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第61主:目的が生まれて

「……」


「ど、どうしましたか?」


 シュウの話を聞いたヒカミーヤはスライムの方をジッと見る。


「お、落ち着いてください。俺が何も考えずに縄張りに入ったから悪いのですよ」


「はぁ。わかりました。ホントにお優しいですね」


「事実を述べただけですから」


「彼に免じて今回は許す」


「ありがたき幸せ」


 シュウは少し離れたところにいるサルファのもとへ行く。


「いつもの彼女とは全然性格が違いますね」


「まぁ、威厳を保つために無理しているのだろう」


「無理ですか?」


「あぁ、いつものが本性だ。でも、そのままだと威厳なんて感じられないだろう?」


「確かに。いつもの彼女はオドオドしていますね」


「シュウには言われたくないと思うぞ」


 サルファの言葉に間違いないと思い、苦笑を浮かべる。


「そういえば魔界に来た理由を知っていますか?」


「オレも行くとわかったのはシュウと同じタイミングだ。だが、何となく察しはつくがな」


「まぁ、俺も何となくでいいなら察しがつきます」


「なら、お互いに言ってみようか」


「そうですね」


 二人は顔を見合う。そして、サルファが「せーの」と言った。


「修行」

「帰郷」


 同時に言ったが、別の答えが出た。


「いや、帰郷って……。マジか」


「そんなの言うなら修行は誰の修行ですか」


「正確には特訓だけどな」


「あっ、もしかして……」


「思い当たったか?」


「はい。もしかして、俺の特訓ですか?」


「オレはそう考えている。真実はヒカミーヤしか知らないけど」


「そうですよね。でも、彼女は今、楽しそうですし、遠くから見ておきましょうか」


「そうだな」


 二人はさらに距離をとる。魔物たちが警戒しないようにという配慮だ。その配慮のおかげかヒカミーヤの周りに様々な魔物が現れる。そこには亜人種も混ざっていた。


「そういえばシュウはどうして異世界に来たのだ?」


「どうしてって言われても、わかりません」


「わからない? どうしてだ?」


「記憶が薄れています」


「記憶が? 一体どういうことだ?」


「女神と話した記憶はあります。ですが、何を話したかまでは思い出せないのです。それに女神の姿も」


「姿はわからないのに女神ということはわかるんだな」


「なんとなくそんな気がするだけですよ」


「ホントに?」


「ど、どうしてそこで疑うのですか?」


「願望が入ってそうだから」


「願望……ですか」


「男はほとんどがむさ苦しいおっさんよりは美女がいたからな」


「否定はできません」


「されても困る」


 彼女の回答にごもっともだと苦笑を浮かべる。


「あっ、そういえば今の会話して思ったのですけど」


「なにかな」


「サルファさんの恋愛対象って、どっちなのですか?」


「女と言いたいところだけど、思考も女に染まってきているのか男になりかけている」


「ほへぇー」


「もしかして、シュウがオレに惚れたか」


「いえいえ、そんなの恐れ多いですよ」


「オレたちの関係上なら、普通は逆なんだけどな」


「逆とは?」


「オレたちがシュウの奴隷だから、オレたちがシュウに惚れるのは恐れ多いと言うなら、普通なんだけどな」


「そ、そんな! 遥かに年上で、色んな経験をしている人を好きになるのは恐れ多いと思いますよ」


「その思考が理解できん」


「でしたら、もっとサルファさんには理解できないことを言いましょうか?」


「なんだ? 言ってみろ」


「俺なんかが人を好きになるのは間違いなのですよ。俺みたいな親族殺しの罪人が」


 シュウの言葉に何も言えなくなる。その状態にサルファは少し悔しそうだ。シュウからしたら、彼女は何が悔しいかわからない。何も言えない自分が悔しいのか、そんなことを言わせた自分が悔しいのか。はたまた別のことなのか。人の心が読めるわけではないシュウには何もわからない。


「シュウ。一つ質問がある」


「なんでしょうか?」


 何かを口に出そうとしているのはわかる。でも、何が言いたいかわからない。ずっと、口をもごもごしている。

 少しすると、心を決めたのか真剣な眼差しで見てくる。


「生きてて楽しいか?」


「今は死にたい一心です」


「どういうことだ?」


「俺なんかが生きてちゃいけないのです。どうして妹の……美佳の代わりに俺が生きなきゃいけないのですか? 俺は美佳を殺した。アイツは何も悪くない。全て俺の自己満足でアイツを殺したんだ! アイツに聞けばきっと俺がいないと生きることができないからと答える。でも、そのように育てたのは俺なんだ! だから、俺よりも美佳がもう一度、生きればいい。なのに俺は今ものうのうと生きている。死ねるなら死にたいさ。でも、この世界では死ねない。どうやっても詫びることはできない」


 シュウは己の感情を吐露した。何も言えないからか、サルファは少し苦しそうにしている。


「なぁ、この世界でどうやったら死ねる?」


「それは簡単。不死の呪いをかけた魔女を殺せばいい」


「魔女?」


「誰にも言ってないが、オレは魔王を倒しに行くときに死を覚悟していた。でも、死にたくなかった。だから、とある魔女に頼んだんだ。死ねないようにしてくれってな。しかし、魔女には無理だと言われた。オレも諦めていたが、ホントはできて、オレが死ぬのを見計らって、不死の呪いをかけたのかもしれない。あくまで推測だから、正しいとは限らない」


「ならば、魔女探しをするしないですね」


 目的もなく過ごしていた、シュウは目的が生まれて少し安心した。そのためには努力を怠る気はない。

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