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一
午後三時五十分。
ホームルームでダラダラと話す担任を、早く終わらせろと睨んでしまう。
「また今日も学校内でスマホを使用して没収された人がいるので〜」
私は学校内でスマホ使ったりしないから 私だけでも帰らせて!
「鈴香、今日急いでるの?」
隣の席の千里が私を見て言う。
「うん、かなり」
「そういえば今日木曜日か。ともやくんに会いに行く日だっけ」
「そうだよ」
「いいなあ、鈴香たちラブラブだね」
ともやくんと私は千里が思っているような可愛らしい関係じゃない。
でも本当の関係を伝えてしまったら、たぶん親友の千里にさえ嫌われてしまうかもしれないから、彼氏ということにしてある。
「起立!」
日直の声に、教室中が活気で満ちた音で溢れ出す。
「気をつけ、礼!」
さようなら、とみんながいい終わる前に私は教室を飛び出した。
もちろん学校内でスマホを使えないようなこんな真面目な中高一貫校では化粧は禁止だ。でもそんなのは関係ない。私の今の顔はメイクという嘘で塗り固められている。
早く会いたい一心で駅から学校までの二キロ半の道のりを全力で自転車で走った。