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第33主:カフェ・リオーネ

「さて、これからどうする? 夜店が出るまで少し時間があるけど」


「そ、それなら行ってみたいところがあるのですけど……」


「うん。いいよ。それなら行こうか。シュウくんが行きたい場所に」


「ありがとうございます。そ、それではついてきてください」


 シュウは歩き出す。その後ろから三人がついていく。


「あっ」


 突然、声出したかと思うと歩みを止めずに背後へ振り返る。


「三人とも。その格好似合ってますよ」


「「「えっ?」」」


 突然すぎて、三人は目を丸くする。


「服装が変わっているのに気づいてないと思いました?」


 ビルルは赤くて無地の丸襟のTシャツの上に黒色のロングカーディガンという長いカーディガンを着ている。

 下は白い短パンでサイハイブーツという長いブーツを履いている。色は黒。もちろん、タイツを履いている。


 ヒカミーヤはビルルと色違いのTシャツの上から、黒いジャケットを羽織っている。

 下は膝丈くらいの藍色のスカートで、ボーンサンダルという多くの皮のストラップで固定している。色はオレンジ。靴下は一切履いていない。


 サルファはボタンが胸元に二つ付いている水色のTシャツを着ている。彼女は胸が大きすぎるので、ボタンは二つとも開けている。なおかつ元は男なので上から何も羽織っていない。

 下は黒色のジーパンを履いている。黒の線が入っているだけの白色のスニーカーを履いている。


 サルファ以下はオシャレに気を使っていることがわかりやすいので、シュウは自分がシンプルすぎると思った。だからこそ、サルファの姿は少し安心できる。


「それでは行きましょうか」


 シュウは気づいてないが、ビルルとヒカミーヤは頬を紅潮させている。そんな二人の姿にサルファは気づいているので、ニヤニヤしながらも先に歩いているシュウのあとについていく。


「さっ。行こうぜ」


 二人の横を通り過ぎる時に彼女は背中を叩いて言う。こういう時だけは、セクハラとして訴えられないから、女の姿でよかったと思う。それに彼女はもう六百年ほど前に女の姿にされたので、人生で女としての期間の方が長い。そのため慣れてはいる。でも、男に戻りたいという気持ちは消えない。そもそも未だに男としての癖が直っていない。直そうとしていないので、当然といえば当然だ。


 二人が付いてきているのを確認すると、彼女は彼の横に並ぶ。


「でっ、どこに行くつもりなんだ?」


「す、すぐですよっ! す、すぐわかりますっ!」


 シュウは顔を真っ赤にしながらも、顔を背けている。不思議に思ったが、すぐにサルファは自分が前屈みでシュウの顔を覗き込んでいることに気づいた。それだけならいいのだが、今、彼女は胸元のボタンを全開にしている。だから、彼女の大きな胸によってシャツは押しのけられている。そのため今、彼に自分の胸の谷間を見せていることになる。彼はそういうことに免疫がないので顔を真っ赤にしているのだ。


 理解した瞬間に彼女は悪巧みしているかのような笑みを浮かべている。


「なぁあ。教えろよぉぉ」


「ちょっ!?」


 胸をシュウの腕に押し付けながらも、谷間を見せるかのように前屈みになりながら言う。だからこそ、シュウは顔を真っ赤にする。


 見ていて彼の反応が面白くなったサルファは胸をさらに押し付けて「ねぇ〜」という甘えるかのような声を出しながら、ピョンピョンと跳ねる。


 サルファは元男であり、元勇者だ。そういう知識は山ほどあるため、この行動がシュウにどのような連想をさせるかも安易に予想がつく。


 案の定、彼は蒸発するのではないかというくらい、顔を赤くする。そのせいか彼は立ち止まってしまう。


「ねぇ〜。早く〜」


 またもや甘い声を出す。今度は瞳も潤ませる。


「やめてくださいっ! シュウに迷惑ですよっ!」

「イテッ」


 シュウからサルファを無理矢理に離した、ヒカミーヤがサルファの頭に軽くチョップをした。


「邪魔しないでくれよぉ」


「邪魔なのはあなたですよ。シュウの邪魔になっていますし、他の人の通行の邪魔にもなっています」


「君は真面目だねぇ。ここにオレたち以外の通行人はいないのに」


「それでもですっ! いると思っておかないとすぐに対処できませんよ!」


「ヘイヘーイ。わかったわかった。以後気をつけまーす」


「今後したら今のだけではすみませんから」


「すみません。二度としないです」


 ヒカミーヤとサルファの掛け合いを残された二人はポカーンとした表情で眺める。二人とも、サルファがヒカミーヤの尻に敷かれているとは思ってなかったのだ。そもそもよく知らないシュウからすると、ヒカミーヤがあんな強気な態度を取れる時点で不思議だ。


