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第17主:余裕なんて持てるはずがない

 シュウが借りた短剣とコウスターのオーダーメイドの薙刀が接触しそうになる。でも、嫌な気配を感じた彼はギリギリのところで後退する。


 すると、先ほどまで彼がいた場所に炎の壁ができている。今もあそこにいれば戦闘不能になり、コウスターの勝利となるところだった。


「へぇー。察しはいいわね」


「…………」


 コウスターは余裕をかましているが、シュウには余裕がない。いつどこから攻撃が来るかわからない。

 相手は魔法を使えるのだ。魔法を使えない彼が圧倒的に不利なのはわかりきっている。それでも、彼は戦うしかないのだ。


「スー……ハー……」


 彼は焦りそうになる心を深呼吸で落ち着かせる。焦っていれば、つまらないミスをしてしまう可能性が出てくる。


「なら、マトモに戦ってあげるわ」


 彼女が少し笑顔で言うと薙刀を宙に投げる。


『我が力となれ』


 唱えるかのように言ったかと思うと、彼女の目の前に火の玉が浮かび上がる。彼は何かあると思い、敢えて近づかずにその場で逆手に短剣を持っている手を前にして構える。


 宙に投げていた薙刀は火の玉の上に落下した。すると、薙刀全体が炎に包まれた。だというのに彼女は素手で掴んでいる。そして、それを彼に向けて投擲(とうてき)した。


 凄まじい速度なので避けることは叶わないと考えたので、体を縮こめて短剣で防ぐようにする。運がいいことにそのことによって、短剣の刃によって受け流されて方向が変わった。


 でも、すぐに彼女が中指をクイッと自分の方に折り曲げると、受け流したはずの薙刀が方向転換して彼に迫る。そのことを察していた彼はスレスレのところで避ける。


 バイトを掛け持ちしていたので、体力もあるし柔軟性もある。だからこそ、避けられたのだ。彼女の手に戻った薙刀は未だに炎に包まれている。


「へぇー。アレを避けられるとはね。でも、まだまだだわ」


 すると、彼女の姿が消えた。神経を研ぎ澄ましながら、辺りを見回してみるが、やはり見当たらない。そんな彼を見て観客席がザワザワし始める。きっとどうでもいいことを言っていると考えた彼の耳には届かない。


 次の瞬間に首に熱を感じた。そして、背後から吐息が聞こえてきた。だから、彼は回し蹴りを打ち込んだ。


「うっ!」


 彼女のうめき声が微かに聞こえた。


「やるわね。この私に一発でも攻撃を当てられたんだか、誇っていいわ。まぁでも、今から本気で壊しにいくから意味ないわ」


 殺すではなく壊すと言ったところに彼女の気持ちがよく伝わる。


 シュウを人間とは思っていない。そして、例え殺したとしても殺し続けて壊すという意思を彼は感じ取った。


 彼女の瞳は真剣そのものになった。今からは本気で殺しに来るだろうと容易くわかる。その証拠に少し離れていた彼女が一瞬にして間合いを詰めてきた。


 薙刀は捨てている。今、彼女の手にあるのは一本の片手剣。キチンとした鋼で、さらに驚くほどの鋭さが見るだけで感じ取れるので、業物(わざもの)だと素人のシュウから見てもわかった。


 どうやら改造着物に隠していたようだ。審判の方を見ても、何も言わないのでルール違反ではない。


 恐らく彼女のホントの得物(えもの)は片手剣なのだろう。今までの薙刀は最近になって使い始めたということだ。


 彼女は片手剣を振るった。でも、あまりにも早すぎて斬撃は見えない。もちろん、そんな斬撃に彼はステージの端まで吹き飛ばされる。


「ガハッ!」


 壁にぶつかった瞬間に速度が遅くなった。彼の口から肺の空気が一気に抜けた。でも、地面に落ちた瞬間に立ち上がる。


「まだ……まだぁ!!」


 彼は吠える。その姿をまるで虫ケラでも見るかのような冷たい目で見て、距離をまた一瞬にして詰められた。


 彼女は斬撃を繰り出した。でも、彼はホントにギリギリのところで避ける。その甲斐もあってか、彼女の片手剣が地面に埋まる。それに連鎖して彼女が立っている地面も崩れた。だから、彼女は地面に埋まった。


