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第43主:花火

 シュウは街のあまりのキレイさに見とれそうになったが、慌てて意識を無理矢理そらすため背後を見る。今の状態で見とれていたら、危うく街の光をバックにしているセインドに見とれていると勘違いされるところだったからだ。


 彼以外からすると、彼がとった行動の意味が不明だが、本人からすると変な噂をされたくないからと至って普通だと考えている。


「み、みなさんはこの場所をご存知で?」


 彼の質問に対して、セインド以外は首を横に振る。そんな、みんなの反応を見て、セインドは少し嬉しそうだ。


「まさか僕だけが知っていたとは……。あれ? でも、ビルルには一度教えたはずだけど……」


「えっ? 嘘っ!? ホントに!?」


「ホントだ。まぁ、軽く話しただけだし、覚えてなくてもおかしくない」


「でも、一度来たら覚えるはずなんだけどなぁ」


「まぁ、行くのを面倒くさがっていたし、行ってないんだろう」


「もったいないことをしちゃったなぁ」


 二人の会話を周りの四人は無言で聞いている。周りには六人以外は誰もいないので、邪魔にならない。


「ん?」


 突然、街の電気が消え始めたので、シュウはどうしたのかと思う。


「始まった……」


「始まったって何が?」


 セインドの一言にシュウが反応すると、突然空に大きな光が現れた。その光は花のように咲き、とてつもない音を立てる。


「花火……」


 シュウは光を見ると呟いた。


「もう、そんな時間なのね」


「ベストタイミングだったな」


「で、でも、こんなに暗くして大丈夫なのか? ぶつかったりしないか?」


「それは問題ない。光が欲しければ作ればいいだけだしな。それにこの状況は国民の公認だしな」


 空に浮かぶ多くの大輪の花。しかしそれは、ここにいるヒカミーヤとサルファが捕まった祝いのために用意されている。そのことが突っかかってしまい、スゴイとは思うけど素直に口に出せない。そのせいで彼の視線の先は自然と二人は向いてしまう。


 二人はあんまり見たことがないのか、目を輝かせて眺めている。さらに花火を普通ではあまり見ない横から見ているのだ。よく見ていたとしても、下から見ているから今回は特別に感じるのだろう。ヒカミーヤやサルファ以外も同じように目を輝かせている。そんなみんなを見るのが辛くなったのか、シュウは一人だけ少し離れる。


 彼の足跡を鋭敏に感じ取ったヒカミーヤとサルファは彼の方へ向く。


「どうしたんだ? 見なくていいのか?」


「そ、そうですよ! 普通は横からなんて見ないから特別なんですよ!」


「い、いや、俺はいいです。近くで見ると煙でむせそうになりそうですから」


「そうですか……。なら、仕方ないですね」


 嘘に彼女は少し寂しそうな表情を浮かべる。そのせいでどう取り(つくろ)うか考えたが、やめた。どう取り繕ったとしてもボロが出る気しかしないからだ。


 心優しい二人は彼が花火を見ない本当の理由を話したら、どうせ落ち込ませることになるのなら、今のままの方がいい。彼はそう考えたのだ。



 一時間近く経つと花火が終わりを告げた。終わる合図のように最後に[おわり]と書いた花火が上がったのでわかりやすい。


 次の瞬間にパッと視界がとても明るくなる。理由は簡単。街全体の電気がようやく再点灯したのだ。


『皆さま。今日はお疲れ様でした。(わたくし)は王族専属の執事のサイリャンと申します』


 突然、先ほどまで大輪の花が占領していた夜空に白ヒゲがモジャモジャに生えた強面(こわもて)のおじいさんの顔が浮かんだ。


『本日は皆様にお伝えしなければならないことがございます。皆様もご存知のイクスワル王女殿下が本日18歳のお誕生日をお迎えいたしました。皆様にイクスワル王女殿下様からご挨拶があります』


 サイリャンと呼ばれた執事が夜空から消えると茜色のウェーブがかかった長い髪と人を惹きつけるようなスカイブルーの瞳の穏やかな雰囲気が漂っている女性が夜空に姿を現した。


 すると、丘の上にいるはずのシュウたちにも聞こえるほどのざわめきが起こる。


『皆様、イクスワルです。お初にお目にかかる方もいらっしゃるかもしれませんね。と言っても、あたくしの方からは皆様の美しい顔が見えないですけどね。一人一人ご挨拶に伺いたかったのですが、さすがに止められちゃいました』


 イクスワルは少し恥ずかしそうに笑う。その笑みは美しさと可愛さを兼ね備えている。老若男女問わず、そんな彼女の笑みに目を奪われる。それはシュウたち六人も例外ではない。それほど彼女は不思議と人を惹きつける力がある。ただし、シュウも目を奪われているが、別の意味でだ。


 他の人たちは彼女の美貌と魅力に惹きつけられているのだろう。でも、シュウは出会ったこともないはずなのに妙な既視感を覚えてしまっている。記憶を探っても消えている部分があるので、探りきれない。もしかすると、消えている記憶の中に彼女と会ったのかもしれない。ただし、向こうの世界でだ。彼は異世界に昨日、初めて来た。それまではずっと向こうの世界で暮らしていたのだ。これは間違いないと自信を持って言い切れる。


『以上、イクスワル王女殿下様のご挨拶でした』


 彼が考え事をしている間にイクスワルの挨拶は終わりを告げたようだ。そのためどれくらい時間が経ったかわからない。ただ、一つはわかったことがある。


 イクスワルはこの国でとてつもないほどの人気がある。しかも、老若男女問わず虜にしてしまう。


「ま、まさか最後にイクスワル王女殿下様が挨拶するとは思ってなかったな」


「確かに。王女殿下様はよく、わたしたちのような人と接してくれていたけど、お誕生日は知らなかったな」


「まぁ、今はとても幸せな気分だし、ここで解散とするか」


「そうだね。それじゃあわたしは寄るところがあるからお先に」


「うん。また明日…………。さて、僕たちも帰るか」


 ビルルとグウェイの姿が見えなくなると、セインドが言ったので、少しモヤモヤを抱えながらも彼のあとについて行き、宿舎に戻った。

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