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第51主:俺たちの席ってどこですか?

「着きましたよ」


「あ、ありがとう」


 警戒していた割には特に何もなかったのでシュウは素直にお礼を言う。とはいえ少し動揺も隠れている。


「いえいえお気になさらないでください。また何かあれば気軽に言ってください。これは恩返しですから遠慮しないでくださいね」


「恩返し? 俺はお前に何かしたのか?」


「今は秘密です。またいずれ話しましょう」


「わかったよ。今回はホントに助かった」


「いえいえ」


 女生徒は去っていく。二人はそんな彼女を見送る。見えなくなったところで教室へと繋がる扉に向き直る。


「あっ、名前聞くの忘れてた」


 またお礼を言いに行こうと思っていたが、二人は彼女のことを何も知らない。知ろうともしていなかった。


「シュウ。あの女の子にはお前は普通に対応できていたな。どうしてだ?」


「そうですよね。でも、なぜかあの女の子には親しみを感じていたのです。全く知らない人なのに知っている気がしたのです。そのせいですよ」


「そうか。なんか不気味だな」


 サルファの言葉にシュウはコクリと頷く。実際に彼も同じように感じていたのだ。主宇という明らかに日本と全く同じ発音で彼の名前を呼んだ。この世界に来てからあんな発音での呼ばれ方をしたのは初めて。そのため恐らくこの世界ではあの発音は存在しないだろうと思っていた。だというのにだ。だからこそ不気味に感じて当然。


「さて、ここで止まっていても迷惑だし教室に入ろう」


「は、はい」


 入ったら中にいる人たちの気を悪くすると知っているシュウはためらってしまう。そんな彼を見てサルファはため息をつく。


「ずっと、そうしていても何も始まらない。堂々としろ。周りの目は気にするな。もし何かあったらオレがいる。オレがお前を守る。絶対にな」


 彼女の言葉聞いた瞬間にシュウは微笑を浮かべる。


「女性に守られるのは情けないですね」


「む。オレは男だ」


「“元”男ですよね」


「心は男だ」


「はいはい。わかりました。堂々とはできないですけど、ためらいは捨てます。俺は嫌われて当然だと開き直りますよ」


 一度深呼吸をしてから、シュウたち二人は教室の中へ入った。


 入った瞬間に様々な気を感じ取る。先ほど言った通り開き直っているのか彼は何一つ反応しない。平然としている。まるで日常の一部だとでも言うかのようだ。それよりもシュウは驚きを隠せない。昨日、ヒカミーヤが暴れてボロボロになったはずの教室が何もなかったかのように異常が見当たらない。


 そこで彼は自分の席がどこかわからないの思い出した。席に座る前に問題を起こして停学処分になったのだ。


 教室内には彼が話せるような相手はいない。だからといってこのまま突っ立っておくわけにはいかない。ここは出入り口なので邪魔にしかならない。仕方ないと思い、教室の段を上っていく。


 教室は黒板がど真ん中にあり、黒板を囲むようにして半円形のように生徒の席が広がっていく。三人一セットの机が横に三つ並べば、別の段に上っていく。それが六段まである。


 シュウは邪魔にならないように六段のさらに上にある、何もない通路に向かっているのだ。通路のど真ん中でも邪魔なので隅っこだ。彼はそこで腕を組みながら教室を眺める。


 まだ早いので空席が目立つ。シュウと目が合えば関わりを避けるように()らす人もいれば、ビクビクと震えだす人もいる。昨日、絡んできた男子生徒はまだ来ていないから、敵意を向けるものは少ない。いないわけではない。


 昨日、ヒカミーヤとサルファに殺されたので、怯えている人が大半だ。シュウもシュウとて男子生徒を気絶させるし、コウスターと模擬戦をさせられて、かすり傷でも傷を負わせたので恐れられている。そもそも彼が異世界人だということは広まっている。その時点で憎むべき対象か恐怖の対象にしかならない。


 わかっていてシュウは影になろうとしている。誰にも気づかれない闇の住人に。


 先ほどから何度も気配を消しているが、絶対に誰かに見られている。さすがに見られていたら気配を消しても意味をなさない。


 ただビルルが早く来てくれることを願うばかりだ。


 教室の扉が開くたびにビルルかと視線を向ける。違えばまた影になろうとする。



 幾度となく繰り返す。当然、昨日シュウが気絶させた相手もやってくる。


 ビルルが先か彼が先か。

 ビルルが先に来ることを願うのみ。しかし、彼の願いは届かない。


 気絶させた男子生徒が先にやってきたのだ。彼はシュウを見つけた瞬間に憎悪の感情を向けて、近づいていく。


 今、シュウの手元には武器になりそうなものがない。ただの肉壁としてのサルファがいるだけ。しかし、シュウはサルファを人間だと思っている。ただの普通の人間で、か弱い女の子だと。そんな彼女を盾にするほどシュウは腐っていない。


