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95.アルムット親子

 セクハラはいかんなあとオッサンは思ったのだ




「あっ、おっ、とっと、くっ……ぶはぁっ!」


 のけぞっているところで手を離された男性は、ヨロヨロと後退しながらもバランスを整え、なんとか倒れることを免れた。

 連れの男も無事だったようで、若干ふらついてはいるが、後退してきたカイゼル髭の男を支えている。


 と、そこにエリザベートが近づき、男の頬に物凄い勢いで平手打ちをかました。

 髭は「ぶへぇ!」などという叫びを上げながらその場で錐揉み回転し、勢いが衰えたところで再び連れの男に支えなおされていた。


 それを見届けたエリザベートが男たちの手を取り、引きずるようにして探索者ギルドを出ていった。


「……」

「……私たちも行きましょうか」


 突然のことに誰もが硬直していたが、グレイシアの言葉で我に返った私たちはエリザベートの後を追い建物を出る。


「お騒がせしました」


 私はドアから手を放す前に一度ふり返り、ギルド内の人々に謝罪してからその場を後にした。


 ……なんなんだろうか、この展開は。




「父が失礼いたしました」


 オズマ宅の離れに着いて開口一番、エリザベートが謝罪の言葉を口にし深々と頭を下げた。

 探索者ギルドでの一幕で想像はついていたが、やはりカイゼル髭の男性は彼女の父親だったようだ。


「えー、あー……先ほどは失礼した。アルムット士爵家当主、ジョージ・アルムットだ」

「父を止められず申し訳ありませんでした。私はアルムット士爵家長男、デビッド・アルムットです」


 エリザベートに続いてジョージ、そしてデビッドが謝意を表す。

 二人とも私の威圧の余韻がまだ残っているようで顔が青い。それとは別にジョージの方はしきりに顎を気にしている。エリザベートの平手打ちがよほど効いたのだろう。


「いえ、こちらこそ不躾な態度を取ってしまい、申し訳ありません」


 互いに謝罪して終わりにしようということで、私も頭を下げる。

 ただ、シェリーとコナミはいかにも不満げだ。言葉にせずとも「謝る必要はない」と言いたいのが分かる。

 まあ、女性としては出会い頭に胸を揉みにくる男は受け入れられないのも当然だ。


 だが、ここは大人な対応をしておくべきところだというのも分かっているのだろう。エリザベートは彼女たちの友人だから、その父を許さないというのはエリザベートにも心苦しい思いをさせてしまうことになるからだ。

 私がジョージの手を止めたから実害は何もなかったしね。


 あとグレイシアだけは終始ニコニコ顔だ。私の「私の女」発言がよほど嬉しかったのだろうか。

 アルジェンタムはよくわかっていないようだ。見た目は十二歳くらいでも実年齢は六歳くらいだから仕方ない。


「お茶をどうぞぉ」


 リビングに入り全員が着席したところで、グレイシアがティーセットを持ってきた。やはり上機嫌だ。

 彼女はテーブルにカップを次々に並べてゆき、最後の一つを私の前に置くとそのまま隣に座る。わざわざ腕を絡めて密着までする念の入れようだ。

 完全に見せつけにいってるなあ……。


「それで父う……いえ、兄上。今回はどういう風の吹き回しですか」

「あれっ? 俺でよくない? ねえ、俺に聞けばよくない?」

「ああ、お前も村の状況がよくないのは知っているだろうが……」


 エリザベートがジョージに聞きかけてデビッドに聞きなおす。デビッドはジョージの主張をスルーして答えた。

 それによると、現在の魔物発生数が多すぎて手が足りないということらしい。


 現状、探索者に依頼を出してアルムット家の領地である村を守ってもらっているそうで、これまではかろうじてプラスになっていた魔物狩りで得られる収入がマイナスに転じている。


 そこで娘の縁を頼りに、噂の「雷神」になんとか手助けしてもらえないか、というのが今回イニージオの町に出向いた理由だという。


「村の防衛を手伝っていただければベストですが……話に聞く限りではこちらが提示できる報酬額では無理でしょう」

「そうですね。私とソウシは七度昇級していますから、指名依頼となるとかなりの金額になってしまいます」


 デビッドの言葉にグレイシアが答えた。

 七度昇級の部分にジョージもデビッドも目を丸くして絶句している。


 指名依頼では探索者の報酬は昇級回数によって最低金額が決まる。

 探索者団の場合はリーダーのそれが基準になるため、「妖精の唄」ではグレイシアの昇級回数が七度だから無昇級探索者の七倍の金額が最低ラインとなる。

 もちろん報酬額は絶対ではなく、依頼側・探索者間の話し合いによって上下することはある。

 それでも実力と実績のある探索者を雇おうと思えば相当な金額が必要になる。探索者団の人数によってはさらに倍率ドンだ。


 縁故を頼るといっても限度があるし、他の探索者に悪影響が出るほど格安で依頼を受けることはできない。

 その辺を理解したうえで彼らは依頼をせず、ここまで出向いたということだろう。


「じゃあ、魔法の指導だけでも頼めないか?」


 再起動したジョージがそう切り出す。

 確かに魔法に長ければ剣術などよりも早く成果がでる可能性はあるから妥当な判断ではあるが――。


「実は同じ依頼をアインスナイデン辺境伯からも受けてしまっているんですよね……」


 私がそう答えると、ジョージとデビッドはガックリと肩を落とす。


「あの……二人を辺境伯様の依頼に同行させることはできませんか?」


 遠慮がちにエリザベートが願いを口にした。




 結局、その後の話し合いでジョージとデビッドも領都アインスへ同行することになった。

 エリザベートの家族ということで、一時的に「妖精の唄」に加入する形だ。


 彼らが加わることで領都までの移動日数が延びるため、一日準備日を設け、私たちは二日後にイニージオの町を発った。

 目指す領都はイニージオから北西。

 途中まではドワーフの谷へのルートと同じ道行きで、街道をそのまま進めば辿り着ける。


 移動距離は大体ドワーフの谷までと同等で、馬車で六日のところを今回は徒歩で三日となっている。「妖精の唄」だけだった場合は二日、私かグレイシアなら一日でいける計算だ。走ればさらに短縮できる。

 やはり昇級による身体能力強化はものすごく大きい。


 道中トラブルが起こるのでは?という懸念もあったが、せいぜい数匹の狼に襲われる程度で、大きな問題はなかった。

 以前はスマイル相手でも命がけだったのに随分と慣れたものだ。


 そして移動開始から三日目の夕刻、我々はアインスナイデン辺境伯領・領都アインスに無事到着した。


 果たして貴族や騎士相手にどこまでちゃんと指導ができますことやら……。


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