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第41主:屋台巡り⑷

 飲み物を買った二人は三人の元へと戻ってきた。しかし、妙に険悪なムードが漂っているので、離れようとする。そんな三人の元へある人物が向かう。その人物はシュウやセインドでは決してない。でも、シュウは知っている人物だ。


「ビギンス様。至急お伝えしたいことがあります」


「どうしたの?」


 やってきたのはPLO-03GW。別名グウェイ。シュウが昨日見た時と同じで、女の子のような顔つき。男の子でも女の子でも、あり得るほどの声。そんなグウェイは男だ。そして、魔力で動く魔力人形だ。人間ではないはずなのに人間にしか見えない。今だって、走ってきたのは額には汗がにじみ出ていて、軽く息が上がっている。


「このお話はシュウさんにも関係があることです。ですので、彼は今どこにいらっしゃいますか?」


「さぁ。ただ、飲み物買いに行っただけだから、そろそろ帰ってくると思うよ」


 自分の話になっているのにシュウはなぜか、ここから離れようとした。


「いや、逃げんなよ」


 セインドに襟を掴まれて、首が絞まる。でも、すぐに彼はシュウをまるで小石を投げるかのように軽々と投げた。もちろん、ビルルたちの方へ向かってだ。ちょうど三人がいる場所は周りに誰もいないので、投げられても誰にも被害は出ない。


「ど、どうして空から?」


「せ、セインドさんに投げられました」


「はぁぁ。人は物じゃないと何度言えばわかるのよ」


「悪りぃ悪りぃ。でも、こっちの方が手っ取り早いしな」


「まぁ、今回に限っては別にいいけどね。彼も来たことだし、話してくれる?」


「かしこまりました。まずは明後日から、闘技戦(とうぎせん)が始まることをご存知ですか?」


「えっ? 明後日から? 初耳だけど……。急すぎない?」


「僕は知っているな。今日、学校で放課後に言われた。理由はどうやら異世界で不穏な動きがあるそうだ」


「えっ? 異世界? どうしてそんなことがわかるのですか?」


「密偵からの連絡だ」


「密偵からの……」


「今はそんなことよりも闘技戦にどうしてシュウくんも関係あるのかよ」


「学園長様からの指令です。今回の指令はサルト様にも承諾いたしております。いえ、承諾というよりも異世界人であるシュウさんを保護した罰ですね」


「さすがはお父様。もう、バレていたか。仕方ない。従うしかないようね。ごめんね。シュウくん。巻き込んでしまって」


「い、いえ、巻き込んだのは俺の方です。俺さえいなければこんなことにはならなかったのに」


「ははは。確かに。それは間違いないよ。でも、過去には戻れないからね。わたしたちには永遠に未来があるだけだから」


「ふと思ったんだけど、どうしてビルルは出る気なかったんだ?」


「だって、出てもつまらないだけだし」


「つまらない? どうしてだ?」


「セインドもコウスターも出ないのよ。そんな闘技戦に出ても、優勝確定よ。最初から結果がわかっているものほどつまらないものはない」


「あっ、そっか。コウスターは停学処分受けているから出られないのか」


「そうよ。でも、セインド。あなたが出てくれるのなら、わたしは喜んで出るよ」


「絶対に嫌。あんまり戦うのが好きじゃないからな」


「そう言うと思ってた」


「そ、それにしても自信がスゴイですね」


「あれ? 言ってなかったか? クラウダー学園で僕、ビルル、コウスターは強さで三本の指に入る。でも、僕たち三人の力は拮抗してる。だから、ビルルにしたら僕とコウスターが出ない今回の闘技戦は退屈なんだ」


 彼の説明を受けて、シュウは少し複雑な感情を抱く。


 セインドは自分でこの学園の三本指に入ると言っていた。でも、戦うのが好きじゃないと言った。戦うのが好きじゃないのは平和的でいいだろう。でも彼自身は気づいていないだろうが、それは今まで彼に負けた者たちのことを(けな)している。その負けた者の中には彼と同じように戦いが好きじゃない者がいるだろう。逆に戦いが好きな者もいるだろう。

 前者ならまだマシだろうが、後者ならかなり傷つくだろう。彼はそのことに気づいていないようだ。


「でも、ビルル。よく考えてみろ。今回はシュウがいる。彼は異世界人だ。もしかすると、強いのかもしれない。あっ、そういえばシュウ。前回のコウスターとの模擬戦は戦闘として初めてか?」


「この世界に来て、すぐにスライムに喰われたけど、アレは不意打ちだったからな。ちゃんとした戦いはアレが初めてだ。幼い頃に遊びで戦ったことはあるけどな」


 彼は昔を思い出しながら言った。


「そうか。もしかすると、シュウには戦闘の才能があるかもな」


 先ほど思い出した幼い頃の光景には美佳もいた。それだけではなく、彼と同い年の近所の子もいたし、妹である美佳と同い年の子もいた。そこで彼はトラップの達人と言わていた。そのトラップは本格的なものだ。決して、殺しに使うものではない。殺そうと思えば殺すことはできる。でも、戦闘の才能はないとわかっている。才能があればスライムに殺されることはなかったはずだ。


「確かに。シュウくんは才能があるかもね。コウスターと初めて戦ったのに一撃いれられたのだから」


「あ、あれは彼女が油断していただけだと思います」


「まぁ、明日からはシュウくんの特訓するし、わかるよ。もし、明日する特訓をクリアすることができたら才能が確実にあるね。そうなると闘技戦の決勝で当たりたいよ。師弟対決みたいな感じでね。さて、この話はここでおしまい。今は屋台巡りを楽しまないと」


「なら、今からみんなを連れて行きたいところがある。付いてきてくれるか?」


 セインドの問いに全員が頷く。


「三人も連れて行ってくれるなら」


「三人?」


「ヒカミーヤとサルファ。それとグウェイだ」


「グウェイ? 誰のこと?」


「わたしの魔力人形PLO-03GWのことよ。勝手にシュウくんが名前をつけたの」


「そうか。まぁ、いいぜ。みんなで楽しんだ方がいいからな」


 セインドの言葉にビルルは肩をすくめる。シュウは彼の言葉にホントに差別しないんだなと驚いた。

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