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105.縁

 色んなところに縁があるものだなあとオッサンは思ったのだ




「……分かりました。貴方の誓約を信じます」


 私はそう言って青い竜人の手から「鎧鱗」を受け取った。


 それにしても物凄く大きい鱗だ。体長二十メートルはあろうかという巨大な竜人とはいえ、他の部位の鱗に比べて二~三倍の大きさだ。見た感じ厚みも大分違うように思える。大きさの割には軽いが。


 ……しかしこんなデカイ鱗もらっても、どう扱ったものやら。


「感謝する。それは防具にするなりなんなり、好きに使ってくれて構わない」


 竜人は私の戸惑いに気づいたのか、礼の言葉に続けてそう言った。


「いいんですか?」

「無論だ。我は風の精霊と特に結びつきが深いゆえ、その鎧鱗も風の属性を帯びている。風と相性の良い者が使うのが良かろう」


 私の確認に、彼は首肯する。そして子供たちの方を見てそう解説を加えた。と、その目が誰かを見て止まり、やや見開かれる。釣られて私もそちらを見ると、そこにいたのはアルジェンタムだった。


「そこな娘は、もしや神狼族か?」

「……正確なことはわかりませんが、そうではないかと聞いています」


 アルジェンタムを見つめたまま問う竜人に、私は「母親は灰狼族だが彼女は真っ白い毛並みを持っていた」という部分のみ説明した。

 すると彼は目を細め頷き、アルジェンタムに直接問いかける。


「獣人の娘よ、そなたと母の名は?」

「アルはアルジェンタム。お母さんはアーシェ」


 アルジェンタムの答えに「そうか」とつぶやくと、青い竜人は自分の背後に隠れている銀の竜人に向き直り、彼女をじっと見つめてから口を開いた。


「銀鈴、お前が生まれたのはアルジェンタムの母、アーシェのおかげでもあるのだ」

「え?」


 銀鈴と呼ばれた竜人が困惑の声を上げる。突然の話に困惑しているのは私もだ。いや、娘さんたちもかな。


「少し、話をしたいのだが、時間をもらえぬだろうか」


 青い竜人は私に、そう問いかける。おそらくはアルジェンタムと銀鈴、あるいは竜人族とアーシェについての話だろう。であれば断る道理はないな。


「わかりました。その前に傷の治療をしましょう」


 私はその要望を受け入れ、「回帰」で彼の怪我を回復させた。傷はすっかり消えたが、腕の割れた鱗や胸の「鎧鱗」は治らないようだ。人間でいえば爪みたいな物だからだろうか?


「感謝する。銀鈴、お前も人の姿に」


 治療の礼を言いながら彼は人型に変化し、銀鈴にも変化するよう指示を出す。それにおとなしく従い、彼女も少女の姿をとった。

 青い竜人は青い髪に青と空色の全身スーツだ。いや、体表が変化した物なのかもしれないが。


「立ち話もなんですから、座って話しましょう」


 私は、彼らが人化する間に「石壁」で作っておいたテーブルと椅子へと皆を誘う。アルジェンタムを先頭に、子供たちは次々と席に着いた。竜人の二人もそれぞれ会釈をしてから席に着いたことで、対談が始まった。


「まずは自己紹介をさせてもらおう。私は蒼穹。この子は銀鈴だ」


 その言葉に倣い、我々も名乗る。軽くそれぞれの関係も説明しておいた。私とコナミが「来訪者」であることもだ。もっとも、その点に関しては蒼穹の方は最初から気づいていたようだったが。


「まずは、そうだな……我ら竜人族が複数人の魔力を集めることで生まれる、という話の続きからすることにしよう」


 そう言うと蒼穹は説明を始めた。

 それによると、竜人族はこの数百年に何度も子供を作ろうとはしていたらしい。

 だが、その特殊な生態によって親が子を愛すことはあっても、男女間での恋愛は、ほぼ皆無だったという。その結果、義務感のみによる契りでは子を成すことが難しいのではないか?、という結論に至った。


