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第44主:奈落の底

 とても暗い、ただの闇がシュウの視界に広がっている。闇の中、一歩踏み出せば目の前に一人の黒髪の少女が姿を現した。


「ズルい……。ズルいよ! おにいちゃんはいつもズルい!」


 目の前に現れた少女から突然、責められる。でも、彼は何も言い返さない。むしろ、とても穏やかな表情を浮かべている。


「知ってる。俺がズルいことくらい、俺が一番よく知ってる。

 今は美佳を殺したのに俺だけ異世界で第二の人生を謳歌してる。

 子供の頃だってそうだ。鬼ごっこの時に罠を張り巡らせて、バレないようにしていた。それで何度相手を泣かせたことか。だというのに俺だけではなく美佳にも謝らせていた。ただ、兄妹というだけなのに。

 そんな俺よりも美佳の方がこの世界に来るのが正しかっただろう。ワザとではないけれど、俺が女神に会ってしまったんだ。今はもうほとんど思い出せないけれどな。俺はワザとでなくともセコい、根っからのズルい人間だ。代われるものなら今すぐ、この立場を代わってやりたい」


 彼はそこで自分をふっと鼻で笑う。


「こんなこと言って、期待させておきながらも、代わってやれない。それにこの世界では俺は周りに守ってもらってばかりだ。俺はズルいなんてもんじゃない。ペテン師。嘘つき。詐欺師。その分類だ。でも、美佳は違う。美佳は純粋。お人好し。人を疑うことを知らない。美佳はいい奴なんだ。

 だからな……お前があいつのことを汚すな! お前は俺が作った幻想だ! 消えろ! これ以上、姿を見せるなっ!」


 言い切ると、彼の前にあった少女の姿が霞む。


『クックックッ……。ハッハッハッ!!』


 笑う。シュウと同じ声で(わら)う。


          ♦︎


 シュウはベットで起き上がる。

 まだ夜も深いのかフクロウが鳴いている。


 さすがに一緒の部屋はマズいと考えたので、部屋には彼一人しかいない。


「美佳……。ごめんな。俺がお前を汚しちまった。お前はあんなことを言わないことくらい知っている。お前は優しいもんな」


 呟きながらも彼は部屋に付いているバルコニーへ向かう。バルコニーへと続く扉を開けると優しい風が彼の身体を包むように吹く。少し進むと柵があるのでそこに肘を置く。


 壊れないかなと思った瞬間に柵がなくなる。だから、下へと落ちていく。


 さすがに完全に人が寝静まっている夜中は幻覚を解除しているのか、下は何も見えない。ホントの姿だと、恐らくかなり高いところにクラウダー学園は建てられたのだろう。でも、クラウダー学園のこちら側は立ち入り禁止になっているので、断崖絶壁という可能性もある。はたまた奈落の底に繋がっているのかもしれない。


 現段階では水音は聞こえないので後者の方が確率としては高い。


 現実味がないせいか、自分が死んだらいいと思っていたせいか恐らくその両方のせいで、恐怖というものは感じない。ただ、落ちてるんだなぁという感想を抱くだけだ。


 落ちる。ひたすらに落ち続ける。


 視界は闇。ただの闇。今の自分がどこにいるのかもすらわからない。どうせこの高さなら落ちたら一瞬だろう。彼は今の現状が好機だとみる。死んで復活しても、この深さなら助けにくることはまず不可能だろう。つまり餓死する。それを繰り返していると肉親殺しの罪がほんの少し、軽くなる気がする。


 全くそんなことないのに彼は錯覚してしまい、何もしないでいることにした。


 次の瞬間に全身が強く打ち付けられて、とてつもない痛みを感じた。しかし、それも一瞬のこと。脳が勝手に自己防衛を働き、彼の意識は暗闇へと落ちていった。


           ♦︎


 ヒカミーヤは自室で目が覚めた。隣にはサルファがぐっすり寝ている。彼女自身はトイレに行きたくて目が覚めただけだ。ただ、シュウの気配が感じられない。


 妙な胸騒ぎを覚えて、トイレに行かずに彼女は彼の部屋へ向かった。


「シュウッ! っ!?」


 彼の名を呼び、すぐに扉を開けた。しかし、その場には彼がいない。何か異常な箇所がないかと確認すると、一瞬にして見つかった。バルコニーへ繋がる扉が開いている。彼女は駆ける。しかし、そこにはシュウはいない。


 ただ、一つだけ異常な箇所がある。柵がないのだ。転落防止のための柵が、人工的に切り取られているのだ。彼女はすぐ近くの柵に触れてみる。押したりしてみる。しかし変化はない。


 だからわかった。これは誰かが意図的に作ったものだ。犯人はわからない。でも、今は彼を救いに行くのが彼女にとっては最優先事項だ。


 柵の下を見る。下にあるのは闇のみ。


「幻覚が消えている……。やっぱり」


 彼女は予想がついていたのだ。大概の人が寝静まっている夜中にはこの国は実際の姿を現わす。彼女が知っているこの国にこんな場所はなかったが、彼女が知っているこの国の姿は700年も前の話だ。変わっていてもおかしくない。


 彼女は彼をどうやって救おうかと考えた。力が制御されているせいで、ほとんど何もできない。ましてや奈落の底までに無傷で行く方法なんてない。


「いや……ある。確かあの力使えたはず」


 彼女は呟くと、ある姿を思い浮かべる。そして、思い浮かべた姿になれるように強く念じる。


 次の瞬間、彼女は肩甲骨あたりに違和感を覚えた。しかし、それは今の彼女にとっては嬉しいことだ。


 彼女は奈落の底へと通ずる闇へと飛び込む。正気の沙汰じゃないように感じるだろうが、それは普通の人間ならの話。今の彼女にはコウモリのような翼が生えているのだ。その翼を羽ばたかせて、奈落の底へと急降下で降りていく。


 彼女は翼だけではなく目の機能もコウモリみたいになり、赤く輝いている。そんな彼女には奈落の底へと通ずる道は闇ではない。ただ、暗いというだけだ。目が慣れたら、問題がない。


 すぐに目が慣れてくれたおかげで、普通に明るく感じてきた。あとは目的の場所まで進むのみ。

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