「目的地はどこですか? 行きましょう」


「あっ、は、はい」


 ホントにヒカミーヤ本人なのかと疑問に思いながらも、彼は歩みを進めた。それほど今のヒカミーヤとシュウが知っていたヒカミーヤが違うのだ。


 それから数分後に目的地のカフェ・リオーネに着いた。


「へぇ〜。オシャレなカフェね。こんなのがあるなんて知らなかったよ」


 ビルルはそう言ったけど、シュウは首を傾げることしなできない。そもそも彼は案外見たことあるのだ。見慣れすぎて、オシャレかもわからない。


 カフェ・リオーネは名前の割には日本に昔からある茶屋みたいな外装だ。一応、彼が住んでいた地域は茶屋はたくさんあった。もちろん、京都などの古都と比べたら圧倒的に少ない。


「と、とりあえず中に入りましょう」


 三人がコクリと頷いたのを確認して、中に入った。


「いらっしゃいませ。四名様でよろしいですか?」


「はい」


「でしたら、お席にご案内させていただきます」


 店員は和服を着ながら、上からエプロンと三角巾をしている。中も完全に茶屋と変わらない。


 店員に案内された席に座る。案内された場所は日本庭園が広がっていた。それを見て、彼は郷愁の念を抱く。だけど、帰れなさそうだし、帰りたくもないのでその気持ちは意味がない。


「こちらお冷になります。ご注文がお決まりでしたら、そちらのボタンを押してください。(わたくし)に念話が通じます」


「わかりました。ありがとうございます」


「ごゆっくりどうぞ」


 店員は去っていった。


「まさかこんなところでも、念話がいるとは思いもしませんでした」


「まぁ。念話はとても一般的な通話手段だから仕方ないよ」


「ハハッ。そうですか。早く使えるようにならないとですね」


 シュウは微笑みながらも、メニューを差し出す。


 机を挟んだ正面にはビルルとサルファがいて、隣にはヒカミーヤがいる。


 ヒカミーヤとビルルの二人は、先ほどのことがあり、サルファにはシュウの真横にしばらくいさせないつまりらしい。


「シュウはどういたしますか?」


「うーん。うおっ!? ホントにメニューが豊富だな」


「確かにそうですね。高級料理もありますし、庶民料理もあります」


 ちなみにシュウはまだ字をすぐには読めないので、写真を見ての反応だ。そんな彼の横でヒカミーヤは顔を真っ赤にしている。彼はそのことには気づいていない。気づいている対面の二人からニヤニヤされているが、それも彼は気づいていない。


「なら、俺はこれにしようと思います」


「ガ、ガッツリ系ですね。さ、さすがは男性です」


「あ、ありがとうこざいます。で、でも、これくらいは俺にしたら間食なので……」


「そ、そうなのですか……」


「き、君はどれにしますか?」


「わ、妾はこれで」


「オ、オシャレですね……」


「二人とも決まった? なら、注文するから指差して」


 コクリと頷いたのを見て、ビルルはボタンを押す。どのタイミングで指差せばいいのかわからないので、二人は最初から写真を指差す。

 メニューは全品写真付きなのでわかりやすい。


 ビルルは目を閉じている。恐らく念話を送っているのだろう。


 一分くらい経つと彼女は目を開けた。


「そういえばどうなるんだろうね?」


「と、突然なんですか?」


「いや、よく考えればシュウくんは昨日、コウスターに負けたじゃない。だから、それでどんなことを頼まれるんだろうと思ったの」


「あぁー」


 忘れていたが、決闘に負けると相手の言うことを何でも聞かないといけないのだ。決闘に負けたことは覚えていたのにそのことは忘れていた。そのことを誤魔化すかのようにお冷を口に含む。


「体を求められそうね」


「「ブフォッ!!」」


 突然、彼女の言葉に思わず口に含んだお冷を吹き出してしまう。


 ーー吹き出した音が俺以外にも聞こえたけど、誰だ?


 彼は疑問に思い、三人を見回す。しかし、誰一人として吹き出していなかったので、気のせいのようだ。


 すぐに冷静をシュウは取り戻した。その冷静さからビルルが言ったことは(あなが)ち間違いではないと考える。


「よく考えたら、その可能性ありますね」


 彼が言った瞬間にガタッ! という物音が聞こえた。しかし、どうやら隣のテーブルの人がつまずいたらしい。自分の言葉のせいではないとわかり少し安心した。

 でも、二重に聞こえた。腑に落ちないが聞き間違いだろうと結論づける。


 どうやら背後のテーブルの人が帰るらしい。でも、今の彼には関係ない。


「その考えがどうしたら出たの?」


「よく考えればサンドバッグになるとかも体目的だなと」


「わたしはそのつもりで言ったのだけど、シュウくんは何と勘違いしたのかな? ん?」


「き、ききき気にしないでください!」


「まぁ、いいけど」


 ビルルの言葉に焦ったが、最終的には追及をしてこないので、ホッと胸をなでおろした。

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