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第59主:魔界へ向かう

 ひとしきり笑われると、セインドとエルリアードの二人はこの場から去る。恐らく学園長室でエルリアードがセインドに男の娘というのはなんたるか熱弁されているのだろう。


「さて」


 シュウはコウスターの方を見る。


「何か用があるの?」


「先ほどはあなたも笑っていましたよね。セインドが学園長のことが好きなことをあなたもわかっていたのですか?」


「あれほどあからさまだよ気づくわ」


「な、ならば彼を諦めるということをしないのですか?」


「それはないわ。好きという感情は抑えられない」


「隠さないのですね」


「できれば隠したいわ。でも、あなたにはバレているわよね?」


「あれ? どうしてわかったのですか?」


「つい先ほどの言葉と屋台でのことを見られていたみたいだから」


「えっ? 気づいていたのですか?」


「逆に気づかれていないと思った?」


「は、はい」


「まあ、いいわ」


 それだけ言うとコウスターもこの場を去った。


「わたしもお父様とお母様に明日のことを話さないといけないですから、離れますね」


「はい。わかりました。それではまた明日」


 ビルルも去っていった。


「俺たちはどうしますか?」


 残されたのでシュウはヒカミーヤとサルファに聞く。二人で少し考えてから「任せます」とヒカミーヤに言われた。しかし、任せれたとしても、あまりここのことを知らないので、どうしようもない。


「て、適当にブラブラしますか」


「それでしたら、妾に行きたいところがあるのですが……」


「お、俺は別に構いませんよ」


「オレも構わない。そもそも、することがないからな」


「ありがとうございます」


 ヒカミーヤは感謝の言葉を述べると歩を進める。


「妾についてきてください。できれば誰にもバレないように」


「えっ? バレたらマズイところに行くのですか?」


「はい。やはり困りますか?」


「ま、まぁ、困りますね。それに申し訳ないですが、俺はバレることになるかもしれません。気配なんて隠せませんから」


「それは問題ない。オレが気配を薄くする魔法を使うから」


「……ホントに弱体化されてますか?」


「あぁ。前までのオレならば、大概の魔法は使えていたしな」


「さすがは勇者ですね」


「よせやい。照れる。とりあえず手を貸してくれ」


 何をされるかわからないが、手を差し出す。


 シュウに差し出された手をサルファはそっと掴み、手のひらを上に向ける。その手のひらに指をなぞり出す。


 何を書いているかわからない。縦線が三本。横線が二本。右上から左下への斜め線を一本。左上から右下への斜め線が一本。


 横線までなら縦線が一本多い、井の文字に近い字だったが、その井の文字の中央に斜め線の二本が交差する。全く何を書いているのかわからない。


 シュウが困惑している間にサルファは彼の前に跪く。そして、シュウの手を軽く掴み、斜め線が交差している部分に口を近づける。


 シュウは口づけをされると思っていた。まるで忠誠を誓うみたいな感じだ。だが、現実は違った。斜め線が交差しているところをサルファは舐めたのだ。


「は……はあ!?」


 顔を真っ赤にしながら、思わずそんな声を上げてしまう。サルファの手を振りほどこうとしたが、振りほどけなかった。そのまま数分、手のひらを舐められ続けるという奇妙な体験をすることになった。


「これで大丈夫だ」


「い、一体何をしたのですか?」


「先ほど描いた印に少しだけ魔力を込めた。前までのオレなら、触れるだけで大丈夫だったけど、今は自分の体の内側の何かが少しの間、触れないといけないんだ。だから、舐めた。唾を垂らすだけだったら、口が渇いてしまうからな」


「は、はぁ、そうなのですか?」


「あぁ。これで今のシュウの姿はオレとヒカミーヤ以外には見えない」


「ど、どうしてヒカミーヤさんまで?」


「それはオレの口内にヒカミーヤの唾液が混じっているからな。シュウも知ってるだろ? オレとヒカミーヤがシュウがいない間にベットで色んなことをしているって」


「な、ナンノコトデスカ」


「否定したいなら、目をそらすのと片言をやめろ」


「気づいていたのですか?」


「伊達に元勇者をやっていたわけじゃないぞ。気配の察知くらいできる。恐らくは元魔王のヒカミーヤもできる」


 無言を貫いていたヒカミーヤにサルファは話を振る。


「ワカッテイマシタヨ」


 片言だし、目が泳いでいた。


「マジかよ。それでも元魔王かよ」


「だって、サルファさんの気持ちいいですから、気が散るわけないじゃないですか!」


 ヒカミーヤの言葉を聞いた二人は耳まで顔を赤くする。その二人の様子を不思議そうに見ていた。


「よ、よくそんな恥ずかしいことを大声で言えますね」


「妾の声も姿もお二人にしか見えないのですよ? 恥ずかしがる必要ありますか?」


「いや、まぁ、ヒカミーヤさんがそれでいいなら俺は何も言いません」


「仕方ないか。ヒカミーヤはどこか抜けているしな」


「妾のどこが抜けているのですか?」


「そういうところ」


「えっ? そうでしょうか? シュウさんはどう思います」


「ノーコメントでお願いします」


「そんなにも妾は抜けているのでしょうか?」


 ホントに不思議そうにしている。先ほどまでならサルファの意見を否定できたであろうが、今はもうできない。するのが間違えだとわかっているから尚のこと。


「そ、そういえばどこに向かうつもりなのですか?」


「あっ、それはオレも気になっていた」


「魔界です」


「魔界? この世界にもあるのですか?」


「その言い方だとシュウさんがいた世界にもあったのですか?」


「噂程度ですけど」


「魔界か。まぁ、でもヒカミーヤは一応魔王だし少し安全だろうな」


「そうだといいのですけど……」


「何か不安なことでも?」


「はい。妾が魔王だったのは千年も前の話ですから、今も妾の権力があるかどうか」


「ま、まぁ、ないならないで俺は死ぬだけですから。気にしないでください」


「それが一番気になるのですが……」


「気にしないよう頑張りましょう」


「さすがに困ります」


「でしたら、権力があると強く思っていましょう」


「確かに……シュウさんの言う通りですね」


 腹をくくったような表情をヒカミーヤが浮かべる。彼女の表情を見て、シュウとサルファは安心した。


 そして、三人は魔界へ向かうこととなった。

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