 とはいえ、千年以上にも渡り続けられてきた形をいきなり変えることは難しく、ここ百年ほどは種族全体に焦りが見えてきたそうだ。

 最も若い個体が蒼穹の五百歳。それ以降、一人も子が生まれていない……という状況ではさもありなん。


 そういう状況に現れたのがアルジェンタムの母、アーシェだ。

 彼女は竜人山脈に「神狼族」がいるのではないか?という資料に興味をそそられ、単身、龍神山脈の最高峰への登山を敢行。

 最終的には崖のように切り立った岸壁を乗り越え、標高五千メートルを超える山頂へと到達し、そのままぶっ倒れたそうだ。


 果たして「神狼族」はそこにおり、アーシェの看護をすることとなる。

 だが、「神狼族」は彼が最後の一人となっており、もはや絶滅を待つばかりの状態だった。


 ところが、落ち着いた物腰で優しく思慮深い男はアーシェの好みど真ん中ストライクだったらしく、体力が回復した途端、猛アタックを開始。

 最初は種族の違いから「何が起こるかわからない」と拒んでいた男も、明るく前向きで決して諦めないアーシェの姿に惹かれてゆき……。


「二人に子ができたのは、彼らが出会ってから半年ほど後のことだった」


 そこまで話し終えると、蒼穹は大きく息をついた。

 私は、話を聞きながら用意していたティーカップを差し出し、彼はそれを受け取ると少しだけ口をつけた。


「その半年の二人の様子は、我ら竜人族の意識を変えるほどの衝撃をもたらした」


 男は女の、女は男の態度に一喜一憂し、遠かった距離が段々と近づいてゆく。愛し、愛され、子を成す。そして子が無事生まれてくることを祈る。

 人であれば、ごく普通のことが竜人族にとっては未知のこと。そして、とても尊いことなのだと彼らは考えるに至ったという。


 とはいえ、いきなり恋愛ができるわけでもない。何せ数百年単位で共にいるのだ。すでに家族としての意識が強い。

 そこで竜人族は生まれてくる子のことを強く意識することにした。強く、優しく、元気な子となるよう祈りを込めて魔力を集めた。


「それは上手くいき、銀鈴が生まれた……。だから、アーシェはある意味、銀鈴の母のような存在であり、アルジェンタムは銀鈴の姉とでもいうべき存在なのだ」


 その蒼穹の言葉は銀鈴に向けられていた。それは家族のような存在を彼女が傷つけるところであったということを咎め、傷つけずにすんで良かったと安堵しているようでもあった。

 さすがの銀鈴もそれにはショックを受けているようで、無言でうつむいた。


「しかし我らに助産をできるものはおらず、神狼族も一人しかいない山の上で子を産むのは難しい。だからアーシェを夜闇に乗じて彼女の故郷へと送り届けたのだ。……彼女は元気にしているか?」


 銀鈴の頭を優しくひとなでし、蒼穹はそう問う。


「お母さんはアルを産んで死んだって」


 返答に困っていた私たちを後目に、アルジェンタムがあっさりと答えた。

 その言葉に蒼穹は少し驚いた顔を見せ、沈痛な表情になると瞑目し「そうか。やはり神狼族の力に耐えられなかったか」とつぶやいた。


「……そういう例があったんですか?」

「うむ、私が生まれるよりも昔の話だが、かつては他の種族と結ばれる神狼族もいたそうだ」


 だが、母親が他種族の場合、その多くは出産後間もなく亡くなったそうだ。と蒼穹は私の質問に答えた。彼のアルジェンタムを見る目は、とても気遣わしげだ。

 なるほど、アルジェンタムの父親が渋るわけだ……。


「大丈夫。アルの家族は村にいるし、今は群れもある」


 しかしアルジェンタムは気にした風もなく、はっきりとそう言い切った。そのあまりにもサッパリした様子に、蒼穹も呆気に取られている。


「そうか……。それならば良いのだ」


 蒼穹は嬉しそうに、「そういう所はアーシェによく似ている」と笑った。


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