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第55主:動画

「まずは特定指定異世界って何だと思う?」


 エルリアードの質問にシュウは考える。自分がいた世界で特定指定とよく似た言葉を聞いたことがあるので、なんとか思い出そうとしている。そして、思い至った。


「い、異世界で危険な世界とかですか?」


「正解。特定指定異世界はこの世界の人にとって、危険な世界。捕まれば死よりも恐ろしいことが待っているし、人間として扱われない」


「よ、予想通りでしたね」


「うん。でも、今からある動画を見せる。これは現実に起きて、特定指定異世界エクスで今も起きている」


「ど、動画ですか……。そ、そんなことをしている暇があるなら、学園の復旧しないとですよ」


「それは気にしないで。ただ、学校の姿を偽っている障壁が一部剥がされただけだから」


「そ、それって一大事なのではっ!?」


「いや、そこまで大事(おおごと)じゃない。術師が何人か死ぬだけ」


「そ、そうですね」


 シュウにとっては誰かが死ぬという時点で一大事。だが、この死なない世界の人たちにとっては些細なこと。どうせ復活できるということを知っているから。だからこそ、魔力を扱える術師が惜しみなく魔力を注ぐことができる。


「わ、わかりました。そ、そそそれでは観させてもらいますね」


 シュウの言葉を聞くとエルリアードは微笑を浮かべながら頷く。


「さて」


 彼女が一言、そう漏らすと彼は見えない結界に包まれた。そのことを感じ取った彼は目を見開く。


「どうするつもりですから!?」


『今からそこに映像を流す。映像というよりも自分が経験しているかのように思うだろう。だけど、安心して。精神がおかしくなっても治してあげるから』


 エルリアードの声がシュウを包んでいる結界内に響く。


「どうしてそんなことをっ!」


『あなたにはワタシたちの世界の住人が経験したことを知って欲しいから。そして、他世界に行かせないため』


「わ、わかりました。そこまで言うのなら、体験してみます」


『よく言った!』


 エルリアードの声が嬉しさに満ちている。


『それじゃあ始めるよ』


 彼女が言うとシュウの視界いっぱいに昔の映画みたいにカウトダウンが始まる。


 カウントダウンが終わると世界は暗闇に満ちていた。すると、突然ムチで打たれる。映像のはずなのに痛みを感じる。


「おい! 異世界人! お前死なないらしいな」


 野太い男の声が聞こえる。こちらは声も出せない。口にタオルを詰められているから当たり前だ。ここは牢屋。その行為が認められている。


「なんか言えよっ!!」


 理不尽にムチで打たれる。


「はぁ……そんな反抗的な態度を取るなら仕方ない。あぁ、仕方ないさ。そんなことしたくないけど、お前を奴隷送りにするしかない」


「んんんっ!!!」


 必死に抵抗する。いやだという意思表示で必死に首を左右に振る。だが、男はその姿を見るとニヤリと笑う。


「反抗的な態度を取るなと言ったな? 悲しいよ。奴隷送りにするなんて」


 男は言う。一切悲しそうな表情をせずに。むしろ、愉快そうな表情をしている。


 視界がブラックアウトしたが、すぐに明るさを取り戻した。周りもその明るさに見合うように笑っている。空も青く平和な光景に拍車をかける。そんな中、表情が暗い彼の姿は異物としか言いようがない。


 肉体労働を強いられているのだ。手足には黒くて重い拘束具を付けられている。辛いだろう。死ぬほどに。だが、死なない。そういう世界に生まれてしまったせいだ。


 彼は自分の生まれ故郷を恨む。あの世界に生まれたせいで自分がこんなことになっているから。でも、世界を恨んだってどうしようもない。それくらいはわかる。それにあの世界を滅ぼすためにはあの世界の民、全員を拉致しないとダメだ。殺しても死なない。だが、拉致をすれば、拉致された人たちが辛い目にあうのは明白。彼はそれが嫌なのだ。自分だけが辛い目にあうのなら耐えられるが、他の人が奴隷になるのは耐えられない。


 彼は心優しい青年なのだ。そんな青年でもこの状況下では精神がおかしくなる。死なないが死の痛みはある。そのため反乱を起こそうとは思いもしない。


 シュウはそんな青年を哀れ、悲しむ。青年を一刻も早く奴隷から解き放ちたいと思う。だが、今の自分ではどうしようもないこともわかっている。


 視界が明るいところから薄暗いところに変わる。目の前には一人の女性がいる。背後にはベッドがある。


 女性が彼を見ている。かなりの至近距離にいることが、息遣いなどからわかる。そして、相手が裸であることもわかる。だが、相手の目は愛おしい人を見る目ではなく、まるでオモチャでも見ているかのような蔑んだ目。


 彼は逃げようとする。だが、四肢が鎖で繋がれていて、逃げようがない。抗ったってどうにもならない。ただ、無様さが増すのみ。彼は女に踏まれた。しかも、全体重を腹の部分に乗せてだ。胃液が逆流しそうになる。女はそんな苦しんでいる彼を見て、満面の笑みを浮かべている。



 目を閉じた。すると、薄暗いところは変わらないが景色が変わった。先ほどまではベッドで微かな温かみを感じていたが、今は無機質で冷たさしかない。つまり、石畳。


 相変わらず四肢が鎖で繋がれている。目の前には腹が出ている、体毛の手入れをしていないほど汚い男がいる。その男は完全裸。そして、股間にあるモノをかなり大きくさせている。


 それらの光景からシュウは察した。今の自分は女の姿だということを。実際に視線を下に向けると、豊満な胸が目に入ったので違いない。他にもわかったことが一つある。今の自分は全裸で抵抗ができなくて、足を無理矢理、広げられていることを。


 幸い、視覚以外の五感は正常に機能していないので、どうということはない。ただし、シュウが視覚を借りている人はそんなことなかっただろう。恐怖に呑まれて、様々な感覚を味わっていただろう。


 視界は変わらない。ただ、相手が何度も何度もめまぐるしく移り変わる。まるで自分が娼館の娼婦になったようだ。それはただ、地獄でしかない。


 死ぬことが許されなくて、衰えることも許されない。精神は疲弊していくが、癒してくれるものは誰一人としていない。彼女もまた青年のように自分が生まれた世界を恨む。そうしないと、わずかな自我も保てなくなる。そうなればおしまいだ。


 今の自分の生活を受け入れて、憎い男たちに愛という感情を抱くようになってしまう。それだけは絶対に避けなければならない。もし、自分が生まれた世界に帰ることができても、この世界に留まるようになるかもしれない。


 彼女は救世主を待つことしかできない。



 いいや、彼女だけではない。先ほどの青年はシュウがこの後見る、様々な人々が待っている。救世主の登場を。救世主という存在を。


 シュウは自分が救世主になることができないと思っているが、救いたいと思っている。それが彼にとって少しの償いになるかもしれない。妹の美佳を殺してしまった償いに。

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