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第54主:第三異世界エクス

 醜悪な笑みを浮かべた敵二人をシュウが睨む。今の彼は、いつでも対処できるように前傾姿勢だ。


『サルファ。ありがとう。その魔法を俺にかけたら逃げてくれ』


「なっ!? そんなことできるわけない!」


「ん? 念話かなぁ? 一体何を話したんだろう」


「お前に教える義理はない」


「そりゃあそうだよ。でも、念話と認めたね」


「だとしたらどうした? お前たちには念話はできない」


「たしかに。でも、無線機はあるからね」


「逆に異世界なのに、ない方が驚きだわ」


 シュウはチラチラとバレない程度にサルファを見ながら、相手と対面している。念話で話しかけたが、今の彼女は詠唱中だ。この世界の言葉で唱えているため彼にとっては何を言っているのか一切わからない。


「それで……。あたしたちはいつまで待っておけばいいの?」


「なら、来いよ」


「えぇー。虐殺は好きじゃないんだけどなぁ」


「どの口で言う?」


「てへっ」


 彼女は少し舌を出して、可愛こぶる。語尾に星が付きそうだ。

 見た目はシュウたちと何も変わらないので、普通なら可愛く思うだろう。だが、シュウは思わない。思えるはずがない。相手はこの世界から何人も連れて帰って、奴隷にしているのだ。

 

「なら、行くぞ!」


「おうっ!」


 女の言葉に男が反応して、二人は同時にシュウに向かう。相手は目で追えないほどの速さでやってくる。だが、今朝の特訓のおかげで容易く避けることができる。避けられたので少し目を見開くが、攻め続ける。シュウに反撃の余地を与えないつもりなのだろう。


 元から今の状態では反撃する気がないシュウは特に何も感じていない。自分たちが押していると勘違いしている。普通ならこの状況だと焦るはずだ。だというのに焦っていない。だから、二人はシュウを見て恐れを覚え始める。


『おまたせ』


 シュウの脳内にサルファの言葉が聞こえてくる。頼んでいた準備ができたようだ。


「リミットロスト!」


 サルファはシュウに手のひらを向けて叫ぶ。すぐに彼の身体を赤い光が覆い始める。


 わけがわからなくて敵の二人は警戒をする。その場で構えるのみ。


 赤い光がシュウの身体を覆い尽くすと、パキンッ! と乾いた音がした。瞬時に彼が短剣を軽く一振りすると、斬撃が敵に向かって飛んでいった。その斬撃の後ろにつき、彼も駆ける。


 先ほどまでの彼とは別人のようだ。斬撃なんて飛ばせなかったし、駆ける速度が斬撃と同じ速度なのだ。普通の人間の出せる速度ではない。何か機械を使わないと絶対に出ない。体は壊れていくが関係ない。敵の二人を道連れにできるのなら文句はない。この世界は死なない世界だからというわけではない。例えこの世界に死があったとしてもシュウは恐らく同じことをしただろう。彼自身が自分の生にこだわりがないのだ。


 男の首に向けて、下からすくい上げるようにして短剣を振るう。当然だが、避けられる。だが、諦めない。


 短剣の一撃で終わらせようとシュウは考えていた。それをやめることにした。少しずつでもいい。だが、確実に相手に傷をつける。彼は全身を使い相手をなんとか殺そうとする。どんな手でも使う。


 だまし討ち。罠。噛む。ひっかく。足をひっかける。斬る。殴る。蹴る。叩く。


 もう完全になりふり構っていられていない。優雅さの欠片もない。ただ、泥臭さがあるのみ。外面なんて気にしていられない。だというのに敵は優雅に。できる限り些細な動きで避けたり、反撃したりしている。それらを見てもわかる通り、力量の差は歴然としている。だが、彼は諦めない。醜い抗いをする。敵には届かないと知っているのに……。


