第23主:喧騒に包まれていた部屋
「失礼します。学園長」
そう言って入ってきたのは、もしかすると二メートルに届いているかもしれないほど高身長の青年。
髪は青く、女性のように長い。赤い紐で長い髪を一つに結んでいるが、それでも毛先が腰に届くほどだ。そのため横髪も首の真ん中くらいまである。前髪も長いが横髪や後ろ髪と比べたら、短い。だとしても、毛束がヒョコッと出ていて、顎に届いてしまっている。
瞳は髪とは対照的に赤い。ケガでもしているのか、左目は黒い眼帯で隠している。目つきは鋭いが、優しさが漂ってくる。恐らくは中性的な顔立ちだからだ。ガタイもいいというわけではなく、良くも悪くもない。しかし、二メートル近くの人にすれば、少しだけ細い。
「この子たちが今日からあなたのクラスに編入する三人よ」
「あ、アサヤ・シュウです。異世界人です」
「サルファ・K・アセリーンです。元勇者です」
「ヒカミーヤ・J・マルキサチです。元魔王です」
「うん。知ってる。三人とも有名人だからね。僕の名前はアストーラ・W・クライドだよ。気軽にトーラと呼んで。今年で48歳の新参者さ」
「お……僕は」
「俺でいいよ」
「お、俺は今年で18歳です」
「オレは今年で1024歳です」
「妾は今年で1011歳です」
「ちなみにワタシは今年で824歳さ」
周りの年齢の桁が違いすぎて、アストーラ・W・クライド。通称──トーラに親近感を覚える。
「三人ともこれからよろしく」
トーラは大きな手を差し伸ばしながら言う。恐らくは握手しようという意味なんだろうとわかるが、三人とも戸惑ってしまい動けない。
「あ、あの……」
「どうしたの? アサヤくん」
「せ、先生は俺はみたいな異世界人やサルファさんとヒカミーヤさんの二人を差別しないのですか?」
「どうして? 異世界人というのなら僕だってそうだよ。まぁ、赤子の頃に捨てられたから、この世界の住人みたいなものだけどね。それにホントにこの死ねない呪いは二人のせいなのかわからないしね」
「いえ、それはないです」
「どうして否定できるの?」
「妾たちが死にたくないと祈ったらこうなったのですから」
「生き物なら誰でも死にたくないと思うのは普通と思うな。もしかすると、二人がそう望んだ瞬間に運悪く魔女が不死の呪いを使ったのかもしれないよ」
「魔女?」
シュウは一歩下がり呟く。
「魔女というのは魔物でも人間でもない。そして、亜人種でもない人型で意思と知識がある存在さ。魔女はワタシが小さい頃から嫌悪されている。さすがのワタシでも魔女は差別してしまうけどね」
エルリアードが一歩前に出て、シュウの横に並んで解説してくれた。
「へぇー。そうなのですか」
「それとアサヤ・シュウくん。気をつけたまえ」
「ま、魔女にですか?」
「違う。アストーラ・W・クライド先生にだ」
「ど、どうしてですか? もしかして魔女と関係が?」
「それはないと断言できる」
「でしたら、どうしてですか?」
「彼は人たらしだ。特に女性はよくたらし込まれている。だから、あの二人が奪われるぞ。すでに奪われかけているしな。その証拠によく話している」
「別に構いませんよ。俺のものでもないですしね。それに二人が幸せになるのでしたら、むしろ歓迎します」
シュウの言葉を聞いて、エルリアードが目を丸くしている。
「寂しくないのか?」
「少し寂しいですけど、大丈夫です」
優しい目をしている。そんな彼の目は遠くを見ていて、何かを思い出しているかのようだ。でも、シュウの優しい目にはキチンと二人は映っている。楽しそうにトーラと話している姿が映っている。
普通なら少し気分を悪くなるはずだが、彼はホントに安心できた。
今、この学園長室にいるシュウを含めての全員が二人に辛く当たったりしない。差別しない。一人の人間として接している。彼はそのことに安心し、嬉しく思っている。
トーラが、たらしのせいか二人にボディータッチをしようとしている。嫌がらないなら特に問題ない。でも、触れられた瞬間に二人ともビクリと飛び上がり、シュウの後ろに隠れた。そして、生まれたての子鹿のように全身を震わせている。
二人のその反応に三人は驚いた。シュウに至っては妹のことに想いを馳せていた。そのため話を聞いていなかったので、どういう会話をしていて、どうしてこうなったのかわかっていない。
ただ、震えている二人を優しく抱きしめた。
「わぁお」
「男だねぇ」
「えっ!? ちょっ!? えっ!?」
「ど、どどどどどうしたのですかっ!?」
四人の反応が見事に二つに別れた。
エルリアードとトーラはまるで面白いものでも見ているかのようにニヤニヤとしている。
サルファとヒカミーヤは顔を真っ赤にして頭がまともに働いていない。
シュウは妹にやっていたことをしているので、おかしなことをしている実感はない。彼の経験上だと震えていたら抱きしめると、ほぼ百パーセント震えがなくなる。
そして今も震えがなくなった。だから、二人を解放した。相変わらず二人は顔を真っ赤にしている。それを見て彼はようやく気づいた。
自分がやったことに。
彼も一瞬にして顔を真っ赤にした。
「も、もももももっ!! も、もも申し訳ありませんでした!!」
ーー俺はなんてことをしてしまったんだ!
彼は土下座する勢いで正座をして頭を地面につけようとしたが、トーラに軽いゲンコツをコツンと打たれたので、冷静さを少しは取り戻した。
「つ、つい。妹にやるようにしてしまいました!」
言い訳を述べる。
「き、ききき気にしないでください!」
ヒカミーヤが慌てている。サルファはまだ放心状態だ。
「さて、三人とも。そろそろチャイムが鳴るから、行くよ」
三人は先に進んだトーラのあとを追いかけた。
四人が完全にいなくなると、先ほどまで喧騒に包まれていた部屋が静寂に包まれる。そのせいで少し悲しく感じた。
「これも小さな波乱の一つか……」
エルリアードは机に戻り、シュウの履歴書的なものを眺める。何かおかしかったのか首をかしげる。
「妹がいるなんて記述はどこにもないのだけど……」
女神に文句を言ってやろうと考えた。
『……にい……さん』
「っ!?」
突然、頭に現れたセピア色の光景。そして、雑音混じりの自分の幼い声。どこか懐かしさを感じて、息を飲んだ。でも、エルリアードに兄はいない。
「ワタシに兄は……っ!?」
兄はいないという事実を口に出そうとすると、何も起きていないのに苦しく感じた。そのために事実を口に出すことはできなかった。




