第48主:修繕魔法
シュウは目を開ける。空は相変わらずの曇り空。立ち上がると目の前にビルルがいた。
「シュウくん。お疲れ様」
「どれくらい気絶してましたか?」
「十六分くらいかな」
「十六分……。それじゃあ特訓の続き」
「今日はもう特訓しないよ」
「……えっ?」
「時間的にちょうどいいくらいだし」
「す、すみません。僕が寝過ぎたせいで……」
「まぁ、そりゃあね。でよ、仕方ないよ。さっきのを合わせると二百三十六回も死んだからね」
「二百…………ん? か、数えていたのですか!?」
「うん。暇だったからね」
「よ、弱くてすみません」
「いいよ。いいよ。最終的には反撃しようとするところまでいけたのだしね。でも、さすがにあれは驚いたよ。今までただ死んでいただけだしね。ついつい反射的に殺しちゃったよ」
「はは。まぁ、最後の方から数回でようやく姿を見えるようになってきましたから」
「まぁ、でも上出来だよ。恐らくシュウくんがいた世界では命がけの戦いみたいなのは滅多に起きなかったんでしょ?」
「いえ。世界的に見ると頻繁に起きてますよ。ただ、俺たちが過ごしていた国では、ほぼ無縁ってだけですよ。まぁ、毎日が危険と隣り合わせですけど」
「まぁ、それは仕方ないよ。どの国でもそれは仕方のないこと」
彼女が言ったことは最もだ。犯罪がない国があれば当てはまらないが、そんな国はどこにもない。それはシュウがいた世界でも、この世界でも。犯罪は人がいるから起こりうる。人がいない国など、どこにもない。あるはずがない。アンドロイドしか住んでいない国だとしても、必ずメンテナンスや制御をするための人間はいる。よって犯罪は必ず、どの国でも起こる。それは大小問わずだ。
「さて、帰ろうか」
「結局、二人は来なかったですね」
「そうだね。まぁ、仕方ないんじゃない」
「まぁ、二人にも事情がありますしね」
「帰ったら、字の勉強よ」
「了解です」
彼女は鍵を何もない宙に刺す。いつも通り鉄扉が現れる。鉄扉をくぐると、どこかの部屋に出た。生活感がすごくあり、清潔感もある。恐らく部屋の作りはシュウと一緒。でも、別物。
「ここは一体……?」
「わたしの部屋」
「…………えっ?」
「なに? 意外?」
「失礼ですが、はい。正直女子が男子を部屋に抵抗なく入れるのが意外です」
「まぁ、幼い頃から慣れているからね。親だって見た目は自分と変わらないくらいなんだから。勝手には入られたりしていたしね。そんなことを繰り返してきたら、同い年の異性を部屋に招き入れるのは一切、苦じゃないよ」
彼女の言うことは最もだ。言い返すことなんて何もない。勝手に一人でビクビクするだけ。
「さて、シュウくん。服脱いで」
「…………はっ?」
「早く脱いで!」
「は、はい!」
なぜか鬼気迫る声色に驚き、つい反射的にシュウは指示に従う。脱いだのは、もちろん上だけだが……。
「さて、どうするか……」
渡された服を見て、ビルルは顎に指を当てて考える。彼女のその様を見て、シュウはあることを思い出した。
「どうしたのですか? 修繕の魔法ができないんですか?」
「いや、できないわけではないけど、修繕のための呪文が思いつかないのよね。わたしは基本は呪文なんて使わないからね」
「それは特殊と聞きましたけど……」
「誰から聞いたの?」
「それは……秘密です」
「へぇー。まぁ、いいけどね」
「それにしても修繕の魔法の呪文ですか……。元に戻すみたいな単語を入れてみるのはどうでしょう?」
「元に戻すね……。巻き戻りとかしか思い浮かばないよ」
「巻き戻るって……マジですか。普通に修理とかは」
「却下」
「わかりました。というか俺に口出す権利とかないですからね」
話は終わったとばかりにビルルはシュウに背を向けて、彼の制服を見る。かなりの面積が破れている。全てが急所がある部分。特に胸の真ん中辺りが盛大に破れている。
『時間よ。戻れ。繰り返しではない。巻き戻り。特定の時間戻れ。戻れ。起きろ。修繕魔法。発動』
ビルルはシュウの制服に手をかざしながら、淡々と呪文を唱えた。手から淡い青色の光が出ている。光がシュウの制服を包むと、修繕を開始する。一瞬に戻らない。文字通り巻き戻るかのように徐々に直っていく。
「よし」
数分後にビルルは呟いた。彼女は手に服を取り、シュウに差し出す。まるで新品のようになっていた。いや、実際に制服を貰い、二日しか経っていないので新品のようなものだ。むしろ、たった二日であそこまでボロボロになること自体がおかしい。
シュウはビルルから受け取った制服に身を包む。なぜか、ボロボロになる前よりも着心地がいい。
「どういうことですか?」
「んー? 少し着やすくしただけだよ」
「だから、どうして俺が少し着にくいと思っていると知っているんですか? 誰にも言ってませんよ」
「んー? なんとなく?」
「なんとなくでわかるとから怖いのですけど」
「あははは。わたしの察知能力をなめないで」
「あなたが察知能力高いのとか初耳なんですけど!?」
「さて、字の勉強しよ」
「なかったことにされてる!?」
ツッコミを入れながらも、シュウはさりげなく字の勉強の準備をし始めた。




