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第40主:屋台巡り⑶

 ランダム焼きの中には餅やチーズ。タコやキムチ。それにウインナーや何も入ってないものまで多種多様なものがあった。

 何も入ってないものは生地にタレや出汁が練りこまれていた。そのため味もキチンとしていた。

 ランダム焼きもフルーツミックスジュースと一緒で好評だったので、すぐになくなった。


「そういえばシュウくんに何か買ってくるみたいなこと言っていたのに何も買ってこなかったね」


「並んでいたからな。まだ祭りが始まったばかりだというのにすごい行列だった。だから、諦めて何も買ってこなかった」


「もしかしてアレを買ってこようとしたの?」


「アレって?」


「サイフォーテの照り焼きだ」


「サイフォーテ?」


「この世界の代表的な肉のことよ」


「代表的な肉ですか……」


「そう。口の中に入れただけでとろける肉よ。アレを照り焼きにするのは至難の業なの。だって、熱に弱いからね」


「そういえば、ふと思ったのですが、この世界で野菜や肉。魚や果物はどうしているのですか?」


「言いたいことはわかるよ。そして、考えている通りよ。それらは生き物よ。野菜や果物も光合成などして育っているのだからね。だから、死なないはずなのにどうやってわたしたちが食べているんだということね」


「はい。死がないはずなのにどうしているのかなぁと」


「理由は至極簡単。麻酔で眠らせて、その間に痛みを感じないように切り落としているの。この世界は死がないから、骨からでも復活するのよ。だから、ごっそりと取っても問題ないわけ。ちなみにその麻酔は特殊なものもあって、繁殖が早くて、これ以上増えても困るという相手に打ったら、生殖本能が薄れるの。スゴいことに麻酔はどんなものにも打ち込めるの」


「へ、へぇー。そ、その割には安いですね。手間がかかっているのに」


「やっているのが人間じゃないから人件費は無いのよ。ちなみにやっているのはPLO-03GWと同じ魔力人形や、ただの使い捨ての作業用アンドロイドだよ」


「ハイテクですね」


「千年以上も不死身なら、こうなるよ。でも、うちはまだマシな方よ。スゴイところだと、死なないのに生への執着があり、殺戮兵器や新薬を次々に作り出して、医療などが発展しているのよ」


「その言い方だと、この国以外にも国はあるのですか?」


「そりゃあ、あるよ。交流がないから国名はないけどね。そこには同種族だけ集まっていたりするのがほとんどよ。それに死がないから争いも起きないし、奴隷が生まれたりしないよ。ある二人は除いてね」


 彼女が言った、ある二人とは確実にサルファとヒカミーヤのことを指している。


「な、なら、殺戮兵器を作る意味はあるのですか?」


「あるよ。ここ以外の他国には、よく異世界人どもが来て、この世界の住人を連れ去っていくの。だから、ここクラウダー学園がある、この国が一番安全で、一番守りが強固で、一番他世界が攻めに来ないの」


 彼女の言葉に最初がこの国で良かったのかと疑問に思う。自分がこんなに報われていいのかと思う。その気持ちが自分に対する苛立ちへと変わっていくが、自分の内のみに抑える。


「はい! この話は終わり。何か飲み物探そうぜ。何か希望はあるか?」


「「「「特には」」」」


 セインドの言葉に全員が口を揃えて同じことを言う。あまりの息のピッタリさに苦笑を浮かべる。近くの飲み物が売ってる屋台を探すことになった。


 時間が少しかかると思っていたが、すぐに見つかった。というか辺りを見回すと一瞬にして見つかった。


「なら、ボクが飲み物買ってくる」


「あっ。お、俺も付いていく」


「そうか。わかった。なら、一緒に行こうか」


 男子二人が買いに行く。


「なら、オレも」


 サルファも行こうとしたが、二人に腕を掴まれて、止められる。数百年前までは彼女もあっち側だったが、今はこっち側になってしまっている。


 結局は今の男女で別れることになった。


          ♦︎


「なあシュウ。何がいいと思う?」


「うーん。どうだろう? 驚くことにまだ出会って二日目だからな」


「なるほどな。まぁ、一日ずつが濃いからな。特にこの世界に来た人は」


「確かに」


「よく考えればヒカミーヤとサルファには何でもいいと思うぞ」


「それは奴隷だからということか?」


「違う違う。まぁ、ボクたちが悪いんだけど、二人はずっと牢屋にいたから、なんでもご馳走になると思う」


 セインドは周りには聞こえないように小さな声で言う。


「なら、ビルルさんだけだな。それは任せる」


「えっ? どうしてボクだ?」


「一緒にいる歴が長いよね」


「確かにな……。わかった。そうする」


「ありがとう。それで屋台はどこに?」


「付いてきてくれ」


 先を歩いたセインドにシュウは付いていき、アテがある屋台巡りをする。


          ♦︎


「さて、二人に聞きたいことがあるけどいいかな?」


 ビルルの質問に二人は首をかしげる。あまりの息のぴったりさに苦笑が浮かぶ。


「明朝から特訓するのだけど、ホントに見るの?」


 二人はコクリと頷く。


「なら、先に忠告しておく。わたしは生半可な気持ちで特訓させるつもりはない。だから、止めに入られたら困る」


「それほど危険なことを?」


「うん。恐らく、明日の朝に彼は百近いか超えるほど死ぬ。わたしが殺す。だから、邪魔されたら困るのよ」


「そ、それは……」


「オレは止める気なんて、さらさらない」


「えっ!?」


「へぇー。どうして?」


「ここは死のない世界。一時的に死ぬけど完全に死ぬことはないから。完全に死ぬのなら流石に止めるが、完全に死なないから問題はない。むしろ、その方がこの世界の厳しさが伝わると思う。その厳しさに負けるのならオレたちが彼を守るのみ。元々はそれがオレたちのホントの役目」


「言われてみれば確かにそうですね。妾たちはあの方の肉壁なのですから」


 二人の言葉を聞いた瞬間にビルルは目をスッと細めた。その目はまるで彼女たちに以前まで向けていた侮蔑の目。


「そう……。よく考えたら二人と友達という考えが異常なのね。わたしは二人とは前までと同じ扱いをするよ」


「それが正しいかと」


「そんなにもシュウを殺したくないなら、殺さなかったらいいだろ?」


「はっ? 何を言っているわけ? 今のでどうしてそんな考えが浮かぶ?」


「そんなこと言うなら、その表情をやめれば?」

 

「その表情って一体なん」

「不躾ながらも話を割り込ませていただきます」


「なに?」


 ビルルは少し怒り気味だ。


「あなたからは今、自己犠牲の念が出ています」


「はぁ?」


「恐らくは異世界人であるシュウ様を救ったのが、家族にバレたのでしょう。そして、昨晩家族に言われたのでしょう。異世界人を殺せと。何度も何度も何度も何度も無数に殺せと。ですから、今朝シュウ様を突然、殺した。違いますか?」


「違う」


「嘘ですね」


「違う! これはわたしが勝手にやってることは家族は関係ないっ!」


「少々威圧を出した瞬間にこれか。確実に家族からの命令だな」


 三人の間にピリピリとした空気が漂う。

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