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第3主:互いに自己紹介

 主宇たちは森の中を歩いている。そんな中、彼は歩きながらもウズウズしている。決してトイレが行きたいとかではない。ただ、彼女にいくつか聞きたいことがあるだけだ。

 なら、話しかけろとなるが、彼にすればそれはとてつもない試練。そのせいで聞きたくても聞けないという状況ができて、ウズウズしているのだ。


「ねえ」


「は、はいっ!」


 声が裏返ってしまって、恥ずかしさで、顔を赤くする。それを知ってか知らずか、彼女は話しかけてくる。


「いくつか言い忘れていたことがあったの」


「はい。なんでしょうか?」


 視線を逸らしながら言う。


「まずは先ほど言葉が理解できるようになった理由。恐らくは推測はできているだろうけど、魔法よ」


「やっぱりですか……」


 完全予想通りだったので、特に驚きはしなかった。


「次に君を国に連れていく理由。君にはこの世界の人たちのことを知って欲しいのよ。それでもし、元の世界に戻ることができて、君の世界の君の住んでいた国が奴隷制度に関わっていたら、伝えて欲しいの。まぁ、伝えるに値すると思えばで大丈夫だけどね」


「は、はぁ。わかりました」


「次にその口調。わたしはこう見えて年齢も十七歳だから、外見年齢と対して変わらないの。だから、同い年であろう君から敬語を使われると違和感があるの。だから、使わないで」


「そ、それは……できればそうします。ですが元々、人と話すのが少し苦手なもので」


「そう。なら、それでいいよ。そして、最後にお互いに自己紹介しよ。名前がわからなかったら、色々と不便だからね」


「わ、わかりました。ぼ、僕の」

「ストップ。その僕って一人称はやめて。本音の口調で話して」


「これが……本音の口調ですが……」


「嘘ばっかり。君が俺って言ってたこと知っているよ?」


「はい? あのセリフはあなたからすれば異世界語ですから、理解できないのでは」


 そう言うと、なぜかニヤニヤと笑っていた。少ししてから、主宇はハメられたことに気づいた。


「わかりましたよ。……それでは名乗りますよ。俺の名前は朝夜主宇です。これからよろしくお願いします」


「アサヤ・シュウ? 変な名前ね」


「もしかして、順番が違いました?」


「あぁ! シュウ・アサヤということ? 確かにその方がしっくり来るかも」


「それはよかったです」


 早くこんな会話を終わらせたくて、シュウは適当に返答している。


「わたしの名前はビギンス・R・ ルセワル。気軽にビルルと呼んでね」


「もしかして、長女ですか?」


「へっ? そうだけど……。どうしてわかったの?」


「ビギンスとは俺の世界の言語で始まりという意味がありましたから」


「へぇぇ。そうなの。知らなかったわ」


「まぁ、知らない方が当たり前だと思いますけどね。恐らくあなたの両親も知らないでつけた名前が、そういう意味があったという偶然でしょうけどね」


「だろうね。ウチの家族は運だけはいいから。おかげでわたしも貴族だしね」


「貴族なのですか?」


「そうよ。有名ではない田舎の小さい貴族だけどね。そういえば先に言っておくけど、この世界は人間以外にも亜人種がいるから」


「はぁ。わかりました」


「そう。なら、いいわ。それと、もう着くよ」


「えっ? まだ森ですけど?」


「まぁ、すぐにわかるから」


 美少女ビルルの言葉を聞いて、不審に思いながらも付いていく。


 ーーもしかしたら、よく見るエルフの里みたいに森の中にあるのかな? 結界でバレないように隠して。その可能性が高そうだけどな。


「着いたよ」


「えっ?」


 声が聞こえるがビルルの姿が見えない。そのせいで迷ってしまったのかと不安になった。


「こっちよ」


 そう言うと何もない空間が少し歪んで、手が伸びてきた。その恐怖映像にビクッ! と体を震わせて、恐る恐る手を掴む。そして、自らの足で一歩踏み出した。すると、中から現れたのはシュウが予想していなかったものだ。


 エルフの里のような森に作られた国ではなく、普通の国なのは別に大した問題ではない。目の前にはさらに大きな予想外があったのだから。


 この世界は異世界なので、どうせ中世ヨーロッパ風なんだろうなと思っていた。でも、実際に現れたのは中世ヨーロッパでも、古代でも、現代でもない。


 未来の国だったからだ。とてつもないほど高いビルがたくさん建てられていた。だけど、まるで荒廃しているのか灯りは一切見えない。そんな中で一際大きい建物を見つけた。


「あれは王城よ。書いて字の通り、この国の王の住居。で、わたしたちが向かうのはアレよ」


 王城についての説明をかなり大雑把に済ますと、そこから少し離れたところをにある建物を指差した。


 彼女が指差した先にはかなりの威厳が漂っている古ぼけた学校の校舎。また予想外にもその校舎は彼が住んでいた世界の、しかも日本にある公立高校ほどの大きさだった。


 妙な安心感があるが、ここは異世界なのでまやかしだと自分に言い聞かせる。


「あの見た目通りと思ってはダメよ。わたしたちは魔法を使える。つまり、この国自体が幻覚という可能性があるわ」


「そんな、まどろっこしいことをするのですか? 一体何のメリットが?」


「敵国……いえ、これは敵世界として言った方が良いわね。それを脅すというメリットがあるわ」


「それを俺に話していいのですか?」


「どうしてそう思うの?」


「今更ですが、スパイの可能性がありますよ」


「あぁ。それは問題ないよ」


「その心は?」


「わたし、実は……人の心を見たい時に見る目を持っているのよ。だから、こういう話をする時は発動させているの」


「便利ですね。でしたら、この国の外見は幻覚ではないのですか?」


「ほとんど幻覚で、少しだけ現実よ。あそこにあるとても小さな家が建ち並んでいる場所はスラム街。住んでいるのは亜人種を含めての人種ではなく、魔物の類よ」


「魔物? もしかして、共存しているのですか?」


「もしかしなくても、そうよ。亜人種は魔物とひとのハーフなのだから」


「魔物と争ったりしないのですか?」


「しないよ。争う意味がないもの。どっちも結局は死なないのだから」


 何も言い返さない。言い返すのが間違いだと彼は思っている。彼は異世界人なのだ。この世界の外の世界の人間に言われても、どうしようもないだろう。それほど【死】がないというものは根深いようだ。


「そういえば、どうやってあんな大きなものを建てたのですか?」


「千年も生きている人がいたら、あれくらい普通だと思うな」


「そんなものですか」


「そんなものですよ。……っと、どうやら学園に着いたようね」


 ビルルが訳のわからないことを言っている。彼らが今いる場所は家と家の間の路地。要するに不良の溜まり場になる可能性がある裏路地だ。


 (いぶか)しげな目で彼女を見るが、全く動じずに制服の胸ポケットから何かを取り出す。中から出てきたのは鍵。しかも、明らかに胸ポケットに入るほどの大きさではない。


 ーー無限に色んなものが入るポケットかよ。青い猫型ロボットが持っている。


 心の中で軽くツッコミながらも、苦笑する。


「えっ? どうして突然、笑ってるの? キモいんだけど」


 彼女のストレートすぎる発言に苦笑しながらも、血を吐きそうになった。それほど精神的ダメージを負った。


 空は雨が降りそうなほど、どんよりと曇っていた。

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