「もういいよ。正直、つまんない」


 敵の女が言うと男がシュウに殴りかかる。完全に攻撃に転じているためシュウは避けることができない。男は殴りかかったのとは違う、もう片方の手で腰の銃を持つ。


 だが、シュウは気づかない。いや、気づいていて、ワザと気づかないフリをしているのかもしれない。今の彼は死ぬ気だ。


 シュウは男の拳ではなく腕に短剣を突き立てる。予想外だったのか男は対処できない。そのまま男の腕を裂く。血管が破れたのか血が噴き出る。


「ナメるなっ!」


 男はシュウの頭に銃口を向け、撃った。だが、直前で止められた。シュウは何もしていない。明らかに当たると思っていた男は目を見開く。


「シュウっ!! 大丈夫かっ?!」


「どうして…………」


 シュウは固まる。やってきた人たちを見て。


 サルファ。ビルル。グウェイ。エルリアード。セインド。そして、ヒカミーヤ。


 全員がシュウのことを差別しなかった者たち。シュウが守りたかった者たち。


「どうして来るんだよ!! どうせ死なないし、この世界のことをほぼ知らない俺のことなんて放っておいてくれよ!」


「できない。例え異世界人だとしても、シュウくんはわたしの……わたしたちの仲間よ!」


「ビルルの言う通りだぞ。シュウ」


 ビルルに続いてセインドが言う。シュウは知っている。彼らが優しいことを。だからこそ、彼は守りたかったのだ。迷惑しかかけていない自分になんて生きる価値ないと思っている。だが、この死のない世界でも死を許してくれない。


「形勢逆転しちゃったね。逃げようか」


「そうですね」


「逃すと思うか?」


 逃げようとした敵にエルリアードは一瞬で近寄る。さすがは学園長だ。早い速度になれたシュウでも見えなかった。


「学園長エルリアード・D・アストラーね。あなた一人で止められると思う?」


「誰が一人と言った?」


 エルリアードが言うと、グウェイも同じように一瞬にして接敵する。


「これで二対二。さぁ、どうする?」


 エルリアードはまるで遊んでいるかのように敵を挑発する。だが、敵もバカではない。挑発に乗るようなマネは一切しない。ただ、冷静に相手の隙を伺う。だが、二人には隙というものが一切なかった。


「さて、行くよ」


 エルリアードがそう言った瞬間に敵二人は縛られていた。しかも、見えないロープでだ。敵にすれば何もないのに突然、何かに縛られた感じがして身動きが取れなくなったのだ。混乱してもおかしくない。だというのに敵は平然としている。


「あなたたちには情報を吐いてもらう」


 エルリアードが威圧をしながらも敵に言う。敵の女はそんな彼女を見てニヤリとする。


「吐くと思う?」


「どんなことをしてでも吐かせる。あなたたちはワタシの学校を攻めたのだからな」


「そう…‥。でも、そんなの叶わせないわ! ザマァ見なさい!!」


 女は叫ぶと敵の体が爆発したかと思うと、二人分の肉片と血の雨が降り注ぐ。シュウはそんな光景を見て、呆然と立ち尽くしている。


 彼は初めて人が爆発するところを見た。飛び散った肉片などを見ても現実感がない。だからこそだ。


「ここまで人を消耗品にするところはあそこしかないな」


「第三異世界エクスですか?」


「そう。さすがはビルルだ」


「よりにもよってエクスですか。連れ去られた子たちが心配です」


「うん。そうだね。でも、ワタシが今一番心配なのはシュウくんだよ」


「俺……ですか」


「そう。悲しい場面を見せてしまったね」


「いえ…‥」


「おや? 妙に落ち着いているね」


「死んだのは敵でしたから。普通の戦いだとどちらかは必ず死ぬ。そのことが身にしみました。それに人間爆発とか現実味がないですからね」


「そう。今からあなたに第三異世界エクス……いや、特定指定異世界の説明をするね。授業だよ」


「わかりました。お願いします」


 シュウは頭を下げるとエルリアードの説明を受け始めた。

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