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116.称号授与式

 いくら史上まれに見るイベントとはいえ演出にも限度があるだろうとオッサンは思ったのだ。




「おっと、すまぬ。立たせたままで話などするものではなかったの。皆、座るが良い!」


 ピュエラ殿下に促され、我々はいそいそと彼女の向かいのソファに腰を下ろす。


それから始まったのは私たちのできることの確認と、それに合わせた殿下の称号授与式演出計画だった。


 なんというか、ただ見世物になっていただけのような気もするのだが、自分でも何ができるのかというのをまとめる良い機会ではあった。竜人の住処で求められるままに色々と地属性魔法で作ってみたのも思い出せたのは良かった点の一つだ。

 見せるべきではない、知らせるべきでない魔法もあるしね。




 殿下が満足のゆく計画が完成するのを待って、かなり遅めの夕食となった。

 ここでは殿下に求められるままに、これまでの冒険を語ることに。

 考えてみれば、私がこの世界に来て以降、この国の大事に関わることが大半だった気がする。そして今後も関わらざるをえない状況なのだ。


 まだ「名もなき神」は三柱いることが確定しているし、神々に協力している者もいるはずだ。であれば、やはり仲間たちの昇級は急がねばならない。

 式典が終わり次第、また強めの魔物がいる場所に遠征するべきだろう。


 ただ、一つ気になるのは「進化」だ。

 私はすでに八回昇級したし、このまま神と戦い続ければ確実に進化することになる。もう選択の余地はない。


 だが子供たちまで進化すれば……人としての幸せを奪ってしまうことになるのではないだろうか?

 なんとか八回目の昇級までで収められないか、とも思うのだが……彼女たちの身の安全を考えると、やはり選択の余地はなくなってしまう。


 なんとも悩ましい限りだ。




 領主邸に宿泊した翌朝、私は久しぶりにグランツだけをお供に外出した。

 女性陣はエミリア、ピュエラ殿下を交えて女子会を開催するらしいので丁度いい。


 領都の南門から出て東へ向かう。荒れた草原を駆け、さほど時間もかからず切り立った山に突き当たる。グランツを背負って「減重」を使い一路、山頂へ。


「高いなあ……」


 登った山頂から北を眺めれば、雲のはるか上まで伸びる山体が見える。高すぎて遠近感が狂うほどだ。竜人山脈の最高峰も相当な標高だったが、こちらの方が高そうだ。

 周囲の山々は雲に近いものなら白い帽子をかぶっている。ところが、竜人山脈もそうだったが、北に見える山は雲の上までも茶色い岩肌を見せており、殊の外目立っていた。


「やっぱり、あそこが女神の腕……かな?」


 最初の来訪者ユウキが残した石碑に記されていた「進化したら女神の腕に向かえ」という言葉を思い出す。

 他の国にあるのなら探しに行く必要があるが、この国だとすれば今のところ眼前の山しか思いつかない。


「……後二回、か」


 そこが子供たちが進化の直前となる八回目の昇級までの猶予。それまでに彼女らの意思を確認しなければならない。


「よし、とりあえずグレイシアと相談しよう」


 そうしよう。一人で悩むのは精神衛生上よくないし、迷惑ぐらいかけろと言ってくれた彼女に悪いしね。




「皆の者、よく集まってくれた! 知っての通り、我が王国始まって以来はじめての竜殺しが生まれた!」


 私が一人で思い悩んでいた日から三日後の今日、ついに称号授与式が行われる。会場となるのは辺境伯領都アインスの中心に位置する、普段は様々な旅芸人が芸を披露している広場だ。


 声が遠くまで届くように、ドワーフの開発した「拡声」の魔道具も設置されている。風の精霊に働きかけて声を運んでもらっているのだ。

 シェリーの耳が良い事や、白嶺の使っていた「遠話」と原理は同じだね。


 特別に設営された壇上にはピュエラ殿下をはじめとした辺境伯と懇意にしている貴族たちと、私たちに縁のあるガイア神教会関係者たちがずらりと弧を描いて並んでいる。そしてその中心にいるのは殿下とドワーフの族長だ。

