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10.撒き餌作戦

 何も考えずに乱獲すると食物連鎖が崩れるのかもしれないとオッサンは思ったのだ。




「……消えないな」


 二匹の犬の死体を眺めながら、私はぼんやりとつぶやいた。

 スマイルは殺した後一分もせず消えたのに、この動物は消えない。殺してからすでに五分は経っているのに。


「魔物じゃないのか? それともスマイルだけが消えるのか?」


 万屋には買い取り価格表があった気がするが、犬のものはあっただろうか?

 スマイル、アンガースマイルはあったが……他はよく覚えていない。


「もっとしっかり確認しておくべきだったな……。あ」


 ふと思い出して周囲を見回す。

 ここは三匹のスマイルが食事をしていたところだ。確か食べていたのは犬のような動物だった。おそらく私が倒したものと同種の。


「あった……」


 私が土壁&落とし穴を設置した場所のすぐそば。そこには死体はなく、スマイルのものとは少し色の違う魔石が一つ、転がっていた。


「すると……種族によって消えるまでの時間が異なるという事か?」


 なんにせよ、事前の情報収集を怠った私が愚かだったのだ。

 今後のためにも、村に戻ったら、万屋の店主にでも詳しく聞いてみるとしよう。

 だがその前に、犬の死体をどうにかするべきだろう。


「魔石、どこにあるんだろう」


 ありそうなのは心臓周辺だろうか。……頭蓋骨の中とかだったら嫌だなあ……。


「お」


 うつぶせで息絶えている犬の体を、恐る恐る仰向けにひっくり返すと、その胸元に魔石らしきものを見つけた。

 戦闘中は気づかなかったが、最初からそこにあるものなのだろうか?


「あるいは死ぬと体表に出てくるとか、かな?」


 二匹の死体から魔石を手に取りつつ、そんな事を考えるが、生前の状態を覚えていないのだから確認のしようもない。


「……とにかく死骸を片付けて、村に戻るか……。あ」


 土壁の魔法でできた穴に死体を放り込んだ時、私はふと思いつく。

 スマイルはこの動物を食っていたのだから、死骸を埋めずにこの穴に放置したらどうなるのか。


「うまくいけばもっと楽に狩れるか……」


 しばし逡巡するが、結局は策を実行することを決断した私は、穴のサイズと土壁の高さを調整するべく、行動を開始した。

 そもそも私には手段を選んでいる余裕などないのだ。負担を軽減できる可能性があるのなら、やるべきだろう。


「あとは、少し長い枝か……灌木の幹が必要か」


 穴と壁のサイズ調整を終えた私は、新たな武器を作るための部品となるものを探しつつ、村に戻った。




 村に戻り酒場で昼食をとると、私は万屋に向かった。森に棲む魔物のことを詳しく聞くためだ。

 もちろん戦利品の買取をしてもらうことも忘れない。お金は大事だよ。


「ああ、こいつはフォレストウルフだな」


 犬っぽい動物は狼の魔物だったようだ。

 店主の説明によると、あの森は「スマイルの森」と呼ばれており、草原に近い領域ほど多くのスマイルがいる様だ。


 一キロほど森を奥に入ると、フォレストウルフの縄張りに入り、その更に一キロほど奥には猪の魔物「ブレードボア」や、熊の魔物「ブラッドベア」などがいるそうだ。


 それぞれの魔物はお互いに敵対しており、食うか食われるかを日夜繰り返している。ただ、スマイルだけはどの魔物にも餌にされることはなく、一定の範囲内に入った生物は、様々な小動物や虫、魔物や人間など何でも襲う。


 森の奥にいる魔物ほど個体数が少なく、草原に近いものほど多い。そして数が多く、生息域が隣接しているため、スマイルに捕食されている魔物はフォレストウルフが最も多いだろうとの事だった。


「そう頻度は高くはないが、まれに他の魔物の領域と重複した縄張りを持つものが現れることもある。今回、お前さんが遭遇したのはそういうヤツだろうな」

「なるほど……。ところでアンガースマイルはどこにいるんです?」

「ああ、あれはスマイルが昇級したもんだと言われてる」


 だから基本的にはスマイルの領域にいるはずだ、と店主は私の疑問に答えてくれた。

 魔物も昇級するのか。怖い。


「で、なんか買っていくのか?」


 もはや精算のたびに何か買えと催促されるのは、毎回のやり取りになっている。

 私は「荷物になるから、夕方にまた来てその時に買います」と告げ、午前の狩猟で得た現金を受け取ると店を出た。




 再び森に入る前に、私は新たな武器を用意することにした。

 午前の狩りの帰りに拾っておいた、ピックに使っているものより少し長い枝の切断面に、石ピックの予備の刃を用いて慎重に穴を掘っていく。

 なんとか上手く差込口を作ると、使っていた刃をそこに差し込んで完成。


 その名も新兵器「槍」だ。


 これを用意したのは「土壁&落とし穴作戦」でピックを使っていると、リーチが若干足りない気がしたのと、振り下ろすよりも突くほうがスムーズに、穴に落ちたスマイルを処理できると考えたからだ。


「うん。問題なさそうだ」


 何度か振ったり、突いたりと槍の使い心地を試してみる。使っていて穂先がすっぽ抜けたりしたら怖いからね。


「よし、確認に行くか」


 左手に槍、右手に石ピックを持つと、私は森へと踏み込んだ。目指すは、午前に二匹のフォレストウルフを倒した場所だ。




「うわあ……」


 結果から言うと、フォレストウルフの死体を利用した「撒き餌作戦」は大成功だった。

 私の目の前、直径二メートルほどの穴の中には狼の死体に群がるスマイル。その数、七匹。

 一歩穴に近づくと、こちらに気づいた個体が穴を出ようと跳びはね始める。だが、その跳躍は穴の深さと、縁に設けられた五十センチほどの土壁に阻まれ、脱出には至らない。

 これなら安全に処理できる、と私はスマイルの脳天に次々にと槍を突き出していった。


「ふう……上手くいってよかった」


 魔石とシートを回収して一息つきながら私は考える。

 それは「スマイルを大量に狩ったことで、フォレストウルフが草原に近い領域に現れたのではないか?」ということだ。


 ここ数日で、私は五十匹近いスマイルを狩った。それは「駆け出しなら一日に五匹が普通」という、万屋店主の示した数の二倍を軽く越える狩猟数だ。


「乱獲したら生態系が乱れるって言うもんなあ……」


 それに思い至らず、うっかり今回の「撒き餌作戦」までやってしまった。なにごとも起こらなければいいのだが……。


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