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118.骸骨の軍勢

 オッサンは色々やってるつもりでも見落としてる事はあるなあと思ったのだ




「何事だ!」


 野営地南側で起きた悲鳴に、ピュエラ殿下の護衛を務める騎士たちが対応すべく動き出す。神官戦士たちも馬車の周囲を固めるべく駆け出した。


「これは……!」


 野営地南西、五百メートルほどの森から現れたのは白い人骨の魔物、いわゆるスケルトンだった。それも百や二百どころではない数。見渡す限り骸骨という有様だ。


「ひぃッ!」

「うわあぁ!」


 そこかしこで腰を抜かして座り込む者がいる。奇妙なことに、王族の護衛に就くような騎士までも動けなくなっていた。


「考えるのは後……!?」


 バラけないうちに削ろう、と指示を出すべく探索者団の仲間たちに顔を向けると、コナミと狼たちを除く全員が恐怖のためか立ちすくんでいる。

 これはいったい……いや、それこそ考えるのは後だ。


「グランツ、ユキ、みんなの護衛を頼む! コナミは馬車の方へ!」

「「ウォン!」」

「は、はい!」


 私は動ける全員に指示を出し、槍を抜くと森に向かって跳躍した。今の私なら軽く助走すれば三十メートルは跳べる。結果、それなりの道幅を持つ街道を飛び越え、森手前の草原まで到達した。


 ――ここは一発で正気に戻す強烈な魔法が良いだろう。


「爆裂陣!」


 私は地上に降り立ち、前方百メートル程の地点に水素爆発を炸裂させた。シーサーペントに使ったアレだ。

 この魔法は水素と酸素の集め方によって範囲をある程度調整できるため、今回は特に横幅を広く設定した。


 耳を劈く轟音が響くと衝撃に大量の白骨が打ち砕かれ、四方八方に爆風が吹き付ける。

 チラと背後を確認すると、どうやら金縛りにあっていた者たちは我を取り戻したようだ。


「す、すぐに出立の準備をせよ!」

「馬を暴れさせるな!」


 あちこちから声が上がり、覚束ない足取りながら大半の者が野営地を片付けるべく動き出す。

 幸いスケルトンの歩みは遅く、爆発を免れた者もさほど森から離れてはいない。街道周辺は南西を除き平地なため、そちら側からの襲撃を考慮しなくて良いのもプラスに働いている。


「ごめんなさい、ソウシ」

「私はコナミの護衛につきます!」


 他の者よりはマシだが、青い顔をした女性陣が駆けてくる。エリザベートはそのまま馬車のそばにいるコナミの方へと走っていった。


「回帰!」


 そちらに目を向けると、コナミの声が聞こえてきた。――いきなり「回帰」を使うような負傷者が出たのか?


「そうか、回復魔法か!」


 コナミの発動した魔法の効果範囲に沿って、魔力の光が青い円環を作り出す。そしてそれに触れたスケルトンたちが次々に消滅してゆく。


 これはゲームなどでたまにある「アンデッドモンスターに回復魔法をかけるとダメージを与えることができる」という現象だろう。回復魔法、それも最高位のものならば当然、効果は絶大。現在、効果半径十メートルにも及ぶコナミの「回帰」ならば尚更だ。


 コナミの行動を受け、私は他の手段を考え始める。アンデッドに効く属性といえば何だ? 聖? 光? 今現在、私に可能なものは……。


「光……だな」


 エルフの里への道中、精霊の発する光を見る魔力操作技術「暗視」を開発した際に考察したことを思い出す。

 精霊の力を強く宿した生物ほど、白く見える。ということは四つの属性を均等に融合させた魔法を発動させることができれば――。


 私は槍を地面に突き刺し、早速、思いついたことを実行する。

 これまでは最大で三属性の融合あるいは同時使用しか、試したことがなかったが……。


「地水火風、四つの属性の精霊たちよ、私に力を貸してくれ」


 これからやるのは四属性すべての融合だ。難易度は確実に高いだろう。できなければ、骨の海を泳ぐような行軍を、怯えた者たち数十人を連れて行うことになる。そうなれば確実に犠牲が出るだろう。


 別に誰も彼も助けたいとは思わない。ここにいる大半は王族や枢機卿を守るのが仕事だし、その中には自分の身を挺してでも護衛対象を守ることも当然、含まれている。

 そして今がその時だ、とはわかっている。だが私の仲間が含まれているのは看過できない。


 ――ならば、やるしかあるまい。


「そうだ、混ざれ、融合しろ。各々の力を均等に込めて、白く、強く、眩く輝け」


 己の両掌に生まれた四つの精霊の光を渦を巻くように回転させ、徐々にその速度を上げる。最初は赤青黄緑の四色だったものがマーブルに溶け合い、その色は段々と明るく変化してゆく。


「精霊光!」


 いよいよ白く染まった精霊の光に言葉とともに魔力を流し込む。すると、その光は一気に膨れ上がり、辺り一面を真昼のごとく照らし出した。

 光の魔法に触れたアンデッドがザァと波が引くような音とともに粉々になり空中に散ってゆく。次いで残された魔石が草むらに落下し、やはり波のような音を立てた。

 スケルトンがひっきりなしに森から現れるため音が途絶えることはなく、まるで海岸にいるかのようだ。


「皆さん、今のうちに出立の準備を! 街道を下れば次の野営地そばに橋があります! そこを渡ればすぐに堅固な防壁に守られた開拓村です、そこを目指しましょう!」


私が大声で指示を出すと、すっかり平静を取り戻した騎士・神官戦士たちが同様に大声で了解の意を叫ぶ。

 新魔法「精霊光」の白い光は、どうやら彼らに精神的な余裕をももたらしたようだ。


 実際、森から出てきたスケルトンが即座に消滅するほどの広範囲をカバーできているため、野営地周辺は完全に安全地帯だ。光が届く範囲すべてがアンデッドに対して強力な浄化効果を持っているのだろう。

 思ったよりも遥かに強力な効果には、ちょっとびっくりだ。


「私は森側をカバーする。グレイシアとユキは先導を、それ以外の皆はコナミと一緒に殿を頼む」


 私の指示にグレイシア、シェリー、アルジェンタム、そして狼たちが一斉に頷き、それぞれの持場へと移動していった。

 子狼たちは全員グレイシアの背負袋に潜り込んでいる。しっかり状況を把握できていて助かるな。


「……さて、発動には上級並の魔力が必要だったけど、どの程度持続させられるかな」


 私が指示した移動経路は荷物満載の馬車で一日半、つまり百五十キロメートル近い。馬の疲労を考えなければ五~六時間ほどでたどり着けるだろうが、それまで私の魔力が保つかどうかは未知数だ。


 魔法を維持する時は発動よりもずっと楽だということは、これまでの経験でわかっている。だが、せいぜい戦闘中に「電撃槍」を維持するくらいしかやっていないため、最大持続時間がわからないのだ。


 もっと研究しておけば……とも思わないではないが、無い物ねだりをしても仕方がない。なるべく消費が増えないように祈りながら移動するしかないだろう。

 まったく前途多難だ。


 ――そして「精霊光」を発動した瞬間に覚えたあの感覚。


「精霊の住処は……隣の世界にある、ということか?」


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