。


 地を這い、まさにムカデの如き動きで巨大スケルトンが這い出してきた。その目は私を睨み殺そうとするかのような威圧を放っている。


「ソウシ! 大丈夫?」

「ああ、問題ないよ。皆も大丈夫かな?」


 グレイシアに答え、問い返すと、娘達も力強く頷いた。みな若干、青い顔をしているが、獣人の国での戦いの時よりはマシな様子だ。


「我が僕どもよ! 我が許に戻り、蓄えた力をよこすのだ!」


 完全に地上に姿を現したスケルトン――ジャイアントスケルトンセンチピードとでも呼ぼうか――は、その全長三十メートルはあろうかという巨体を震わせて誰かに呼びかけた。

 しかし、応えるものは一つもない。


「なぜだ……? なんだこれば? なぜ僕どもが一体もいないのだ!?」


 名もなき神は予想だにしない状況に困惑し、憤った声を上げる。


「それは私が、一体残らず消滅させたからだ」


私は大聖堂の裏手、教会の敷地内では中央付近に移動して、そう告げた。グランツと女性陣は敷地の端に陣取っている。他に被害を広げないためだ。どこまで意味があるかは分からないが。


「……なんだと?」


 少しの間があって、名もなき神が反応を示した。骸骨の顔が私に向けられ、表情などないはずなのに呆然とした様子が伝わってくる。


「だから、私が消滅させたんだ。この『精霊光』で」


 今度は右手の光を掲げてみせながら説明した。それはジャイアントスケルトンセンチピードをもジリジリと消滅させ続けている。つまり名もなき神の力を削り続けているということだ。

 そしてヤツはようやく、その事実に思い至ったらしい。


「貴様…………貴様ァァアアアア!!」


 怨嗟の声を上げ、百足骸骨が私めがけてその顎を叩きつけようとする。が、当然そのまま食らったりはしない。巨体故に動きが鈍いのだ。

 攻撃をかわすと、骸骨の頭は瓦礫と化した大聖堂に突っ込み、無防備な首筋を晒す。


「ふっ!」


 私は素早く背後に回り込み、パルチザンの刃を袈裟斬りに叩き込んだ。しかし巨大骸骨の背骨は恐ろしく硬く、「精霊光」で焼かれて尚、ミスリル合金の刀身をまったく受け付けなかった。


「フハッ……馬鹿め、そんな物がこのワシに効くものか!」


 空中に逃れた私に向けて首を巡らせ、余裕の声を上げる名もなき神。

 できることなら、落ち着かせないまま倒しきりたかったが……こちらの手札はまだまだある。


「水流壁!」

「電撃槍!」


 グレイシアの魔法に合わせ、槍に電撃をまとわせる。グランツも同時に駆け出している。

 彼女の狙いは巨大な頭骨。そしてその中にいるであろう名もなき神だ。

 ヤツが流水にまとわりつかれたところに、私とグランツの電撃を流し込む。


「グガアアア!!」


 どの程度効くかは賭けだったが、悲鳴をあげさせる程度には有効だったようだ。

 グランツが離れるのを確認して次の一手へと駒を進める。


「電気分解……風火弾!」


 グレイシアが制御を手放した水流壁の水を酸素と水素に分解し、そこに火の玉を打ち込む。水素と酸素を流し込んでおいた骸骨の眼窩に、だ。


 ボゴッというくぐもった音を立てて頭骨内の空間で水素爆発が起き、眼窩と口内から爆発の衝撃波が吹き出した。


「やった……の?」


 爆発で天を仰ぐようにのけぞったままの体勢で静止したジャイアントスケルトンセンチピードに、そうであってほしいという願望のこもった声を漏らすシェリー。

 しかしこういうのは大体やってない。というのが私とコナミの共通認識だったようだ。


「グオオオオオ!!」


 咆哮とともに動き出した骸骨の無数の腕を前に、真っ先に動いたのはコナミだ。全力で踏み込んだ彼女が繰り出す棍による唐竹割りが、私に対して振り上げられかけた腕に叩きつけられる。


「回帰!」


 と同時に青い魔力光がほとばしり、百足骸骨の左側に生えた腕を根こそぎ切断した。

 勢い余って体勢を崩したコナミをグランツが背に乗せる形で回収し、一足飛びに教会の敷地間際、エリザベートの待つ場所まで退避する。


「金剛剣……!」


 コナミの作ったチャンスを逃さず、私は次の一手を打つ。ダイヤモンドの粒が精霊光に照らされ黄金の輝きを放ち、金属の刃とこすれる甲高い音を辺り一面に響かせた。


「ぐっ!」


 これは最初に戦った名もなき神が使っていた魔法だ。当然、目の前の存在も知っているのだろう。慌てて残った右側の腕を掲げ、頭骨を守ろうとする。

 だが、当然そうすることは分かっている。


「回帰!」


 だから私はもう一手先を行った。精霊光を解除し、突き出した右腕に回帰を発動させたのだ。


 ほとんど垂直に落下しながら、右手に宿る「回帰」の青い光が骨の腕を次々に消滅させてゆく。ジャイアントスケルトンセンチピードの頭蓋骨に到達するまでの時間は本当に一瞬だった。


 接触した右掌が、肉が焼けるような音を立てて頭骨の一部を消し飛ばし、内部に収まっていた名もなき神の姿を露わにさせた。


「まっ」


 恐らく、待てと言おうとしたのだろう。しかし私はそれを無視して左腕一本で槍を振り下ろし、教皇の体を乗っ取った名もなき神を切りつけた。


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