 完全に身動きが取れない状態になっていた。それがチャンスだと思い、シュウは彼女の首に向けて短剣を振り下ろしたが、胸のあたりから取り出した小刀で短歌が弾き飛ばされた。そのせいで今の彼は無防備となる。


 もちろん、彼女はそんな相手を逃すほどのバカではない。でも、ホントに逃がさないのかはわからない。まだ地面から脱出できていないからだ。


 警戒をしているため相手には背中を見せないようにして彼は自らの短剣に近づいていく。

 彼女は身をよじって脱出を試みている。

 どちらが先にマトモに動けるかは誰にもわからない。


 相手に邪魔されるまでにシュウは短剣を拾うことに成功した。同時にコウスターも抜け出した。


 彼女は彼に向けて駆けた。でも、移動速度が早くて駆けたようには見えなかった。ホントに一瞬にして距離を詰められた。その証拠に彼の胸に刃が刺さった。危険を察知した彼がすぐさま身をよじったおかげで、軽く刺さる程度で済んだ。


「チッ!」


 彼女が舌打ちをしたかと思うと姿が消えていた。すぐに浅いが彼の体全身に切り傷が増える。どこから攻撃を受けているかわからない。それがわかるまでは永遠に斬りつけられていきそうだ。シュウ自身は痛みに耐えるしかない。


 一瞬でもいいから、隙ができない限りは彼に勝ち目はない。このまま斬られ続けて、負け()を待つだけになる。それだけはあってはならない。彼はそう感じているため、隙を見つけ出そうと躍起(やっき)になっている。でも、そんな心待ちでは見つかるはずがない。


 心に少しは余裕を持っておかなければ灯台下暗しという状況に陥りやすい。だけど、今の彼は余裕なんて持てるはずがない。そもそもコウスターの姿すら確認できていない。


「ガッ!」


 彼は斬られすぎて少しだけ粘質な血を吐いてしまう。そんな彼の姿を見て、哀れなものでも見るかのような表情をしている。でも、ニタリと女性にしたら、どうかと思う笑みを浮かべている。


 彼は口に付着している血を拭う。そして、彼は彼女に向けて駆けた。あくびをしながら避けられる。その余裕が仇となり彼女に隙が見えた。彼は彼女の首を短剣で狙う。完全に殺すつもりでいる。


 だというのに彼女はニヤリと笑みを浮かべたまま。彼はそのことに気づいていない。もう、一点しか見ていない。彼女の首へと短剣が徐々に近づいていく。


「っ!?」


 殺せると思った瞬間に頭に妹を殺した光景が浮かぶ。殺すのを戸惑ってしまう。


「あああああああああああああああああああああっ!!」


 叫びながら短剣をそのまま下に下ろしていき、彼女の右足の太ももを軽く削がれた。


「あ……ああ…………」


 コウスターは一歩ずつ後退する。


「ああああああああああああああああああああああああっ!!」


 彼女が叫ぶと髪と同じ色の水色の猫耳が生えているのを目の当たりにした。


 太ももが削がれているのにもかかわらずに、先ほどよりも速い速度で彼に襲いかかった。次の瞬間に彼は体を真っ二つにされた。なのにそれだけでは我慢ならないのかコウスターは二つになった体を交互に刺したり、細かくしたりしている。


 痛みを感じない。かなりマズイ状況なのはわかりきっている。だからか、学園長であるエルリアードがコウスターを止めた。お陰で彼は死ぬことができた。

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