 会場周辺は通りが埋め尽くされるほどの人出で賑わっている。まさにイベント会場といった様子だ。


 現在、殿下による開会の挨拶が行われている。

 私とグレイシアがアースドラゴンを倒し、ドワーフの谷とアインスナイデン辺境伯の合同で称号及び褒賞を与える……ということと、王国を代表して殿下が、ドワーフの谷を代表して族長が訪れたという説明が主だ。


 そしてピュエラ殿下に紹介されたドワーフの族長は、ドラゴン襲撃当時の様子から私たちの戦いぶり、そして倒したアースドラゴンの肉をメインとした宴の様子まで細大漏らさず情感たっぷりに語っている。


「それでは竜殺しの二人に登場してもらうとしよう! 『雷神』ソウシ! 『妖精女王』グレイシア! 出ませい!」


 殿下の呼ぶ声に合わせ、私は会場北に位置する辺境伯邸の屋根の上から、五つに拡大した「電刃」を放つ。少しずつ角度をずらした電光が、手に持つパルチザンの先端から空に向かって奔り、一瞬で数十メートル上昇して霧散する。

 正面から見れば半開きの扇のように見えただろう。その要にいるのはフル装備の私とグレイシアだ。


「行きましょう」

「うん」


 促し、差し出されたグレイシアの手をとり、私たちは空中へと跳躍した。

 僅かに私たちに気づいた人々が息を呑むのが見える。

 辺境伯邸はさして高い建物ではないが、それでも屋根の上から地上までは十数メートルはある。このまま落下すれば普通であれば大怪我は免れない――だが、私とグレイシアは風に乗り、会場方向へと滑空した。


 一気に速度を上げ、槍の石突から発する電撃の尾を引きながら領都上空を南へ縦断、南門上空で大きく旋回し特設会場へと向かう。

 その頃には大半の見物客が我々の姿に気づき目で追い、大きな歓声を上げていた。


「殿下の作戦は成功みたいねぇ」

「正直、やりすぎたと思うけどね……」


 グレイシアの言葉に兜の中で苦笑して応えると、彼女は小さく声を上げて笑った。

 私は羞恥心が勝っているが、彼女は誇らしさのほうが勝っている……というところだろうか。


 十分に満たない時間のフライトを経て、私たちは壇上に立つピュエラ殿下とドワーフの族長の前に着地した。そして片膝をつき頭を垂れる。槍は歩み寄ってきた兵士に預けた。


「よく来たな、ソウシ、グレイシア! 面を上げるが良い!」

「「はっ」」


 殿下の言葉に従い、軽く顔をあげる。相手の顔を見たりはしない。

 何やら色々と作法があって、公の場で地位の低い者が高い者を直視するのは無礼に当たるのだそうだ。

 なんとも面倒な話だ。生粋の庶民には、いささか慣れない。


「ベナクシー王国を代表し、第一王女ピュエラ・ベナクシーが『雷神』ソウシに『竜殺し』の称号を与える!」

「ドワーフの谷を代表し、族長ディアマンドが『妖精女王』グレイシアに『竜殺し』の称号を与える」


 顔を上げた私たちを確認し、二人がひときわ大きな声で宣言する。そして、それぞれが私とグレイシアの首に、槍に貫かれた地竜の横顔の彫り込まれた銀のメダリオンをかけた。


「うむ、よく似合っておる!」

「そいつはワシが作った、この世に二つだけのメダリオンじゃ。立ち上がって民に見せてやるが良い」


 ドワーフの族長に促され、私たちは立ち上がって振り返り、満場の人々に軽く手を振ってみせた。


 その途端、天をつく大歓声が領都アインスに響き渡った。


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