第1話:異世界での遭遇
今回の話の挿絵はガブリエラ可愛いさんからいただきました。
キャラ設定があんまりできていなかった時に描いてもらったので、服や髪色は違いますが、こんな状況です。
ありがとうございます!
シュウは目を覚ました。その瞬間、濃い自然の匂いが肺に入って来た。
シュウは一気に意識が覚醒して、起き上がってから辺りを見回す。
木々が生い茂っていた。そして、雨が降ったばかりなのか地面がぬかるんでいて、そのせいで体の背中側が全身泥まみれになっている。
そのせいで不快感が凄まじく、風呂に入りたいとシュウは考えた。だが、森の中に風呂などあるはずないので、水辺を探すことにした。
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少し歩くと、小さくてキレイな湖が出てきた。
水も透き通っていて、中が丸見えなので魚とかがいたり、底が深くないことは確認できた。それと同時に今の服装も反射される。
フード付き灰色のパーカーと黒色のジーパンだった。
生前の服装と変わらない。
シュウは服を脱ごうとしたが、体の背面がドロドロなので、体の汚れと服を流そうとしても手間なだけだ。
「俺なんかが汚してゴメン」
誰もいない湖に謝罪をしてから、シュウは湖に入った。
思ったより冷たかったので、心臓がキュッとなる。同時に心臓の鼓動がバクバクと早くなる。我慢しているとすぐに水の冷たさに慣れたようで、心臓の鼓動も落ち着いた。
シュウは湖で仰向けで浮かび始めた。じんわりと泥が水で落ちていく。だがそれだと、時間がかかるので湖の底に膝をつけて、後頭部や背中などを擦り、汚れを落としていく。
数分後、不快感がなくなり、汚れが落ちたようなのでシュウは湖を出た。だが当然、服が濡れて別の不快感が出てきた。
服を乾かすのと、ここがどこかを探るため、湖の周辺を散策することにした。
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辺りは木々があるだけで、人の気配など一切ない。代わりに獣の類の気配はなんとなく感じる。
心許ないが、護身用に落ちていた太めの枝を拾う。
ぬかるみなどに足を取られないように、ゆっくりと散策を続ける。
景色は変わらず、ずっと同じような木が生えている。普通なら迷うだろうが、幸いなことにこの辺りにはシュウしか人はおらず、土もぬかるんでいるため、足跡で通った道がわかる。ただ、それも獣などに足跡を消されなければの話だ。どこに獣がいて、足跡をいつ消すかわからない。そのため遠くまで行く気はあまりない。
ガサッ。
「っ!?」
突然、草むらを揺らす音が聞こえた。シュウは慌てて音が聞こえた方を見る。すると、草むらから得体の知れないものが姿を現した。
姿は全身が金色でゲル状の体を持っていた。色は違うが、シュウにはその見た目に心当たりがある。
「スライムというやつか?」
シュウは呟いた。聴覚があるかわからないが、スライムはシュウの呟きを聞き、存在に気付いたのか、跳ねながら方向を変換した。顔がないのでわからないが、スライムは恐らくシュウの方を見た。
スライムはポヨンポヨンと跳ねながら、シュウへ近づく。ただ、速度は遅いため逃げるのは容易だ。
シュウはその場から離れる。ポヨンポヨンと跳ねて近づいて来るが、もちろんスライムは追いつかない。
このまま逃げ切れる。
シュウがそう安堵した瞬間、スライムの体が急に伸びて、シュウへと近づいてきた。
「マジかよッ!」
流石に予想外だったため、思わず声が出てしまう。だが、反射的に木の枝を構えたおかげ、スライムは木に触れた。その瞬間、ジューと音と煙を立てて、木が溶け出す。
「っ!?」
シュウは慌てて木から手を離すと、まるで吸い寄せられるかのようにスライムが木へと辿り着いた。当然、溶けるのは収まらない。むしろ、スライムが木に覆い被さったことにより、溶ける速度が早くなる。その光景を見た瞬間、シュウは来た道を走り出した。
スライムは木や草、地面などに体を伸ばしてシュウに近づいてくる。スライムが触れるたび、ジュという音を立てて全てが溶けていく。
何かに触れれば、一瞬だけ硬直時間があるようだ。そのおかげで追いつかれることはない。
湖からそこまで距離がなかったので、すぐに湖に辿り着いた。
今は逃げることができている。だが、いずれ体力が尽き、追いつかれることになる。そうなれば終わりだ。
シュウは打開策を考える。だが、悠長に考えている時間はない。すると、ふと一つの案が浮かんだ。
スライムは水に入れると動きが鈍くなるかもしれない。
そう考えたシュウは、身代わりになる石を湖付近で走りながら拾ってから湖に入った。
シュウも水の抵抗で動きが遅くなった。それでも、できる限り陸地から離れる。
シュウが湖の真ん中くらいまで来たタイミングでスライムも湖の陸にやってきた。スライムはすぐにシュウを見つけ、飛びかかってきた。そのスライムに合わせて、手に持った石を投げた。スライムは石を覆い尽くし溶かした。そして、そのまま湖の上に落ちた。
これで動きが鈍くなる。
少し安堵していたが、すぐにその安堵は無意味だと知る。なぜなら、スライムが水の上に落ちた瞬間、水すら溶かし、ゲル状にしていく。
「は?」
予想外すぎる光景に呆気に取られてしまう。それが命取りだった。
スライムが飛びかかってきた。呆気に取られていたシュウは反応が遅れ、そのままスライムに飲み込まれた。
ジューと全身から人間の体から鳴るはずのない音が鳴り出した。だが、意識した時には全身が溶け出していて、気が付けば既に両手足が溶けていた。
明らかに正常ではない状態のはずなのに、なぜか意識はしっかりと残っていた。
(美佳ゴメンな。お前は行けなかった異世界で生きることになったのに、こんなに早く終わってしまって。こんな不甲斐ない兄ちゃんだと、お前に顔向けできないよ。だから、美佳。お前だけでも天国で幸せに過ごしてくれ。兄ちゃんのことなんか忘れてさ)
シュウは妹に謝罪する。
数秒後、シュウは無くなった。
亡くなったのではなく無くなった。