「昨日の落とし前を付けてもらおうか」


 男はゆっくりゆっくりとまるでシュウたちに恐怖を植え付けるかのように歩いている。そんな彼を見てサルファはシュウの前に出た。しかし、止める。シュウはサルファよりも自分が前に出るのだ。


「本気かっ!?」


「あぁ。本気だ。だから何もするな。これは命令だ」


「ハッ! 今から自分がどうなるか理解できていないようだなぁ! 無様だなぁ! さぁ! 死ね!」


 どこからともなく取り出したナイフ。彼はそれをシュウに振りかざした。


 朝。ビルル特訓したおかげか見える。相手が振りかざすナイフが見える。避けようと思えば避けることは容易い。だけど、今のシュウの頭の中には避けるという選択肢はない。ましてや戦うという選択肢もない。ただ、死という選択肢しかない。だからこそ、彼は全く動きもせず、素直に相手が自分を殺すのを待つ。


『彼の者を討ち亡ぼすための(つるぎ)となれ。我が小刀は敵を消す(つるぎ)。全ては我が思念のために!』


 男子生徒が叫ぶように呪文を唱えると、ナイフが小刀になり、シュウの半身くらいの大きさの剣になる。その剣を男子生徒はシュウの首へ振り下ろした。


 容易く首が飛ぶ。血が多量に噴き出す。彼らがいる場所が教室の隅で幸いした。血は六段目の椅子の寸前まで飛んでいたのだ。


 シュウの首の表情は飛ばされたというのに穏やかだ。まるで全てを受け入れているようだ。彼らのことを見ていた他の生徒たちは顔を逸らしている。


 飛ばされた首は数回(まばた)きをすると、勝手に転がりだして胴体は向かう。しかし、男子生徒は通さない。首を拾い上げ剣となったナイフで貫く。まるで大将の首を取った者が殺したことを示すかのように高く掲げる。


 サルファは唇を噛み締めながら、その光景を見ることしかできない。今の自分が彼に挑んでも無意味だと理解している。何より主人であるシュウからの命令だ。背くわけにはいかない。彼女は元勇者だ。重大な命令に背くことはなかった。彼女はシュウからの命令は重大なものだと解釈している。


 掲げていたが飽きたのか思いっきり地面に叩きつける。魔力が付与していて男子生徒の力が上がっていたのか、シュウの顔は潰れる。


 血が飛び散る。先ほどよりも距離を伸ばしてだ。だから、六段目にある席に付着した。


 潰れた首は元の大きさに戻り、先ほどと同じように首が勝手に胴体へコロコロと転がっていく。今回は男子生徒も無視する。首の切断面と胴体の切断面が合わさると薄い緑色の光に包まれて、くっ付く。外に抜けた血も身体に吸い込まれる。



 二十分後にシュウは目を開けた。

 どうやらそろそろ授業始まりのチャイムが鳴る時間くらいのようだ。朝の時間と昼休みが終わる五分前から流れる音楽が流れている。シュウは聞いたことないので恐らく、この世界の音楽だろう。


 そんな時間になってようやくビルルがやって来た。目が合うとシュウのところへやってくる。すでに彼は立ち上がっているので、特に何も気づいていないようだ。


「あ、あの……俺たちの席ってどこですか?」


「んあ? あぁ! そうだったね。まだ席を教えてなかったね。シュウくんの席はここ」


 そう言ってビルルが指差したのは六段目の隅っこ。今、シュウたちがいるすぐ近くで、血が飛び散っている席だ。血に気づかないほど鈍感ではないビルルは(いぶか)しげな表情を浮かべる。


「何でしょうか。これは血にも見えますし、インクにも見えますし」


「さぁ、何だろうね。わからないよ。まぁ、シュウくんの席を知っていての嫌がらせの可能性が高いと思うよ」


「ハハッ。やはり異世界人って嫌われてますね」


「まぁ、こればかりは仕方ないとしか言いようがないけどね」


 シュウは苦笑を浮かべる。これが自分の血だと知っていての対応だ。まるで自分を殺した男子生徒を庇うかのようだ。そんなシュウの反応を見て、つまらなさそうな表情をシュウを殺した男子生徒は浮かべていた。

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